こらぼでほすと 逆転4
「知っていなければ、あんな厳しい管理をするわけがないでしょう。アレルヤも刹那も知っています。・・・せっかく、俺が管理して落ち着かせていたのに・・・・元の木阿弥にしてくれましたね? ロックオン。」
「・・う・・」
「刹那が、どれほど心配していたと思ってるんですか? このガンダムバカが、『帰る』と言ったんですよ? 」
ラクスから連絡が入る前も、キラに何度もメールで確認していた。だが、返事は、あまり来なくて、心配していたら、ラクスの爆弾発言がもたらされて、刹那がキレたらしい。組織のほうも、まだ混沌としていて、今すぐに、何かできるということもないから、ティエリアとアレルヤも一緒に降りてきたのだそうだ。
「ロックオン、別に慌てなくてもいいじゃない。どうせ、新しく機体は組み直すことになったから、ロールアウトするまで時間はあるよ? 」
僕らも行ったり来たりはするけど、なるべく、こちらに戻ってくるからね、と、アレルヤが苦笑する。刹那は、何も言わず、ロックオンのパジャマの端っこを握って睨んでいる。具合が悪い、と、歌姫に言われて、死ぬほど心配させられた、と、怒っている。
「いや、それほど悪かったわけじゃ・・・」
「あー諸君、きみらのママは、非常に体調を崩したので、現在、「ナマケモノ」であるのが仕事だ。そのつもりで世話するように。」
鷹は、自分の纏めた荷物を抱えて、そう宣言した。それ、ひどくないか? と、ロックオンは視線で責めたが、それはスルーだ。
「刹那、ハレルヤ、ふたりとも、鷹さんに謝れ。俺の世話をしてくれてたんだから、礼ぐらい言ってくれ。」
厳しめの口調で、ふたりを睨んだら、ふたりして、ぺこんと頭を下げた。それから、ティエリアが慇懃に、「ありがとうございました。これからは、俺たちで看病しますので、お引取りください。」 と、女王様然とした態度で申し渡す。
「はいはい、邪魔者は消えるさ。じゃ、ママ。お大事に。」
「すいません、鷹さん。」
「いいって、気にするな。」
殴られても怒鳴りもしないで、鷹は、いつものように陽気に部屋から出て行く。たぶん、今日、刹那たちが帰って来ることは知っていたんだろう。だから驚きもしなかった。それから四半時ほど、ティエリアにねちねちと説教されて、開放された途端に疲れて熱が出て大騒ぎされた。
世界は広い。それは、自分の足で確めてみなくてはわからないことだ。若い刹那は、それらを吸収して、どんどん成長していくだろう。その時に、確めておいて欲しい、と、思った。自分が、復帰できなかったら、代わりが必要になる。その時の選択肢に、一人、知っていて欲しい相手がいる。今すぐにではない。何年かして、組織が動かなければならない時が来ても、自分が動けなかったら、それから捜すのは難しい。幸い、その相手も、自分と同じ技能がある。まともな人生を送っているだろうと思っていたら、どこからか道は反れてしまったらしい。
刹那が突き進む先に必要であるなら、その相手を連れてくればいい。相手が、どうするか、それはわからないが、自分と似たような性格のままだったら、是と答えてくれるはずだ。
一週間ほど大人しくしていたので、具合のほうは悪くない。少し庭を歩こうと、刹那を連れ出した。アレルヤとティエリアは、ラボの応援に出向いている。
途中で、そろそろ引き返そうと、刹那が、腕を引っ張った。そこで立ち止まって、パジャマの胸ポケットから、データチップを取り出して、刹那に渡した。
「世界が変革されたことを実感したいと思ったら、おまえは、それを見てくるべきだ。・・・その時に、確めておいて欲しいことがある。」
「これか? 」
刹那は渡されたデータチップを、手にして見ている。
「ああ、以前、俺には弟がいるって言っただろ? そいつのデータが、そこにある。追跡調査はしてもらっているから、行く時に、オーナーに確認すればいい。そいつが、おまえと一緒に戦える相手かどうか、確めてこい。」
「・・・ロックオン・・・・」
「復帰できるかできないか、今のところ、不明だ。もし、間に合わなかったら、俺の代わりが必要になるだろ? 今は、まだ、声をかけなくていい。ただ、おまえが見て来い。その時が来たら、声をかけて連れて来ればいい。イヤだと言ったら、攫って来い。俺が説得する。・・・・ごめんな、刹那。俺が行けなくても、どうにかしてやるから。俺は、行けなかったら、ここにいるよ。おまえらが無事に戻ってくるのを待ってるからな。」
「・・ああ・・・」
どうなるのか先が見えない。けど、できることはある。同じ場所に行けなくても、待っていてやることはできる。それで、刹那の気が済むなら、それまでは生きている必要がある。テロリストであることを忘れなければいい、と、トダカは言う。テロリストとして、人を殺してきた。それは、いつまでも胸の奥に燻り続けるだろう。だが、それを踏まえた上で、生きていけばいい、と、そう諭されて、少し気が軽くなった。組織が存続する限り、終わりは来ない。一個人の生命が消えることと組織が存続することは、別もので、関係はない。終わりは、自分が力尽きた時に来る。だから、それまでは、できることをしようと、ロックオンは決めた。
「まあ、まだ先の話だ。」
「わかっている。・・・あんたが、ちゃんとしていれば、俺は心配しない。」
「それについては、大丈夫だ。こっちにも、五月蝿い年上組がいて、俺の無理は止めてくれる。今度のことはな、俺が、あんまり自覚しないから徹底的に壊れるまで放置されたからなんだ。・・・自覚はしたから、せいぜい、『ナマケモノ』でいるさ。」
「そうしてくれ。」
「上は大丈夫だったか? 」
「まだ、ガタガタだ。」
「そうらしいな。・・・こっちでも情報は教えてもらってた。」
「そのうち、確めに行って来る。」
「うん、そうしてくれ。おまえの知らない世界が、たくさんあるから、それも見てくるといい。」
「ああ。」
「今は、まだ動かないほうがいいぞ。世界連合のことで、いろいろと不穏な動きがあるらしい。」
「ああ、今は、あんたの世話があるから動けない。」
ぐいぐいと腕を取られて、引っ張られる。刹那は、いつものように右側にいる。そちらに居られると、ロックオンには見えないのだが、体温が触れていて、存在は分かる。先にあるものが、なんであろうと、刹那は迷わないだろう。だから、それについては安心している。無事でいてくれれば、それでいい。
「俺の心配も、あまりされないように努力する。」
「うん。」
「普通に生活する分には問題はないらしいから、体調が戻ったら、また『吉祥富貴』で働くけどな。」
「俺も、ここに居る時は働く。」
「あんまり勧めたくないんだけどな、俺としてはさ。」
「社会勉強になる。」
「・・・そうか?・・・」
ぶらぶらと戻って、部屋の前に辿り着いた。雲が高くて、気持ちのいい青空がある。つかの間の休息という言葉が、ふいに頭を過ぎる。何年かして、世界に歪みが生じたら、また、組織は動き出す。それまでの時間は、平和であるといい。
「三年したら、おまえと酒が呑めるんだなあ。・・・それまでには、酒が呑めるように体調を戻しておくから、付き合えよ。」
作品名:こらぼでほすと 逆転4 作家名:篠義