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immortal lover

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いや、それしか言えなかった。

「…月森くんのせいじゃないよ。大学からの電話…本気にして、一人で行った私が悪いの」

「………本気?」

「あれは、大学からの電話じゃなかった。あれは、私を大学に呼び出すために…あの人がかけてきた電話だったらしいの。…警察の人から聞いて、初めて知った。本当に馬鹿だよね、私」

………なんということだ。

「でも、逆に月森くんと行かなくてよかったと思ったの。…だって、もし月森くんと一緒だったら…。月森くんが被害に遭ってたかもしれない」

「………!」

彼女は、彼女は自分がこんな目に遭ってまで、俺のことを。

ますます後悔と罪悪感に苛まれる。
こんなことになる前に、もっと違う方法を選んでいれば。
もっとちゃんと、俺が彼女を守れていれば………!

「月森くん、ちゃんとご飯食べてる?まさか自分で作ったりしてないよね?」

彼女は微笑みながら言った。
俺は言葉を発することもできず、首を振る。

「だめだよ、買ってきてちゃんと食べないと。お仕事は?ちゃんと行ってるよね?」

「………休みを、取っている」

「!だめだよ月森くん!」

ベッドから身を起こそうとする彼女。
俺は慌てて宥めた。

「…どうして休むの?」

「………。君が…。君はヴァイオリンを奏でることができないのに、俺がヴァイオリンを弾くのは」

「そんな理由でヴァイオリンを弾かなくなるなんて、許さない!」

「っ!」

突然の怒号で身をすくませた。
彼女は、見たこともないくらい激しい怒りの表情で俺を見ていた。

「ヴァイオリンは、月森くんの命でしょう」

「………」

「私が弾けないから月森くんが弾かないなんて…私、やだよ!月森くんの何よりも大切なものを、私が奪ってしまうなんて…いや!」

「香穂子…」

「お願い…。ヴァイオリンを弾かないなんて言わないで。お仕事にもちゃんと行ってほしい。私は、大丈夫だから」

しかし、とか。
でも、とか。
そんな言葉が喉から出かかっていたが、彼女はそれを許さないとでもいうように強い眼差しで俺を見つめている。

「…わかった。仕事には、行く。ヴァイオリンも…ちゃんと…」

「ご飯もちゃんと食べて」

「…ちゃんと、食べる」

「………うん」

彼女は、今日で一番穏やかな微笑みを見せた。

俺は…何をしているんだろうか。
謝るべき、励ますべき人に、逆に励まされている。
これでは、どちらが怪我人だかわからない。

「…あのね。先生に聞いたんだけど、私腕を動かすことができなくなったわけでも、ヴァイオリンが弾けなくなったわけでもないの。時間はかかるかもしれないけど、いつかヴァイオリンを弾くことができるようにはなる」

彼女の言葉には、希望が宿っていた。
痛々しく包帯が巻かれた左腕を撫でる。

「だからね、月森くんにお願いがあるの。私がヴァイオリンを弾けない間、月森くんには私の分もヴァイオリンを弾いてほしい。それで、私もヴァイオリンを弾いてることになる気がするから」

ね、と首を傾げて微笑む。

………俺は、深く頷いた。

「………わかった。俺は、君の分までヴァイオリンを弾く」

「よかった。じゃあ、約束ね!」















それから、俺は数日休んでいた仕事にも復帰し、予定していた公演にも無事出演を果たした。

自宅でも、毎日ヴァイオリンを弾いた。
香穂子の回復を待ち、香穂子との約束を果たすために。

そんな日々を過ごしているうちに、俺にはある考えが浮かんでいた。
それはやがて、確信へ満ちて。

それから、月日は香穂子の退院は明日、という日まで差し迫った。







「明日、だな」

「うん!やっとこの病室ともさよならだよ。病院食、まずいわけじゃなかったけど…やっぱり物足りなかったから」

「明日は、君の気がすむまでおいしいものをたくさん食べることにしよう」

「えっ!ほんと?!やったー♪」

彼女が入院してから、俺は毎日見舞いに訪れていた。
俺が、香穂子との約束をきちんと果たしていることを話すと、彼女はたいそう喜んでくれた。

「退院したら…。君に話すことがある」

ぽつりと言った言葉に、香穂子はぴくりと反応した。

思えばこの時、俺が何を話そうとしていたのか―――既に気づいていたのかもしれない。

「えっ!なんだろう?…もしかして、プロポーズとか?」

「本当にそうなら、楽しみを失うことになるが…いいのか?」

「あっ!そ、そうだよね、今のナシ!うーん、なんだろう。全然わからないなぁ」

「もう遅い」

ひとしきり笑い合ってから、俺は病室を後にした。















「………お腹…いっぱい…」

腹を抑えて、苦しそうに彼女は言った。
きもちわるい、などとしきりに呟いている。

俺は笑いながら言った。

「いくらなんでも食べすぎだ」

「だーってぇ…。月森くんがこんなおいしいものばっかり、たくさん用意してくれるからじゃん!」

退院を迎え、彼女は久しぶりに自宅へと帰ってきた。
久しぶりの、二人での夕食。

「全て買ってきたものばかりですまないが…」

「ううん、全然。さすがに退院したての体に月森くんのお料理はヘビーかなぁ…」

「そうだろう。また入院させることになっても申し訳ない」

「………確かに」

「…さすがに否定してほしかったな」

二人だけの夜に、笑いは絶えなかった。

俺が片付けを始めようとすると、香穂子も椅子から立ち上がった。

…彼女の腕の包帯は、まだ取れない。
傷は塞がったが、彼女が傷痕を見られたくないから、巻いたままだということらしい。

傷は塞がっても、まだ以前のように腕を動かすことはできない。

「香穂子、君は休んでいてくれ。君が入院している間に培った家事能力の見せ所だ」

「あ………」

彼女は一瞬悲しそうな顔をする。
…無意識に立ち上がったのかもしれない。
しかし、俺の言葉を聞いて、すぐに笑った。

「わかった!じゃあ、お手並み拝見させてもらうね♪」

「ああ、見ていてくれ。………」

「月森くん、燃えるゴミと燃えないゴミ、ちゃんとわかってる?」

「………すまない」







先に入浴を済ませた俺は、後から入った彼女が出てくるのを待っていた。
まだ入浴も不自由だろうと手伝いを申し出たが、「エッチ!」と言われて追い出された。
…入浴の方法などは、きちんと病院で教えられたから、問題はないらしい。

「……………」

………話を、する時がきた。

ずっと、この話をすることを考えていたのに。
いざその時がくると、話したくないという感情が強くなる。

でも………

「ふぅ、やっぱり家のお風呂はいいね〜」

香穂子がバスルームを出てきた。
俺は、心を決める。

俺がリビングで待っていたことを知り、彼女にも構えた表情を浮かべた。

「昨日話したこと…覚えているか?その…。君が退院したら、話したいことがあると」

「…うん、もちろん」

香穂子はタオルを首にかけて、向かいのソファーに座った。

「………。これから話すことは、君が入院している間…俺なりに考えたことだ」

「うん」
作品名:immortal lover 作家名:ミコト