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kisses.【栄口総受】

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03 暗闇の中、見つからないように(泉×栄口)



 いつものことだ、そう思っていたのに。その日に限ってなんで。

 9組はいつも仲が良い。今に始まったことじゃなくって、小学生みたいな二人に泉が振り回されながらわいわいやってる感じ。
 泉も、文句は言ってるけど楽しそうで。ああ、泉も世話焼き体質なんだな、なんて微笑ましく見てたんだ。
 だけど、オレと泉が付き合い出して。そりゃ泉は言葉遣いは悪いけど、優しくてカッコいい。なんていうか、思いきりのある性格が。
 だから、ヤキモチ妬いても仕方のないことなんだろうって自分に言い聞かせる。
 けれど三橋と田島が羨ましいな、なんて思うようになってしまって、そんな自分が嫌で。
 オレは甘えるのが下手だから、一人でぐるぐるしているところをよく泉に助けてもらった。
 でもオレは、泉に何一つ返せてないんじゃないの。泉は、オレといていいことあんのかな。そんなことを思うようになっていった。

 その日たまたま昼休みに9組に用事があって。
 覗いた教室で、見たのは、田島が『泉、アイシテル!』なんて言って泉に抱きついているとこだった。
 田島のやったことだし、深い意味なんてないことは分かってる。大方、田島が好きなおかずを泉があげたとか、宿題写させてやったとか、そんなことだと思う。
 思うんだけど、オレは結構酷い顔してたみたい。
「栄口? ……そんなんじゃねーぞ。」
 って、泉はちゃんとフォロー入れてくれたんだけど。
 じわじわとドス黒い気持ちが胸の中に広がって。
 それが部活の時までに晴れることはなかった。

「泉のオニギリ、もらいっ!」
「あっ、てめー、ざけんなッ!!」
 引き金はそんなやり取りだった。
 いつもの田島の悪フザケ。
 田島を取っ捕まえて、ヘッドロックをかける泉を見てたら、なんだかすごく楽しそうで。
 それに反比例するようにオレの気分は急降下していく。
 とうとう気分まで悪くなってきて。
 オレはフラリと立ち上がると、篠岡にだけ『ちょっとトイレ行ってくる』って声かけてグラウンドを離れた。

 人がいないとこが良いな。きっとまたオレ、酷い顔してる。
 こんなに泉に一挙一動に振り回されて。恋愛なんて好きになっちゃったヤツが敗けだよな、なんて自嘲気味に笑う。
 ふらふらと歩いていたら、普段入り込むことのない旧校舎の方にまで来てしまっていた。
 明かりが点くことのないこっちの校舎は人気(ひとけ)がなくて、もう日が落ちた今の時間は真っ暗だった。
 あー、ここだったら多少泣き言言っても誰にも見つからないかなあ、なんて思ったその矢先に。
 オレの名前を呼ぶ、よく知った声に、オレはびくりとしてゆっくりと振り返った。
「い、ずみ……? なん、で……」
「栄口ッ、良かったー、見っかった……!」
 駆け寄ってきた泉は、肩で息をしているから辺りを走り回ったのかもしれない──オレを捜して。
「お、まえっ、いつの間にか消えてんだもん。篠岡に聞いてトイレっつったけどいねぇし。」
「あ……ごめ、んっ、」
 謝るだけ謝って目を逸らすオレの態度が引っかかったらしく。泉はオレの左腕をぎゅっと捕まえる。
「お前、今日昼からおかしかったろ。なんだよ。一人で溜めるなって言ってんだろ?!」
 口調は怒ってるけど、オレのこと、心配して言ってくれてるのが分かる。
 分かる、けど、こんな、こと……っ、
「ダイジョウブ、だから……。心配かけて、ごめんな。」
 無理して笑うオレの態度は却って泉を怒らせたみたいで。
「こんな顔してるヤツのどこがダイジョウブなんだよッ」
 泉は両手でオレの頬を挟むと、圧し殺した声で、怒鳴るように言った。
「…っ、」
「……田島、か?」
 なんで。なんで分かっちゃうんだよ。
 息を呑むように身体を硬直させたオレを見て、泉は小さくため息をついた。
「お前、さぁ…っ、──ああっ、もう!!」
 青味がかった黒髪をガシガシと掻くと、泉はオレの手を引いて非常階段へと向かう。
「い、泉っ!?」
 非常階段の下に押し込められて、どうするのかと不安が声に乗る。
「もう少し、オレのこと信用してくれてもいーんじゃねぇの。」
 言うなり泉がぎゅっとオレを抱き締める。
「ちょ、っと、泉ッ! 誰か、来たら──」
「来ねーよ、こんなとこ。」
 それから、腕を緩めると、ゆっくりと髪を梳かれて。ぴりぴりとした、肌が粟立つような感覚に躯が震える。
 髪を梳いた泉の手は、後頭部からうなじを辿ってオレを強く引き寄せる。
 余裕のない、咬みつくようなキス。
「ん、んっ、…ぁ、いずみッ」
 息を継ぐために開いた唇から熱い塊が侵入してくる。
「んぅ…う…ぁっ…あ、」
 擦れる舌が、理性を麻痺させる。無意識にぎゅうと泉のアンダーを掴んでしがみつく。
「……オレがこーいうことすんの、お前だけだから。」
 唇が離れて、泉を見たら、暗い中でも泉の大きな瞳がまっすぐにオレを見つめているのが分かった。
「は…っ、いず、み……、」
 まだ酸素が足んなくて、頭ん中がぼうっとしてる。
「っていうか! オレだって結構我慢してんだぞ!? 水谷のヤロー、ベタベタ抱きつきやがって!」
「……えっ?」
 確かに、水谷はオレによく懐いてて、しょっちゅう抱きついてくるのだけど。
 泉がそんなこと思ってるだなんて、意外、だった。
「あー、もう! ハズイから言いたくなかったんだけど。不安なの、お前ばっかじゃねーから。……だから、ちゃんと言えよ。」
 軽くオレのことを抱き寄せて、明後日の方向を向きながら照れたように言う泉を見て。
 心の中にあった黒いもやもやは、すうっとこの闇に溶けてどこかへ行ってしまったようだった。
「うん……ありがと、泉。」
 オレは抱き寄せられるままに、泉の肩にことりと頭を置く。
 そっと頭を撫でてくれる泉は、やっぱりカッコいいな、そんなことを思った。
「っ! やっべぇ!!」
 突然上がった声に、オレは何事かとハッとと顔をあげた。
「練習! ぜってーモモカンに握られるッ!」
「あー……」
 完全に意識から飛んでいた。今、何時だ?
「栄口、急ぐぞっ、」
「え? あ、うん、」
 ぐいと手を引かれて、走り出す。
 これって手ぇ繋いでんじゃん、とか思っちゃって。
 オレの頬が赤く染まっていることを、泉はまだ知らない。


作品名:kisses.【栄口総受】 作家名:りひと