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こらぼでほすと 逆転2

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 見舞いのはずだったが、野郎に贈るよりは、女性のほうが、と、対象を即座に変更するあたり、イザークもフェミニストだ。水に入れなければ、と、アイシャは、いそいそと花束を手に洗面所へ向った。
「それで? 」
「この通り、元通りにはなってる。・・・あ、散歩してきたなら、喉渇いてないのか? イザーク。」
 軽くひょいとベッドから降りようとするロックオンを、イザークが手で止める。
「病人に用意させるわけにはいかないだろう。ディアッカ、アッサムを頼んでくれ。それから、アイシャさんにも、リクエストを聞いて来い。」
 イザークの言葉に、「はいよ。」 と、ディアッカが返事して、こちらも出て行く。せっかく見舞いに来てくれたのに働かせて悪いなーと思っていたら、イザークがギロッと睨んでくる。
「どこが元通りなんだ? ロックオン。」
「起きられるようになったし、後は体力戻せば完璧だろう。」
 ロックオンの返事に、ふうと重く息を吐いて、その額に手を置く。やはりな、というように、軽く、その額を叩いた。
「発熱していて、その言葉は感心しない。」
「いや、午後になると、ちょっと熱が出るんだ。たいしたことはない。」
「それは元通りじゃないだろう。戯言はいいから横になれ。」
「イザーク、窓のロックをして、こちらにいらっしゃい。ロックオンは、オヤスミ。」
 居間のほうからアイシャが顔を出して笑っている。そのまま放置しておけば勝手に、山猫は丸くなることは、アイシャも確認済みだ。なるほど、と、イザークも言われたようにして寝室を出る。出る間際に振り向いて、「刹那が戻るまでに、どうにかしないと心配するぞ。」 と、付け足して扉を閉めた。


 次の日、昼食に顔を出したのは、花が盛り込まれた大振りの花瓶を手にした虎だった。それを、ベッドのサイドテーブルに飾ると、「メシだぞ。」 と、ロックオンを起こす。
「何事ですか? 」
「イザークからだ。昨日は、アイシャに贈ったから、おまえのを再度、用意したんだそうだ。」
 ただし、当人は、仕事があって来れないから、虎に頼んだらしい。色とりどりの花は瑞々しく咲いていて、部屋の雰囲気を変えてくれる。
「花なんて贈られたことは、あまりないなあ。」
「ちび猫からカーネーションを貰っただろ。」
「あれが・・・・十年ぶりぐらいだったかな。贈ったことはありますけどね。」
「女性には、喜ばれるアイテムのひとつだ。アイシャも喜んでいた。」
 とりあえず食事をしろ、と、虎はベッドの上に置いた食器を指し示す。
「虎さんは? 」
「俺は、鷹さんみたいに酷いことはしないさ。先に済ませてきたから、食後のコーヒーだけだ。」
 鷹は、居間にあるダイニングに自分の分も運ばせて一緒に食事する。もちろん、病人食ではなくて本格的な食事だ。夕食ともなると、分厚いステーキを頬張っている。
「あんまり気にならないんですよ。俺、とってもじゃないけど、あれは食べられそうにないから。」
「そういうもんなんだな。」
 食欲はなくても食べなくては回復はしない。だから、無理無理に口にはする。とはいっても野菜のポタージュの皿を平らげるぐらいが関の山だ。
「もういいのか? ママ。」
「まあ、これぐらいで。」
「夜のリクエストはないのか? 」
「これといっては・・・俺にもストレートコーヒーをもらえませんか? 長いこと飲んでなくて、ちょっと欲しい。」
 刺激物から遠ざけられているので、コーヒーは口にしていない。紅茶はミルクの多いものなら、と、用意してもらえるが、コーヒーは問題外だ。虎も、そこいらの知識はあるから、ちょっと渋い顔をしたものの、ちょっと待ってろ、と、内線で何かを頼んだ。

「誰も、そこまでの本格的なもんは頼んでませんよ。」
 運ばれてきたのは、サイフォンだとか、コーヒーミルとか、それから、数種類のコーヒー豆とか、本気のコーヒーセット一式だった。コーヒー豆を、瓶から数粒取り出しては匂いを嗅いでいる虎に呆れる。それを置くテーブルまでセッティングされているから、もう笑うしかない。
「どうせなら、美味いほうがいい。・・・・酸味のあるのと苦味のあるのは、どちらが好みだ? 」
「よくわかりません。缶コーヒーかベンダーのしか、ほとんど飲まないので。」
「こういうのは大人の嗜みってやつだ。そろそろ、コーヒーの味くらい好みを持て。」
 そういうことなら、俺の好みで・・・・と、数種類の豆を目分量でミルに放り込み、ガリガリと破砕させる。手回しのミルは、最初、大きな音をさせていたが、すぐに、静かになった。下の小さな引き出しを開くと、黒い粉になっている。それらを、サイフォンの上部に投げ込み、水は多目にして、アルコールランプに火が入る。これといって蘊蓄を語るわけでもなく、虎は真剣に、そのサイフォンを眺めている。ときたま、こぽっという気泡が上がる音がする。
「先にクスリを飲め。」
「・・ああ・・・はい・・・」
 用意されている食後のクスリを飲み、しばらくすると、吸引された湯がサイフォンの上部に吸い上げられて、独特の匂いが漂った。水のほとんどが吸い上げられると、虎は竹べらで、くるくると、その黒い液体を混ぜて、アルコールランプを退く。瞬く間に、吸い上げられていた液体は下へと流れ落ちて、深みのある黒いコーヒーができあがった。早速、と、小さなデミタスカップで、虎が、それを味見して、うーんと考える顔になる。
「ちょっと酸味が足りない。もう一度やりなおすか・・・」
「え? いや、俺には、それでいいです。」
「バカをいえ、せっかく、久しぶりに味わうものなら最高の味でなければいかんだろう。」
 ぶつぶつと文句を吐きつつ、虎は、せっかくのコーヒーを、サーバーに移し変えて、器具を、綺麗に布で拭いている。また、ミルのガリガリという音が響いている。虎が、コーヒーのブレンドが趣味だとは知っていたが、本当に好きらしい。何度も淹れては味見繰り返している。二時間ほどして、納得のいく味が出た。よし、これなら、と、顔を上げたら、親猫は丸くなっていた。
「やれやれ、出来立てが最高なんだが・・・ん? 」
 テーブルの隅っこにメモが置かれていて、「出来たら起こしてください。」 と、書かれていた。それを書いた人間が健康であるなら、虎だって叩き起こすが、今は何より休息が必要な病人では、それもままならない。
作品名:こらぼでほすと 逆転2 作家名:篠義