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A clematis

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「えっ?!そうなんですか?!わ、私、柚子あんの水まんじゅうが大好きで!おいしいですよね、あれ!」

「ふふ、ありがとうございます。…失礼ですが、お名前は?」

「あっ。私、日野香穂子といいます。柚子せんぱ…オーナーは、高校時代の先輩で」

「………」

かなでは、「日野香穂子」という名前を聞いて、ひっかかりを感じた。どこかで聞いたような…

「そういえば…。柚木さんは、星奏学院出身だと聞いたことがあるんですが」

「あっ!よく知ってるね、もしかして君も…」

「あ、いえ。僕は仙台の方の学校なんです。彼女は、星奏学院に在学中なんですよ」

八木沢から手を差し出されて、かなでは言った。

「あ、あの。小日向かなで…です。よろしくお願いします…」

「日野香穂子です!こちらこそよろしくね。そっかー、星奏学院なんだ!普通科?音楽科?」

「音楽科…です」

「音楽科なんだ!音楽科の夏の制服、可愛いよね〜♪」

「思わぬところでOGとお会いできて、よかったですね、小日向さん」

「はい!」

「………」

香穂子は八木沢とかなでを交互に見て、にやりと笑って言った。

「…二人は、恋人同士?」

「「えっ!」」

思わずハモってしまった。
それから目が合ってしまい、二人とも赤くなって俯く。
香穂子はやっぱりねー、と笑った。

「お店に入ってきた時にね。お似合いだなーって思ったんだ!」

「………」

「………」

「………日野さん?」

「?!」

優しげなのに、どこか怒気を含んだような声がして、三人は声の先に注目する。

「柚木せんぱ…オーナー………」

「お話するのもいいけど、先にご注文を、………ね?」

「は…はひ…」

香穂子は冷や汗をかきながらハンディーを取り出した。

「小日向さん、好きなものを頼んで下さい」

「えっ!い、いいんですか?」

八木沢は微笑んで頷く。
食べられないものは?と聞いたりしながら、かなでは注文を決めた。



「…仕事なんだから、しっかりやってほしいね」

「…すみません」

香穂子は、バックで柚木に怒られていた。

「手伝いたいと言ったのはお前だろう?俺の知人にならまだしも、他のお客の目だってあるんだ」

「すみません…。だって、星奏学院だって言ってたから…つい懐かしくなって、話したくなっちゃって…」

「気持ちはわからないでもないけれど、仕事中はしっかりやれ。そんなに雑談したいなら、連絡先でも聞いて店の外で話すんだな」

それだけ言って、柚木は店内の見回りに行ってしまった。

「………」

がっくりと肩を落とし、そして

にやり

香穂子は笑った。

「(あ〜、やっぱり仕事中の柚木先輩はかっこいいなぁ♪あの厳しい物言いがたまらないんだよね〜♪)」

香穂子が本業の傍ら柚木の店を手伝いにきているのは、80%がそんな理由だった。
もちろん、半端な仕事をしたら彼の店を潰しかねない。そこらへんはしっかりやっているつもりだが、
仕事の合間で、こうやって小さな幸せを噛み締める。

「(そーよ。別に不純な動機だけじゃないもん。集客もしてるしー)」

実際、香穂子に会いたいがためにこの店に通う客も多い。
一方は一度接客をしてから気に入ってくれた客と、もう一方は―――



「お待たせいたしましたー」

「わあ♪」

「おいしそうですね!」

前菜から、既に期待大だ。
かなでも八木沢も、早く食べたい、と言わんばかりに料理を眺めた。

「どうぞ、ごゆっくり!」

「ありがとうございます。…じゃあ小日向さん、頂きましょうか」

一緒にきたジュースのグラスを掲げ、八木沢は言った。

「はい!…えっと」

「そうですね。…では、全国優勝の前祝いで」

「えっ!」

「ここで乾杯したからには、…小日向さん。負けられませんよ?」

「………はい!」

かなでは、たまに出る八木沢のこういった厳しめの言葉も好きだった。
優しいだけじゃない、男の中の男。

「「乾杯!」」



その後、続々と運ばれてくる料理も、どれも見た目・味共に最高級で。
最初は緊張していた二人も、だんだんと顔を綻ばせていった。

「………うん、よかった。二人とも、気に入ってくれたみたいだね」

楽しそうな二人を見て、柚木は満足げに微笑んだ。

「ね。楽しそうでよかった。可愛いですよね、あの二人。初々しくて、ついからかってみたくなっちゃう」

「…お前がからかう側に回るなんて、随分と成長したじゃないか、香穂子」

「柚木先輩は、相変わらずですよね…」

「ふうん。そんなこと言うんだ。じゃあ、今日は意地悪五割増し、時給五割減だな」

「な、なんだってー!横暴です、オーナー!」



「八木沢さん、私思ったんですけど」

「なんでしょうか?」

次はいよいよデザートがくる。
それを待つ間、二人は話していた。

「日野さん…って。オーナーとは、ただの先輩後輩の関係じゃないですよね…?」

「………?それは、どういう…?」

「………」

八木沢の言葉を受けて、かなではきょとんとした。
それから、くすくすと笑う。

「八木沢さんって…。私が相談した時は、僕の勘はよく当たるんですよー、なんて言ってたのに、こういうことには勘が働かないんですね?」

「え…?………あっ」

言われて、ようやく気づいたようだ。
八木沢は照れて赤くなる。

「小日向さん…。からかわないで下さい。僕は…その」

「からかってるわけじゃありませんよー」

「…日野さんは、きっと柚木さんの大切な人なんでしょうね。信頼し合っていることは、僕にもわかりましたから。でもその先は、きっと女性の勘、というものではないでしょうか」

「そうかなー?…でも、いいですね。彼氏のお店を、彼女が手伝う。女の子からしたら、理想だなぁ、そういうの」

言ってから、かなでははっとする。

「私も、いつかは…」

「小日向さん…」

あなたの隣で、あなたのお店のお手伝いをしていいですか?
その先は、どうしても照れてしまって、言うことができなかった。

八木沢もかなでの言いたいことがわかったのか、顔を赤くしたままかなでを見つめている。

「お待たせしました。八木沢和菓子店直送、水まんじゅうの盛り合わせと梅ゼリーでございます。特製シロップをかけて、お召し上がり下さい」

デザートを持ってきてくれたのは、柚木だった。

「わあ…」

やっと来た、とかなでは目を輝かせている。

「デザートに関しては、当店ではほとんど手を加えていません。どうぞ、本場の味をお召し上がり下さい」

デザートを並べてくれる柚木に、八木沢は言った。

「デザートを二品出してくれるお店も珍しいですよね?」

「ふふ、実はね。最初は梅ゼリーだけだったんだ。けれど、お客様から『あの和菓子のデザートをもっと食べたい』という声が多くて、水まんじゅうも添えることにしたんだよ」

「そ…そうだったんですか…?!」

「満腹のお客様でも、このデザートだけはつるりといけてしまうみたいでね。大好評なんだよ」

「すごいですね、八木沢さん!」

「ええ…!父に話したら、きっと大喜びすると思います…!」
作品名:A clematis 作家名:ミコト