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こらぼでほすと 逆転3

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「いや、さすがに、ここへ呼ぶわけにはいかない。」
 こちらには来ないが、トダカ家のほうのクリーニングは、ちゃんと実行される。今日、同行しているのは、垂直離着機の操縦をしてきたアマギだけだ。で、そのアマギは病人への挨拶に、先に部屋へと出向いている。
「それで、CBほうは? 」
「まだ、組織としての情報網の再生や事後処理で大わらわというところだ。再開するには程遠い。MSが、ほぼ壊滅しているから、それの再生だけでも時間は年単位でかかるだろう。再開する必要がなければ、それまでだしな。まだ、地球連合も立ち上げの準備段階だ。こちらも年単位でかかるだろう。」
 世界が地球規模で纏まれば、各地で起こっている紛争もなくなる。それが、CBの活動理念であるから、そうなれば活動する必要はないのだ。
「まあ、そう上手くいくことはないだろうな。・・・・オーヴのように、加盟しない国もあるし、加盟する価値がないと切り捨てられる国もある。」
 全てが平等に、というわけではない。各国の力加減がある。それによっては、統合されても歪みはなくならないだろう。自国にとっての利益が優先するのは、当たり前のことだ。つまり、CBは存続していくことになる。
「世界から戦争をなくすために、武力介入をする。矛盾した理念だ。解決することはない。・・・いっそ、地球から人間を壊滅させるというほうがいいんじゃないか? トダカさん。」
「それをやるなら阻止するよ? 虎さん。」
「俺は、そんな大それた野望は、持ち合わせんね。せいぜい、こうやって陰でこそこそしているぐらいが、お似合いだ。」
 どちらも、軽い冗談だと認識しているから、笑い声が含まれている。世界が変革されていくのを見守るぐらいしかやるつもりはないのは明白だ。もし、世界規模で理不尽なことが実行されるなら、それは阻止するだろう。そうでないなら、介入はしない。
「はははは・・・・少しは慣れたかな? 」
「この間、隣りで居眠りしていたよ。それぐらいには気を許してくれている。成人した山猫を慣らすのは、なかなかだ。だが、一歩進むと嬉しさの度合いも大きい。」
「虎さんらしい言い様だ。私は、そんなふうには思わないけどね。・・・・とりあえず、私が居ても、眠くなるくらいには慣れて欲しいな。」
 少しずつ、ロックオンも年上の世話には慣れて来た。だから、自分が眠ければ眠るという程度の甘えが出てきた。それでいいと思う。そういうものがあれば、心が休まる。




 ごぉーごぉーと風の音がしているが、それが、自然の音だから脅威を感じない。もっと、殺気に満ちた空間なら、こんなふうにぼんやりとしていられないだろう。雨に降られても寒い季節ではないから、どうということもない。ただ、身体がだるくて、ずるずると窓の横の壁に座り込んだ。突風が、たまに少し開けた窓から侵入するが、それも、大したことではない。自然は、そういう意味では親切だ。
 そのまま寝ていたのか、いきなり身体が浮き上がった。びっくりして目を開けたら、見知った顔がある。
「大丈夫か? ロックオン君。」
「・・・アマギさん?・・・」
 すぐ傍がベッドだから、そこに横にしてくれた。それから額に手を置かれる。ひやりとした手が気持ちいい。すぐに話し声がして、それが途切れた。人の動く気配で、ロックオンも、そちらに顔を向ける。トダカのところで顔を合わせたアマギは、オーヴの現役軍人だ。ここにいるのは、どういうことだ、と、首を傾げる。
「・・・なんで、アマギさんが?・・・」
「きみの見舞いに、トダカが来るというので送って来た。今、ラボへ連絡したから、すぐにドクターが来る。」
 濡れているじゃないか、と、目に付いたタオルで自分の顔を拭いて、髪の毛の雫も拭き取ってくれている。それほど濡れているわけでもないのに、親切な・・・と、ロックオンは口元を歪める。
「・・すいません・・・」
「台風見物はいいが、窓は閉めて見物するほうがいい。今日のは、かなり激しいから、横殴りの豪雨だ。」
「・・・あー・・俺・・・タイフーン自体、滅多に体験しないんで・・・・」
「宇宙暮らしが長いんだな。」
「いや、俺のとこは、タイフーンがない地域です。」
「そうか。・・・ない地域もあるんだったな。」
 なるほど、と、納得しつつ、アマギは引かれていたカーテンを開けてくれた。芝生の向こうの木々が、ものすごい勢いで揺れて、ときたま、風に負けて千切れた枝が、空を飛んでいる。確かに、窓にかなりの水滴がついていて、横殴りとアマギが言った意味がわかる。風が雨粒を飛ばしている。
「・・すごいですね・・・」
「後三時間は、これが続く。うまくいけば、台風の目が通過するはずだ。」
「台風の目? 」
「台風は、渦巻いた低気圧だから、渦の中心がある。これだけの大きな台風だと、直径数十キロの渦の中心ができる。そこは、無風だ。日中なら、青空も見られる。」
 今日は、夜だから青空は無理だ、と、アマギは付け足した。説明されれば、なるほど、と、ロックオンも思うのだが、ぴんとくるわけではない。これだけの暴風雨が一瞬止むという状況が、よくわからない。

 ドクター本人が、やってきて、いつもの午後からの発熱より高いから、と、解熱剤を飲まされた。窓を開けていたからだろうと、アマギが言うので、それについては注意された。
「さっき、ドクターが、『慣れてないから具合が悪くなる』 と、言うから慣れたら楽になるのかと・・・」
 ロックオンが窓を開けていた理由を言うと、ドクターもアマギも、がくりと肩を落とした。そんな直接的に接触して、すぐに慣れるものではない。
「ロックオン君、気候と体調というのは、何年もかけて馴染むものだ。一度で、どうなるもんでもないから、そういうことはやめなさい。」
「ああ、すいません。・・・・・じゃあ、慣れることはないんだな。」
 最後の言葉は、ドクターには聞こえない小さな声だった。アマギにも、微かにしか聞こえなかった。ただ、少し、ロックオンが遠い目をしたから、気にはなった。
 ドクターが出て行ってから、「さっき、何か言わなかったか? 」 と、窓の外に目をやっているロックオンに尋ねた。しばらく、その質問の意味を反芻して、相手は苦笑する。
「ここに慣れるほどにはいないだろうから、そういうことしても意味ないんだな、と、思っただけです。」
「だが、きみは、『吉祥富貴』に就職させられたはずだろ? 」
「いや、まあ、そうですが・・・・それだって、いつまでっていう契約じゃなかったし・・・」
「何か予定でもあるのか? 」
「予定、予定というほどのことではないんですが・・・マイスターに戻れるなら戻りたいですよ。戻れないなら戻れないで、自分のやったことに責任は取ろうと思っています。でも、取り方が、いまいちわかんないんですけどね。」
作品名:こらぼでほすと 逆転3 作家名:篠義