こらぼでほすと 逆転2
膝から落ちた雑誌を拾い上げることもできなくて、そのまま、目を閉じた。動けなくなって、ただ生きているだけになったら、それでも生きているべきだと言われても納得は出来ない。全部終ったら、咎は受けるつもりだった。どういうふうに受けるかは、その時次第だろうと思っていた。まあ、死刑判決を受けるようなことにはならないだろうと踏んでいた。世界が変わったら、マイスターは必要ではないからだ。なんとなく自分の終末というのを考えてはいた。世界が変わる時、破壊されるのは自分だろうという漠然としたものだ。
・・・・太陽炉を強制的に切り離されて爆死あたりだと思ってたんだが、こういう場合は、どうなるんだろうな・・・・
さすがに、まだ、組織が活動している段階で、「自分がテロリストです。」 と、出て行くわけにはいかないし、そんなことをしたら、あの利かん坊が奪還すべく暴走しそうで危ないこと極まりない。今のところ、どうしたらいいのか、いい考えというのは浮かばない。
鷹が手を離せないので、様子だけ見にやってきたら、案の定、動けなくなっていた。回復が遅いという意味が理解できない病人は、どうも厄介だ。ぐったりと眠り込んでいるが、額には汗が流れている。やれやれと、そのまま担いで、ラボのほうへ運んで医者に診せた。大したことはないらしいが、とりあえず、医療ルームへ預けておくことにした。
「なあ、鷹さん。あれはダメだぞ。監視を強化するほうがいい。」
「といってもなあー、俺も四六時中ってわけにはいかないぜ? 虎さん。」
「うちのも参戦させるか。」
「いいのか? 」
「しょうがないだろう。うちのだったら、こっちも手伝えるからな。さすがに、あれは八戒の手に余る。」
こういう時は、同年代の忠告なんてものは効かない。それなら有無を言わさない相手のほうが有効だ。まったく知らない相手なら、親猫も、どうこう言えるとは思えない。そりゃ、楽しみだなあーと、鷹も同意する。
翌日の午後から監視役は、ロックオンの部屋に居座った。さすがに、寝室で監視する必要まではないから、居間のほうで、のんびりとテレビを見たり、雑誌を捲ったりするという優雅なものだ。子猫に逢わせろと言っていたのに、子猫はいないから親猫の相手をしてくれ、と、夫に頼まれた。寝込んでいる親猫の様子は見せてもらったが、ちょっと大きさに問題はあるが、綺麗な山猫だった。
「ふらふらしてたら、ベッドへ戻してくれ。退屈だと言ったら話し相手ぐらいはしてもいい。」
「アンディ、私のタイクツは、ドウするノ? 」
「屋敷の人間に、なんでも用意させて遊んでいればいいさ。」
それほど大事じゃないと、夫に頼まれて、のんびりと映画を観ていたら、寝室の扉が開いた。ぼやーっとした親猫が、自分を確認して、ぎょっという顔をする。
「ハジメまして、ロックオン。アナタの監視をアンディに依頼されたワ。」
「・・は・・え・・えーっと、どちらさん? 」
「アンディのツマのアイシャ。キレイね? ロックオン。」
「そりゃ、どうも。ところで、アンディって誰? 」
「アンドリュー・バルトフェルト。ツウショウは、「砂漠の虎」ね。」
「虎さんの奥さん? 」
「イエス。」
「なんで? 」
「ロックオンが、フラフラしないように。」
「いや、別にふらふらは・・・」
「タイクツ? 」
「・・・うーん、まあ、ぶっちゃけ、そう。」
「じゃあ、ワタシとトーク。オーケー? 」
「はいぃぃ? 」
片言のスタンダードでアイシャは、ここへ座れと、対面の席を指し示す。なんで、いきなり、虎さんの奥さんが、ここにいるんだよ、と、さすがにびっくりだ。マリューは、まだ面識があったから、いいようなものだが初対面の相手というのは、どういう会話をしていいのかもわからない。
「ドリンクは? 」
「水でいいです。」
「ムービーはスキ? 」
「ホラー以外なら、まあ。」
「コレ、とてもおもしろいアクションなの。いっしょにミましょ。」
「・・・はい・・・」
そんな調子で、数日、それに付き合った。居間に陣取られているから、外へ出るのは難しい。寝室の窓から外へ出ようとしたら、音で気付かれて寝室まで乱入される。あげくに、「ロックオン、オモシロイ。」 と、笑われるに当たって、リハビリは諦めた。毎日のように映画を観ていたら、時間なんて、あっという間に過ぎていく。ちょっと退屈な恋愛映画を観ていたら、眠気をもよおした。
「アイシャさん、おもしろいのか? これ。」
「おもしろいというのではないワ。ドキドキする感じ? ロックオンはタイクツみたいね? チガうのにする? 」
「いや、アイシャさんがドキドキすんなら、俺はいいけどさ。・・・ちょっと寝てくるわ。」
「オヤスミ。」
趣味が合わなければ、こうやって撤退する。寝室で大人しく雑誌を読んだり寝ている限り、アイシャは乱入してくることはない。その日も、うとうとしていたら、カチャカチャと音がして出窓がドンドンと叩かれて、目を覚ました。同時に、アイシャが拳銃を片手に、部屋に飛び込んでくる。
「ロックオン、カクれてっっ。」
構えからして、相当慣れている雰囲気で、アイシャが、出窓の横に忍び、カーテンを開けて、相手に銃を向ける。
「うわぁーーー待て、待てっっ、アイシャさんっっ。俺だ、俺っっ。」
そこに居たのは、ディアッカで、背後にはイザークが花束を手にして、こちらもびっくりした顔で立っていた。
「いや、だからさ。たまたま、ラボから、こっちに来るのに散歩してからだったんだよ。たぶん、こっちの窓は、いつも全開してたから、こっちからでも入れるだろうと思ったんだ。」
「マギラワシイわ、ティアッカ。」
「悪かったけどさ、いきなり、拳銃突きつけるアイシャさんも怖いぜ? 」
「ロックオンの監視ダケド、マモルのもワタシ。」
「いや、そうだけどさ。」
「だから、表に廻ろうと言ったんだ、このバカものがっっ。アイシャさん、驚かせて済まない。」
機体の整備でやってきたディアッカとイザークは体調を崩して静養しているロックオンの見舞いをしておこうと、こちらへ顔を出した。以前の時は、出窓のほうは、開け放していたから、そこから入ろうと思ってのことだったらしい。
「俺が一番驚いたのは、アイシャさんが玄人だったことだよ。」
がっくりと肩を落としてロックオンは、力なく笑う。普通の奥様だとばかり思っていたから、その行動にはついていけなかった。
「うふふふ・・・アンディといっしょにタタカッてたから、それなりにね。」
「知らなかったのか? ロックオン。アイシャさん、MSの操縦もできるぞ。」
「知らねぇーよ、そんなこと。」
そうなのだ。たまに、うっかりするが、『吉祥富貴』は普通ではない。スタッフの奥方だって、普通ではないということを忘れていた。優雅に若奥様風ワンピースという出で立ちで、防戦体勢に即座に入ったアイシャに、自分が守られる立場になっていたわけで、いつもと、まるっきり逆だ。
「ロックオン、びっくりさせて、ゴメンね? 」
「いえ、こちらこそ・・・」
「贈るなら、ロックオンよりアイシャさんだな。これ、見舞いの花だが、あなたに。」
「まあ、イザーク、サンキュー。」
作品名:こらぼでほすと 逆転2 作家名:篠義