こらぼでほすと 逆転
「年下だから、ここで待っているという選択もあるんだがね? 」
「いや、それは、申し訳なくて・・・・」
「まあ、いいからさ、ロックオン。おまえさんの歓迎会だから、主役は座ってろ。」
ハイネが、グラスをどんどん机に並べつつ、そう説明する。いつから、そんな名目できたんだよ、と、ロックオンはツッコミを入れるが、今、そう決めた、と、容赦なくトダカに言い切られると動くことも出来ない。買出し部隊が戻って来て、賑やかに飲み会は始まった。
「うちの新人のロックオン君だ。よく顔を覚えておいてくれ。」
一応、トダカ親衛隊との顔繋ぎの意味もあったのか、トダカから紹介された。こっちは、オーヴの現役軍人たちだ、と、ロックオンにも紹介される。
「我らは、トダカ親衛隊と申して、トダカの私的な団体だ。もし、我々で力になれることがあれば、遠慮なく申し出てくれ。名前は、まあ、その都度、覚えてくれればいい。」
アマギから、そう言われて、はあ、と、ロックオンは大人しく頷くしかない。さすがに、どっかの現役軍人さんと仲良くしているのはマズイだろうと思って、曖昧に笑って流すつもりだった。
「うちの親衛隊は、カガリ姫の直属部隊になっていてね。きみの組織との橋渡しの役目をさせてもらっている。」
「はい? カガリ? 」
「ああ、きみは顔を合わせたはずだが、忘れているのかな。」
いや、あの強烈なのは忘れないだろう。というか、なぜ、うちの組織とオーヴが繋がってんの? という段階で、思考が停止する。もちろん、CBには協力者や監視者というものが、たくさんいて、それらと繋がっていることは知っているが、オーヴとは、なんの交渉もなかったはずだ。
「おまえらを捜して回収したのは、我々だが、その後、おまえたちのMSの修理や技術提供で、オーヴの一部が動いているんだ。」
実行者だったロックオンは、自分が斃れてからのことは知らない。誰も、その辺りについては語らなかった。その辺りについて、虎が説明する。全ては、キラの一言から始まっているが、救出だけではないのだ。その後のアフターケアについてもされている。
「CBが活動を再開すれば、オーブもプラントも没交渉になるだろう。そういう約束だからな。・・・だが、その再始動までの期間のフォローはされる。そのための顔繋ぎだと思ってくれていい。」
「けど、俺は・・・」
「ラボの仕事を手伝ってくれ。それで、CBとの連絡は簡単になる。子猫たちのことを心配するにしても、現状が把握できるほうが落ち着くだろう? 再開しても、あそこからなら援護の手配もできるし、情報も確実に早く届くからな。」
「つまり、オーナーは協力者になってくれたということですか? 」
「協力というよりは、子猫の安全確保が目的だと思うけどなあ。キラが、せつニャンのことを可愛がっているから、歌姫さんは、その意思を尊重しているんだ。」
壊滅的な打撃を受けているCBからすれば、有り難い申し出だっただろう。鷹の説明は、まあ、つまり組織が再始動して武力介入をして世界を変えることに手を貸すことはない、という意味だと、ロックオンは理解した。刹那たちの生命の安全のために動くことはあったとしても、敵に攻撃はしないということだ。
「ありがとうございます。」
それは、ロックオンにしても有り難いと思えた。長く生きていられることはないと、覚悟しているマイスターたちは、自分たちの生命なんて諦めているところがある。それを保護してくれるというなら、少し心配は軽くなる。
「俺たちも、ママと同じ実行者だ。トップが考えることに従うだけだよ。」
「まあ、そうだけど、実際、危ない橋を渡ってくれるのは、あんたたちだってことだろ? 」
「そう固く考えなくてもいい。うちは酔狂で暴れているヤツばかりだ。たぶん、鷹さんなんか、紫子猫の危機には喜んで飛んでいくことだろう。」
「おいおい、虎さん。俺だけ暴れん坊にしないでくれよ。あんたも、SMコンビは気に入ってるじゃないか。」
「SMコンビって・・・・それ、アレルヤとハレルヤのことですか? その呼び方はちょっと・・・」
「じゃあ二重人格とかがいいか? ママ。」
「鷹さん、俺も、ママと呼ばれるのは、ちょっと・・・」
「鷹さん、ロックオンは、チーママがいいと思うぜ? 八戒が、うちのクラブのママだからな。」
当人がいないから、ハイネも容赦がない。まあ、飲んで飲んで、と、ビールから、いきなり冷酒に切り替えて、ロックオンや虎のグラスに注いでいる。
「ほんと、おまえさん、年齢が十代なら、もろ俺の好みなんだけどねぇー。ついでに身長が、二十センチばかり低ければ、文句なく口説くんだけどなあ。」
「いや、口説かなくていいから。俺、ノンケなんで。」
「だから口説くなって、鷹さん。・・・・ロックオン、子猫たちが留守の間に、ナンパに行こうぜ。いいとこ紹介するよ。」
「ハイネ、独り者同盟とか作るなよ? 」
「誰も、そんな同盟作ってないだろっっ。」
わあーわあーと騒々しく、酒の瓶は空になっていく。元々、酒には強いはずだから、と、油断したロックオンが、二時間後に潰れた。
「だから、自覚しなさいって言ったんだよ。」
鷹の言葉を耳にしつつ、そういや、治療受けてから、ほとんどビールしか口にしてなかったな、と、気付いた頃には眠り込んでいた。
全ての臓器について弱っているから、と、説明されたことを思い出した。それまで平気で、酒瓶を空にしていた強固な肝臓も、その余波で弱っているらしい。そんなことを、つらつらと思い出して、目を開けたら、見たこともない天井だった。
・・・へ?・・・・・
ついでに、ガンガンと頭痛がする。二日酔いでもあるらしい。うわぁー最悪だ、と、起き上がって、部屋の扉を開いたら、これまた、まったく覚えのない間取りの廊下だ。どこなんだよ、と、廊下を進んでいたら、別の部屋からトダカがひょっこりと顔を出して、手招きしている。
「二日酔いだな? 」
「・・ああ・・・まあ・・・ここ、トダカさんちですか? 」
「鷹さんがお持ち帰りするっていうんで、アマギたちに、うちに運ばせた。酔ってると、あの人も危険だからね。」
「・・・すいません・・・」
「いや、こちらもうっかりしていたんだ。まあ、こっちへ来なさい。」
手招きしていた部屋は居間だった。そこのソファに座れと言われて、大人しくロックオンも座り込む。隣りの台所から、トダカが持ってきたのは、ほうじ茶に梅干がひとつ落とされているものだ。それから、居間のチェストから二日酔いのクスリを取り出して、それも置く。
「それなら飲めるだろう。」
いや、ほんと、すいません、と、ロックオンは平謝りで、それに口をつける。飲んだことのない飲み物だが、紅茶みたいなものらしい。
「今日は、ここで休んでいるといい。」
「・・・いや、そういうわけにもいきません。」
仕事が・・・と、言いかけたら、トダカが手で、それを阻止した。
「回復が遅いという自覚がないから、その言葉が出てくる。」
「・・あ・・・・」
「きみの指名は入っていないから、無理に出てくることはない。それに、きみは療養しているのだから、身体を休ませるほうが大切だ。」
作品名:こらぼでほすと 逆転 作家名:篠義