二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

immortal lover

INDEX|2ページ/13ページ|

次のページ前のページ
 

詳しく問いただそうとすると、それより早く彼女は言った。

「あ、朝ごはんできてるよ。ほら、早く顔洗ってきて!」

「………」

洗面所に追いやられ、俺は腑に落ちないながらも彼女に従った。







「おはよう、レン」

朝の香穂子の挙動には疑問を覚えたが、朝食の席では特に話題にものぼらず、いつものように家を出た。

今日は事務所に寄ったあと、スタジオに入る。その後、取材があったか―――

「おはようございます」

「あ、これ今日の書類ね。必要な楽譜と資料」

「どうも」

「あと…そうそう」

スタッフに招かれて、俺は別室へ移動した。

「これなんだけど」

そこには、段ボール箱3箱が、口を開けて並んでいた。

「………」

「どうする?これ。手で持っていくわけにはいかないとは思ったんだけど、一応尋ねてからにしようと思って」

一週間に一度は、事務所を訪れ、スケジュールや必要書類を受け取るのだが。
受け取らなければいけないものは、他にもあった。

「しかし、本当にレンの人気はすごいねぇ。演奏もさながら、ルックスもいいもんだから女性ファンが物凄いよ」

「………」

この段ボール箱の中には、ファンからの手紙やプレゼントがぎっしりと詰まっている。
…確かに、俺の音楽に共感してもらえるのはありがたいが…。
手放しでは喜べない。

なんというか、こう、アイドルのような扱いを受けているような気がして。
俺はあくまで音楽家―――ヴァイオリニストだ。だから、ルックスで持て囃されても嬉しくなどない。

「…お手数ですが、いつものように郵送して頂けますか」

「了解。そう言われると思った」

俺は事務所を出て、スタジオへ向かった。















「香穂子」

「あっ!月森くん。お疲れ様!」

大通りのカフェで、俺たちは待ち合わせしていた。
今日は帰宅の時間が重なるということで、せっかくだから外食でもしていこうということになったのだった。

「ここのケーキ、おいしいんだよねー。あっ、先にサンドイッチ頼んでもいい?」

「ああ、好きなものを食べて構わない」

時間が合う時は、王崎先輩を含めて3人で落ち合ったりもするこのカフェは、香穂子のお気に入りだった。
彼女がウィーンに来て初めて俺と一緒に入ったカフェだからだそうだ。

俺は、彼女がウィーンに来る以前から頻繁にこのカフェを利用していたが、特別気に入っている店というわけでもなかった。
ただ、大通りに面していて入りやすく、自宅からも近いからという理由でよく通っていただけで…。

それが、今では俺の中でも特別な場所の一つとなっている。
彼女が気に入っているからといって、自分も特別に感じてしまうなんて…。

自分がどれだけ彼女に惚れ込んでいるのかを確認させられて、誰に冷やかされたわけでもないのにくすぐったい気持ちになる。

「月森くんは、いつもの?」

「そうしよう」

頷いて、彼女はサンドイッチとガトーショコラ、ヨーグルトパフェを注文した。

夕食にサンドイッチとは些か物足りない気もするが、この店のサンドイッチはかなり量が多く、二人で分け合って食べるのが慣例となっている。
もちろん、デザートのために少し胃を空かせておくことも忘れない。

「今日は何をしていたんだ?」

「うん、今日はアンサンブルの授業と…」

「やはり君は団体演奏型のヴァイオリニストに?」

「うん。最後まで悩んだけど、やっぱり自分にはアンサンブルとかオーケストラで弾くのが合ってると思うし…」

「そうか。…よかったな、香穂子」

「え?…うん、ありがとう。でも、月森くんはソリストを勧めてくれてたから…」

「いや、その道でも充分いけると思っていただけだ。君が決めたのなら、それが一番いいと思う」

俺は笑顔で答えた。

俺にとっては、俺と同じ音楽の道を歩み、そして俺のそばにいてくれること。
それだけで充分なのだから。

その先の道は、彼女が決めることだ。

「アンサンブルの授業受けててね…。いろいろ思い出しちゃった。学院のみんなでコンサートしたこととか」

それまでも沢山アンサンブルなんてしてきたのに、今更だよね、と香穂子は寂しそうに笑った。

きっと、彼女は今、俺が単身ウィーンに留学してきた当初の寂しさを感じているのだと思う。

愛しい恋人、親しい友人たちと離れ、一人ウィーンの地で過ごす寂しさ。
それを乗り越え、やがて忙しさに追われて…ふと呼び覚ます、楽しかった頃の記憶。

だが、彼女は俺より幾分マシなのではないかとも思う。
俺とは違い、初めから一人ではなく―――恋人のそばで過ごせるのだから。

なんて、自惚れたことを考えてしまうのは、俺が今とても満たされているからだろう。

「…香穂子。やはり、少し纏まった休みを取って、帰国しないか?」

「えっ?!で、でも、月森くんだって忙しいし。私も大学があるから…」

「休みが取れないわけではないだろう?」

「でも…。ううん、今はまだいい。月森くんがまた公演で日本に行く時、私もついていくよ」

「いつになるかわからないぞ?」

「うん、それでもいい。…それに、あんまり頻繁に帰っても、逆に寂しくなるだけだよ。日本の友達に連絡取る手段は、いくらでもあるしさ!」

「しかし…」

と、注文したサンドイッチがきて、彼女はこの話は終わり!と言わんばかりに笑顔を取り戻した。

「さっ、食べよ食べよ!」

「………ああ」







「どうしよっか、この後」

食事を終えた俺たちは、腕を組み、ウィーンの街を歩いていた。
時刻は8時。
まだ帰宅しなくてもいい時間だ。

「そうだな。…公園にでも寄っていこうか」

「あっ、いいね。じゃあ…」

「?」

彼女は、ぴたりと歩みを止めた。
なんだか険しい顔をしながら、周囲を伺っているような動きをしている。

「どうかしたのか…?」

「う、ううん。………月森くん、やっぱり…もう帰らない?」

「もう帰るのか?」

公園に向かうことを嬉しそうにしていた手前、帰りたいという申し出に少し戸惑う。

「う、うん。ごめんね。ちょっと…疲れちゃって」

「………?わかった。疲れているのに、歩き回らせるわけにはいかないな」

それ以上問い詰めることもなく、俺たちは帰宅した。







帰宅して、ふと思い出したことがあった。
それは、今朝のこと。

いや、今朝だけに限らず、このところ毎日のように書類の処理は行われていたようだが…

起きてすぐのことだったこともあって、今朝は詳しく話を聞けなかった。
なんとなく気になって、俺は彼女に尋ねてみることにした。

「そういえば、今朝…。随分たくさんの書類を処理していたようだが、大学の書類か?」

「!」

大仰ではなかったが、一瞬、彼女の顔が強張った。
………なぜ?

「あ…あれは。そう、大学の書類!」

「………本当に?」

「っ、本当だよ。な、なんで?」

明らかに動揺しているように見える。
何か、俺に隠さなければならない事情でもあるのだろうか?

「香穂子。何かあるのなら、ちゃんと言ってくれないか?俺は…」
作品名:immortal lover 作家名:ミコト