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酸素

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そう、きちんと理由を話したつもりだったのに、ファルコンはわたしのヘルメットを掴んで持ち上げた。外そうとして、外し方がわからないのだろう。変な風に宙吊りにされて、わたしは慌ててメットを掴んだ。こんなことで外れるくらい軟な作りではないが、万が一のことがある。
しかし、一体なんだっていうんだこの筋肉は!

「何をする、はなせ!」
「問題ないなら、いつまでもかぶっている必要もないだろう」
「だから、酸素が毒であって……」
「マスターハンドが大丈夫だと言っていたのだから、大丈夫だ」
「いきなり、はいそうですかって信用できるか!」
「マスターハンドが信用できないというなら、オレを信用しろ。お前を信じるオレを信じろ」
「余計信じれなくなったな」

その一言がよほどショックだったのか、ファルコンは唐突に固まった。そして笑顔が引きつったような恐ろしい顔になる。何か言いたいことを我慢して、ようやく笑顔を作って失敗したようだ。彼はいつも胡散臭い笑顔を浮かべていて、わたしのことを滅多に睨んだりしなかったから、わたしまで驚いて固まってしまった。

「オレのことが信じられないと」
「そ、そういうわけじゃない」
「なら、どういうわけなんだ。少なくともマスターハンドよりも信頼は薄いんだろう」
「そ、それは……」

勢いと、言葉のあやというものだ。本人に言うと目立ちたがりな彼が付け上がりそうだから言わないが、正直なところ、スマブラメンバーの中で一番彼を信頼している。ピクミンを引き殺されたということを差し引いても、色々な場面で彼に助けてもらっている。ただ、彼は背がでかいためかピクミンが目に入らないことも多々あり、時折ピクミンを踏みつぶしているというところは気に入らないが。

「命に関わることなんだ、信用どうのこうのの話しじゃない。心の準備というものがあるだろう……」

我が道を行く、怖いものなど何もなさそうな彼にこんなことを言っても通じるかわからないが、とにかく一刻も早く離してほしい。そんなわたしの思いが通じたのか表情が柔らかいものとなった。ようやく下ろしてもらえるものと思いきや、何を血迷ったのか、彼はわたしの背中に手をまわす。首元でメットを外す音が聞こえた。どうにか逃れようとしてみるのだが、全てが無駄な努力のように思える。今わたしに出来ることは、彼の背中の上で攻撃を続けているピクミンたちを応援することだけだ。

願いはむなしく、風が首筋を滑った。気圧の変化がないことは分かっていても、やはり恐ろしい。空調設備がない場所らしく、外気は暖かかった。久しぶりに地面に降り立ったわたしを見て、わたしのヘルメットを持ったファルコンは満足気に口元を釣り上げる。なんて悪趣味なやつだ!

「どうだ?外の空気は。籠ってばかりより全然美味いだろう」

わたしはなるべく空気を吸わないようにして、精一杯首を振った。もう息を止めるしか術がない。もしも酸素を吸ってわたしが死んだら、一体どうしてくれるんだ。
ピクミンたちが、わー、きゃー、と鳴きながらわたしに体当たりをしてきた。わたしが無事で嬉しかったのかもしれないが、そのせいで肺に溜めていた空気を吹いてしまう。間違って息を吸ってしまわないように口に手を当てたら、ファルコンがわたしの目線に合わせるためにしゃがんできた。

「おいおい、大丈夫なんだから、ちゃんと息をしろって」

首を振って御断りをする。心配するくらいなら、早くメットを返せと手を伸ばしてみたが、彼にその気はないらしい。彼がマスターハンドを信用していることはわかった。わかったから、早く返してくれ。わたしもそのうちマスターハンドを心から信頼できるようになる時が来るかもしれない。その時ヘルメットを取るから、わたしのことを思うなら早く返してくれ。だが、彼は相変わらず心配そうに眉をひそめるだけだ。段々苦しくなってきたじゃないか。いくら酸素が毒だからと言って、呼吸をしないわけじゃないんだぞ。ああ、頭に血が上ってきた。いや、逆かな?血の気が引いてきた?どっちでもいいや、どっちがどっちなのかわからなくなってきた。

「オリマー……オリマー!おい、いい加減に、意地張ってないで息をしろ!」

何を馬鹿なことを……意地を張っているわけじゃない。わたしだって戦闘がない日くらい、こんなめんどくさい装備をとっぱらいたいと思っている。そうできない理由があるって、さっき言ったばかりじゃないか。
宇宙服がなくてもよかったら、わざわざ初号機で寝なくても済むなぁ。スマブラメンバー専用の、わたしの部屋には最初に通されたきり行っていなかったけど、とても住み心地がよさそうだった。物がない分わたしの家よりも綺麗だったし、初号機なんかとは比べ物にならない広さだった。流石は大手ヒーローのために作られた施設だ。その辺のホテルなんかよりも快適そうだった。

「……リマー!……い、………っかりし……」

どうせだったら、ホコタテ星人用の空調設備が備わっている部屋なんかがあったらよかったのに。


作品名:酸素 作家名:やすもの