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こらぼでほすと 逆転2

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 静かに、寝室を出て、ふたりして、苦笑する。ひとりにしておくと碌なことを考えないだろうとマリューを呼んだ。マリューのほうも、それがわかっているから、ハイテンション気味の会話を心がけていた。
「助かったよ。サンキュー。」
「仕事の資料を、ほぼ読み終えたわ。ここだと、他にすることがないから、よく頭に入って、こちらこそ大助かりよ。」
「なんていうのかなあー、背中に悲壮感張り付いてるだろ? あれが取れると大丈夫なんだけどねぇ。」
「難しそうね。キラくんみたいに、お子ちゃまだったら楽だけど、少し育っているもの。」
「最終的に、トダカさんに焼き入れてもらうんだけどさ。」
「それがいいでしょうね。」
 ママが寝ている間に、俺の部屋に来る? と、鷹がウインクすると、マリューのほうも、バイト代を徴収しないとね、と、鷹の腕に自分の腕を絡ませる。




 どうにか、部屋の中を歩ける程度には回復した。そうなれば、さっさと体力を戻すべく、運動だろうと、午後から、窓から庭へと出ようとして、ふと、考えた。あの頃より太陽の威力は落ちているが、これで日射病でダウンしたら、何を言われるかわかったものではない。廊下なら、平面だからいいだろうと、踵を返す。
 で、居間に辿り着くまでに息が切れた。へーへーと、廊下に座り込んでいたら、通りかかったダコスタに、「何やってんだか。」 と、呆れた声を投げられる。
「よおう、ダコスタ。久しぶり。」
「久しぶりじゃないでしょう? 何か欲しいものがあったら、内線で頼めばいいのに。」
「いや、リハビリしてんだよ。」
「はあ? 」
 わずか、二十メートル歩いて息切れしている人間は、リハビリはしないほうがいいのでは・・・と、ダコスタだってツッコむ。
「焦って、どうにかなるもんでもないですよ。」
 温厚なダコスタは、同じように廊下に座り込んで話しかける。詳しいことまでは聞いていないが、相当、体調を崩したとは聞いているので、そんなに慌てなくても、と、意見はする。
「でも、動かないと鈍るだろ? 」
「鈍る前に弱ると思うんだけどなあ。」
「なんかしてないと退屈でさ。ああ、そうだ。ラボの仕事を手伝うように、虎さんに言われてるんだけどさ。明日くらいから行ってもいいかな? 」
「いや、辿り着けないと思う。」
 ふたりして、ぼそぼそと喋っていたら、廊下の向こうから、「おまえらは、ジベタリアンかっっ。」 という叫び声と共に、ハイネが姿を現した。
「よおう、ハイネ。整備か? 」
 暢気に手を挙げて挨拶している親猫に、ハイネも呆れる。
「ダコスタ、おまえも、病人に付き合ってんじゃない。こういうのは、さっさと回収しろ。」
 ああ、やっぱり、そういうことなんですか、と、ダコスタも立ち上がると、ロックオンを、ひょいと担いで部屋に戻す。これが、ハイネや鷹だった場合は、ベッドに叩きつけるわけだが、上司が紳士だと、部下も紳士だ。ベッドの端に座らせる。その膝に、ドサドサと、ハイネが雑誌を上から落とす。
「読書が趣味なんだろ? とりあえず、コンビニにあるやつで、いかがわしくないのを買ってきた。それでも読んで寝てろ。」
 こういう気遣いは鷹にはない。なんせ、仕事の書類書きさえ、あわよくば放置してやろうとする活字嫌いだ。
「おう、悪りぃーな、ハイネ。」
「悪いと思うんなら、大人しく療養したら、どうだ? 」
「してるだろ? ほとんど、部屋からも出てないぜ。」
「なあ、ロックオン、ほんとは、あんた、すっごくバカなんだな? 」
「はい? ・・・あーまあ、ハイネみたいなエリートじゃないことは確かだな。」
 いや、そういう意味じゃなくて・・・と、ダコスタが苦笑いで間に入る。どっかで、頭の回線が切れているんだろうな、と、内心で、大きく溜息をついた。見た目は、いつも陽気なロックオンだが、なんていうか、急ぎすぎるのだ。どう考えても、リハビリなんてできる状態だとは、思えない。ここにいる限り、生活に困るということもないのだから、じっくり体調を整えるべきなのは明白だ。
「退屈なら、ゲームでもしますか? 」
「別に、子供じゃないんだから・・・ダコスタ。」
「じゃあ寝てろよ。」
「まあ、そうなんだけどさ。」
「読書以外の趣味とかないのか? 」
「他には射撃と家事ぐらいだろうな。」
 射撃は趣味と実益兼ねてるけどさ、と、付け足して笑っている。組織に入ってから、長い時間、何もしないということがなかったから、どうしても、馴染めないのだと、続ける。
「それは分かりますけどね。」
 軍人をやっていたダコスタだって、それには同意する。やることがないと思ったら、トレーニングをするとか、機体の整備をするとか、とりあえず、やることはあったからだ。今も、その状態で動き回っているので、確かに、これが唐突に途切れたら、自分も困るだろうとは同意する。
「人生の潤いっていうのがない人間ばっかりだなあ。もうちょっとゆとりとか余裕っていうのがないと、人間としてダメなんじゃないのか? 」
「じゃあ、ハイネが、この状態になっても退屈しない自信があるのか? 」
「俺、おまえと同じ状態に、ちょっと前になってたさ。なんせ、奇跡の生還者なんだからな。」
「あんたもかよ。」
「半年くらいは動けなかったぜ。ようやく動けるようになったら、いきなり終ってたしさ。一応、復帰したけど戦後処理の書類仕事が山積みで泣きたくなったね、俺は。」
 なんで生きてんだろう? と、不思議に思いつつ、治療を受けていたが、情報収集の意味もあってニュースばかりのチャンネルをつけっ放しにして、調べられる限りのことはやっていた。だから、療養していた時も退屈だと思ったことは無い。
「それなら退屈しないか・・・俺も、そうしよう。」
「いや、おまえさんさ、まだ寝てるだけでいいから。ほんと、それ以上に具合が悪くなると、本気で、どっかの病院へ叩き込まれるぞ。」
「今も叩き込まれてるのと同じだろ? 」
「まだ、マシだ。病院ってことは、瀕死状態ってことだぞ? 生命維持装置とかつけられて、意識も戻らないぐらいのことだ。ほんと、バカだな? ロックオン。」
「ちょっちょっと、ハイネ、それは言いすぎです。」
 興奮してきたハイネを押し留めていたら、内線が鳴り出した。ダコスタが取ろうとしたが、押し退けるようにして、ハイネが出る。
「はい、瀕死になりそうなバカがいる部屋。・・・ああ・・・虎さんか・・・ああ、すぐに戻る。」
 相手はラボにいる虎で、整備の段取りができないから戻って来いという連絡だった。相手も、ハイネの言葉に大笑いしたらしく、それが漏れている。ガチャリと受話器を置くと、「俺は戻る。兎に角、寝てろ。ダコスタ、見張ってろ。」 と、言い置いて、スタスタと部屋を出て行った。
「ダコスタも仕事があんだろ? 俺は寝るから行ってくれ。」
 へらへらとロックオンがダコスタに手を振っているので、横になってくれればいいだろうと、ハイネを追い駆けた。ふたりが出て行くと、パタンとベッドに、ロックオンが倒れこむ。
「なんか、頭が痛いな。熱でも出たか。」
作品名:こらぼでほすと 逆転2 作家名:篠義