kisses.【栄口総受】
04 じゃれあう二人(田島×栄口)
久々に部活なしの休日。しかも、誕生日。
部活のみんなには、昨日の練習の時にお祝いしてもらって。今日は一日家でのんびりする予定だった。
だけど、昨日の帰り際に。
「なーなー、栄口の誕生日ってホントは明日なんだろ?」
そう声をかけてきたのは田島だった。
「だったらさ! 見せたいもんあるから、明日オレんち来ねー?」
ここのところ、田島とは野球の話で盛り上がることが多くて、話す機会が増えていた。もちろん、それ以外にも、やれノートだ宿題だ、と頼りにはされているらしい。
人に頼りにされるのはキライじゃない。だから、田島のことを迷惑だなんて思ったことはなかった。(花井辺りは相当疲れてるらしいけど。)
声をかけてくれたのも、きっと野球の話かな、と思って。
夜は弟がケーキ楽しみにしてるから無理だけど、昼間は特に用事もないし。
そんなわけでオレは田島の誘いにのることにした。
田島の部屋は予想通り(!)なんだかごちゃごちゃしてて、とりあえず、受験以来勉強机を使ってないんだなってことと、野球関係のものがそれなりの規則性をもって置かれているらしいということだけは分かった。
申し訳程度に部屋の真ん中が片付けられていて(……というより、周りに物が寄せられていて)、ちょこんと小さなテーブルが置いてある。
「栄口っ、飲み物何がイイー?」
「や、別に何でも…ってか、そんな気ぃ遣わなくても──」
「じゃ、麦茶な!!」
オレの返事も聞かずに部屋を飛び出していく田島は、学校にいる時と何ら変わらず、かえって笑えた。
それに。
バタバタバタ……勢いのいい足音が近づいてきて。
「お待たせッ!」
満面の笑みで、部屋に戻ってきた田島を見て、オレはなんだかすっごくあたたかい気持ちになった。
「ぷ。……はは、ありがと。」
我慢しきれずに少し吹き出すと、『何だよー!』と田島は少しむくれる。
ごめんごめん、と田島を宥めて。
オレは田島が出してくれた麦茶に口をつけた。
「……で、何見せてくれんのー?」
別に何もしなくても、田島を見てるだけで楽しいんだけど。まぁ、せっかくなので、何を見せるつもりだったのか訊いてみる。
「おお! そうだった!」
田島は思い出した、というようにまたバタバタ動き出して。
ベッドの枕元から、一冊のアルバムを取り出した。
「これ!」
「……?」
「いーから見てみろって!」
促されるままに表紙を開く。
それは、田島がボーイズで野球やってた時の写真だった。
「おー! 田島がちっさい!」
「うるせー、これでもオレ、背ぇ伸びたんだぜ!?」
いつだったか、お互いに硬式野球経験者だという話をした時に、田島がどんな選手だったのか見たい、という話をしたことがあった。
なんでそんなことを思ったのか、今のオレははっきり覚えていないのだけど、田島はその時の話をちゃんと覚えてたんだ。
一枚、ページを繰る度に、オレの知らない田島やチームメイトがそこにいる。
どの写真も、真剣に野球やってて、楽しそうで。『カッコいい』って思った。
いつの間にか夢中になってたみたいで、肩にあたたかな重みを感じて、自分が田島をほったらかしにしてたことに気づいた。
自分の肩口ですぅすぅと寝息を立てる田島。
う、あ、どう、しよう…、
迷っている間に、ずるりと田島の身体が滑り落ちて、膝枕してるみたいになる。
ここんとこ、練習ハードだったしなぁ。今日もオレの都合で、結局学校行くのと変わんない時間に起きてるんだろうし。
このまま、寝かせておいてあげようか……
オレは目を細めて、田島の穏やかな寝顔を見つめる。
しばらくそうやって田島の寝顔を眺めていたけれど、なんとなく落ち着かなくて。
少し位置をずらそうと動いたら、田島が『う、ん…、』って唸って身動いだ。
起こしちゃったかな? と思ったけれど、田島は向きを変えただけで目覚める様子はない。
ほっとして、また田島の顔を見下ろす。
でも、これって──
田島はオレの腹の辺りにぎゅっと顔を埋めて。
ふと気づいた、友人同士にしては近すぎる互いの距離。
「た、じま……?」
このまんまじゃなんかヤバイ気ぃする。
オレは小さく田島を呼んだ。
田島は目が覚めるどころか、オレの身体に腕を回して幸せそうに眠ってる。
「うーん……、」
なんか、ドキドキしてきた。な、んだろ。
田島の顔から目を離せなくって、心臓の音ばっかりが煩い。
おかしい。そう思った瞬間、ぱっと田島の目が開いた。
「う、わあぁぁっ、」
思っていたこと見透かされたみたいで。思わず悲鳴をあげて。それから後、言葉を継げずにいたら。
「きもちー……」
心底幸せそうに田島が呟いた。
オレは大きくため息をつくと、仕方ないなぁ、と苦笑する。
「……起きてたのかよ。」
「起きてたー!」
言いながら、脇腹を突然田島がくすぐってくる。
「う、わっ、なにっ?!」
くすぐったいのが苦手なオレは、身を捩って田島から逃げようとするけど、さすがに運動神経のいい田島は簡単に逃がしてはくれない。
「ひっ、ちょ、もうカンベンして…っ、」
笑いすぎで零れた涙を拭きながら懇願して、気がつけば田島にオレは組み伏せられていた。
「なんだー、栄口、もう降参かよ!」
口唇を尖らせて言う田島は、つまらなさそうな顔を一瞬見せてから、またすぐにいいことを思いついた、って目を煌めかせる。
「んじゃあ、こっちは?」
言いながら、今度は首筋からうなじの辺りをくすぐってきた。
「そんくらいなら平気ー。」
笑って言うオレを見て、田島がニヤリと笑う。
……今度は、何だよ。
構えた瞬間に、首の後ろからぐっと引き寄せられる。
目の前に、深い茶の瞳。
え、と思ってる間に、口唇が触れた。
オレは、思わず目を瞠る。
だっ、て。えええ──ッ!?
「誕生日プレゼント!!」
ニコッと笑って言う田島の頬は少し赤い。
って、多分、オレも。
心臓がバクバク言ってて、当分止まりそうにない。
だって、キス、だなんて。
──この確信犯め。
でも、それより何より。
男にキスされてイヤだって思わなかった自分に驚いた。
きっと、それだって、田島だから。
気づかされてしまったことが悔しいけれど。
「……ありがと。それから──」
今度はオレが田島を引き寄せて。
『好きだよ』
耳元で甘く囁いた。
作品名:kisses.【栄口総受】 作家名:りひと