こらぼでほすと 逆転
起き上がれなくなったら、ラボでないと治療できません、と、ドクターから言われている。まず間違いはないだろうが、ドクターに確認してもらって、運ぶ算段もした。
「僕が行きましょうか? 」
鷹では心許ないと思った八戒が、看病に付き合おうと言いだしたら、「今回はいいよ。」 と、断られた。店の切り盛りをしている八戒やアスランを動かすと、店に支障がでる。
「その代わり、俺、しばらくは、ラボのほうを担当するから、指名の入った時だけ出勤にしといてくれるか? 八戒。」
「それは構いませんけど、大丈夫ですか? 」
「別荘には、管理しているのが数人いるし、手が足りなければドクターが看護師も呼ぶさ。」
以前の時は、四人のマイスターたちとの顔繋ぎの意味もあったから、一番付き合いができるであろう八戒や悟浄に白羽の矢が立った。だが、ロックオン一人だし、ドクターのほうで人手を手配してもらうほうがいいだろう。
「キラ、子猫ちゃんには教えるなよ? 」
「うん、わかってる。」
直結でホットラインを結んでしまうキラなら、刹那の携帯端末に連絡するのは可能だ。向こうも、一月か二月すれば、一端、降りてくるだろうから回復してから顔を合わせたほうがいいと、鷹はキラに頼んだ。子猫たちが降りてくれば、早々に動こうと親猫は無理をするから、意味がないからだ。
案の定な展開で、さっさとラボにある医療施設へと運搬して、ドクターに治療をしてもらった。最初の三日間は、ほぼ昏睡状態だったから、ドクターと助手たちがかかりっきりになった。鷹としては、それを見ているぐらいしか仕事がないので、ラボのほうの仕事をしていた。一週間ほどして意識がはっきりしてから、マイスター組が使っていた部屋に移すことができた。
「まだ、脱力感が酷いから動けないと思いますが、まあ、適当に監視はしてください。」
ドクターも言うことを聞かない患者は慣れたものだ。苦笑して、鷹に、それだけは頼んだ。後は、午前中に治療を受けるぐらいのことで、回復させるとのことだ。
「生きてるか? ママ。」
移動で眼を覚ましていたロックオンに、鷹はベッドに声をかける。まだ、クスリが効いているから、ぼぉーっとしているが、とあえず、意識はあるらしい。
「・・・びっくりした・・・・」
「だから、俺は忠告したんだけどね。おまえさん、ちっとも現状を把握するつもりがなさそうだったから、一度、痛い目に遭わせることになったんだ。これで懲りただろ? 」
「・・・ああ・・・・」
「しばらくは大人しくしててくれ。」
「・・・いや・・・動けないぜ、これは・・・・」
寝返りをうつのも難儀だ、と、ロックオンも正直に言って笑っている。回復が遅いという意味が、どういうものか、身を持って理解させられた。これでは、とても組織の仕事なんてできそうもない。
「・・・なんかこう・・・俺・・・とんでもない罰を受けてんだな・・・・」
死んでも復讐だけは果たしてやると思っていた。自分の感情に引き摺られてしまった罰が、これだと言うのなら、あんまり生きている意味はないんじゃないのかな? と、ぽつりと漏らして、目を閉じた。再始動に参加できない。これから刹那たちと共に歩くことはできないと、はっきりと突きつけられたのが辛い。世界を変えるために刹那たちが突き進んでいくのに、自分は、それを手助けすらできないのだと思うと、マイスターとしては死んだも同然だ。頭では分かっていたつもりだったが、実際、こういうことになって、ようやく本気で距離が出来てしまったことを痛感した。
「罰というのも変だぞ? 」
聞こえていないのを承知で、鷹は苦笑する。実行者としての立場は失っても、まだ、出来ることはある。それが、親猫には分からないのだ。あれほど子猫が安心感に飢えたのを、完全ではなくても癒せたのは、親猫が生きていたからだ。生きて会えるということで、刹那にもたらされる安心感と、それを守りたいという気持ちは、強い意思となる。だから、『吉祥富貴』で待っていればいい。何ヶ月かに一度は、刹那も戻ってくる。確認と安心で、また、新たな気持ちで戦いへ出向けるために、親猫は、元気な姿で、そこに存在している必要があるのだ。
「まあ、今のところは回復することで充分だ。どうせ、トダカさんが説教に来るさ。」
実行者でなく協力者という立場へ移行するのだと、トダカなら年の功で上手に説明するだろう。それは、自分のすることではない。
数日過ぎて、どうにか、トイレへの移動ぐらいは自力でできるようになった。とはいうものの、それだけで、ひーひー言っているので、それ以上に、どうこうできることはない。
「ママ、メシだぞ。」
で、なぜか、鷹が三食、一緒に食事して、さらに、隣りのベッドで寝ているという状況が、今ひとつ理解できない。
「鷹さん、なんで、ここにいるんだよ? 」
「ママのお世話のため。」
「店は? 」
「ラボのほうの仕事しているから、指名の予約がない限り、あっちは休業だな。」
「俺、別に、ひとりでいいんだけど? 」
「まあ、そう言うなよ。お兄さんと一緒のほうが賑やかで楽しいだろ? 」
「そういう問題じゃねぇーって。」
ていうか、呼び方を変えてくれ、と、毎日、怒るのだが、聞いてない。一週間近く、この会話を続けているわけだが、呼び出しがないところを見ると、本当に休業状態らしい。そろそろ動けるようになって来たから、歩いて体力をつけようと思っているのだが、なかなか、それができない。午前中は治療を受けているし、午後からは、クスリでうとうとしている。ラボの手伝いどころでもない。
文句は後でいいから、とりあえず食べろ、と、言われて渋々、手を出す。こういう時は、強めの口調だから反撃できない。緩急ある鷹の言葉というのは、ロックオンにしても反撃しづらいものだ。こちらが、どんなに喚いても、相手は、さらりと受け流してしまうからだ。さらに、「遠慮せず、どんどん吐き出せよ? ストレス溜めるほうが身体に悪いからな。」 などと煽ってまでくれる。
「俺は、ガキじゃねぇーから、別に文句垂れて、ストレス解消なんてしねぇーよ。」
「俺から見たら、ガキだけどねぇ。キラほどじゃないけどな。六つも上のお兄さんなんだけど、忘れてるのか? 」
「いや、そうじゃなくてさ。」
「まあ、いいから気にしない気にしない。・・・・髪の毛洗ってもらったのか? 」
「ああ、午前中に看護師さんが身体拭いて、ついでに髪も洗ってくれたよ。」
「ドクターもな、どうせなら、可愛いお嬢ちゃんの看護師にしてくれりゃ、俺も頼むんだけど、男だもんなあ。そういうとこ、サービスが悪い。」
「どこのイメクラと間違ってんだろーな、この人。」
「バカだねぇーママ。そういう潤いこそ大事なんだ。」
「そういうことなら、そういう店に行け。」
「ママが快復したら、一緒に連れて行ってやるさ。ハイネの行くおしゃれな店じゃ味わえない楽しみ方を伝授するぞ? 」
「いや、いらないから、ほんと、俺、そういうの必要ないから。」
「一夜限りのワンメイクラブっていうのなら、金出して楽しんだほうがいいだろ? 」
「親父臭いぜ? 鷹さん。というか、あんた、恋人がいて、それはどーなんだよ?」
作品名:こらぼでほすと 逆転 作家名:篠義