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A clematis

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かなでは頷いた。

「は、はいっ!もちろんです!」

「よかった♪…今日はどこに行く?」

「あの、喫茶店に入ってもいいですか?ご相談したいことがあって…」



「なるほど!八木沢くんに、お祝いしたいんだね!」

「はい。…でも、久しぶりに会うから、何かプレゼントするだけじゃつまらないかな、って…」

「そうかあ…。うーん………」

思い起こすのは、柚木との思い出。
彼に何をしたら喜んでくれた?
私は何をされたら嬉しかった?
もちろん、プレゼントを渡したり、どこかいいお店に行ったりすることは、喜ばれたし嬉しかったが…

「…かなでちゃんにしかできないことをする、とかは?」

「私にしか…?」

「そうそう。たとえば…ヴァイオリン弾いてあげるとか!」

「あっ…!で、でも。私のヴァイオリンなんかじゃ…喜んでもらえるかどうか…」

「喜んでくれるに決まってるじゃない!それに、そういうことなら私も協力できるからね…?」

「………!」

こうして、八木沢の合格祝いパーティーの企画は進んでいった。







「………ってことなんですけど」

「……………」

柚木は黙ったまま微笑んでいる。
香穂子は彼と目を合わせることができずに冷や汗をかいていた。

「………いいぜ。うちの店を貸してやる」

「ほ…本当ですかぁ?!」

大手を振って「ゆずのはでお祝いすればいいよ!」なんてかなでに言ってしまった手前、本人に許可を取ることにビクビクしていた。

「貸し切り料はお前の時給3年分で手を打ってやる」

「う…っ。あの、本業の収入でなんとかします…」

「冗談だよ。…ただし、貸し切らせるのは営業時間が終わってからだからな。さすがに丸一日の売り上げを減らすわけにはいかない」

「そ、それで全然平気ですっ!で、その…。当日は、柚木先輩にもフルートで参加してもらいたいなぁ、と…」

「俺も?まあ、構わないが。ヴァイオリン二本とフルート、それだけでいいのか?」

「…まあ、曲は悩みますけど。同じ事務所の子に、声かけてみようかな…」

「適任なメンバーがもっと他にいるだろう?」

「え………。ま、まさか」

「日にちが決まったら、俺に教えろよ」















「ど…どういうことなんですか?!」

進路相談室で、八木沢は叫んでいた。
季節はもう、秋真っ最中の10月。

進路相談室に呼ばれた八木沢は、校内推薦の結果を告げられるのだとばかり思っていた。
それなのに―――

「今更文句を言われてもどうにもできないぞ。…既に、校内推薦枠が埋まっているどころか、校内推薦を通っているんだからな」

進路指導の教師は、そう言ってほくそ笑んだ。

「ぼ…僕は確かに、願書を提出しました!三年になってからも、僕はあの大学に進学するつもりだと話していましたし…っ。願書を受け取って頂いたのは先生じゃないですか!」

「知らんなあ。…お前の勘違いじゃないのか?」

「そんな…」

八木沢が提出したはずの校内推薦の願書。
それは受理されておらず、推薦枠はなんと他の生徒で埋まり、既に通ってしまったというのだ。

普通に考えて、ありえない。
だが、八木沢にはわかっていた。
なぜ、こんな仕打ちを受けたのか―――

「お前は星奏学院の生徒と交際しているそうだな。関東の大学にでも行ったらいいんじゃないのか、え?ライバル校の生徒と付き合うような愛校心の浅いお前より、他の生徒を推薦枠に入れてやりたいと思うのが教師心ってやつだ」

進路相談室を出ようとした八木沢に、教師はからかうように言う。
その言葉の中には、静かな怒りが宿っていた。

―――進路指導の教師…それは、
火積を退部にさせようとした、吹奏楽部の元顧問。

「(大学は、一般入試でも入ることはできる。でも…。11月には、とても間に合わない…)」

11月に会えることを、かなではあんなに楽しみにしていてくれたのに。

…いや、今は自分の進路を最優先で考えるべき時だ。
あの時、かなでにだって言い聞かせたじゃないか―――

「(小日向さん…ごめんなさい…)」



「えっ…?そ、そんな、まさか!」

「部長が校内推薦で落ちるなんて…ありえねぇ…!」

「や、八木沢!どういうことだよ!」

吹奏楽部の部室内。
部員たちはみな一様に「信じられない」といった顔で、八木沢を囲んでいた。

「はは…。僕じゃ、まだまだ実力不足だったみたいだ。みんな応援してくれたのに、ごめんな」

八木沢は、部員たちに「校内推薦に落ちてしまった」と話していた。
本当のことを話したら、きっとみんな進路指導の教師に抗議に行くだろう。
でも、そんなことをしたら、彼らまで目をつけられてしまう。

あと少しで卒業してしまう自分とは違い、彼らの中には1年生や2年生もいる。これからもこの学校で、うまくやっていかなければならないのだ。

「……………」

そんな中、伊織だけは黙ったまま、八木沢を見ていた。

「…今日で、僕たち三年は引退だ。最後の日に、こんな報告をしてしまって、すまなかった。最後にみんなで合奏しよう」



「……………」

全員で最後の演奏を終え、部員たちは部室の片付けをしていた。
八木沢と狩野は用事があると言って先に帰った。

「あっ、これどこに置いたらいいですか〜?ほ・づ・み・ぶ・ちょー♪」

「う…うるせぇ…」

「いたたっ!なんで殴るんですかぁ〜!」

火積は赤くなって新を叩く。
…しかし、すぐに表情を暗くした。

「しかしよ…。八木沢部長、どうしちまったってんだ…。あの人が校内推薦に落ちちまっただなんてよ…!」

「…オレも今だに信じられませんよ。八木沢部長のことだから、一般入試でもすんなりだろうけど…。早く受かって、かなでちゃんに会いに行くんだ、って嬉しそうにしてたのに…」

「………あのっ!あの………」

珍しく声を張り上げた伊織に、一同が注目する。

「どうしたんだ、伊織…?」

「ボク…ボク、聞いちゃったんだ。昨日、たまたま進路相談室の前を通り掛かって…」



「マジですか、伊織先輩…」

八木沢は、校内推薦に落ちたんじゃない。
進路指導の教師の嫌がらせで、推薦を受けることすらできなかった。
伊織が一部始終を話すと、一同は絶句した。

「そ…、そんなの。嫌がらせどころの話じゃないじゃないか…!」

ガタッ!

「ほ、火積先輩!」

勢いよく立ち上がり、部室を出ようとする火積を、新が羽交い締めにする。

「火積先輩!落ち着いて下さい!」

「離しやがれ、水嶋!あの野郎、俺がぶっ殺してやる!」

火積は激しい怒りで我を忘れ、今にも新を振り切ってしまいそうだ。

「お、落ち着いてよ火積くん!…八木沢部長が落ちただなんてボクたちに話したのは、きっとボクたちのことを考えてくれたからなんだ…」

「そ、そうですよ、火積先輩!ここで火積先輩がアイツを殴りでもしたら、退学になっちゃいますよっ!そんなことになったら、吹奏楽部の部長はどうするんですか!八木沢部長から托された部長のポジションを、どうするつもりなんですか!」

「くっ…」
作品名:A clematis 作家名:ミコト