lost heven 02
コロコロと表情が変わるエドを見ながら、思わずロイは微笑んだ。
「ん・・・、なんだよ?」
「君の表情は見てて楽しいのだよ。その蜂蜜色の瞳から涙が零れたかと思えば、次は笑みが。そして、怒った表情を浮かべた瞬間絶望に満ちた表情になったり」
「・・・で?」
「私は、君の表情が愛しくてたまらない。」
「・・・やっぱり、あんたは違うんだな。」
「おや?何がかね?」
「表情の変化も、髪の色も、瞳の色も・・・全部違う、けどさ・・・」
「けど・・・?」
「そんな二人だから惹かれたのかな・・・て思った」
俯きながら言ったエドにロイは優しく額にキスをした。この一言でエドの考えてることがわかった気がした。だから、優しくキスをして抱きしめたのだった。
「ふっ・・・アンタやりすぎだよ。もうっ」
今度は頬を膨らませ拗ねるのかね…とロイは苦笑した。また笑うな!と、エドが言いそうなのでそれは隠しておいたが、苦笑が漏れてしまったようで
「あぁ!もう、また笑った!!」
「ふ、すまないね。くくっ」
「だーかーらーんなに笑うなっ!ん~・・・」
ぷはぁ・・・と息を吐いたエドは目をこすりながら、ロイの方を向いて言った。
「ロイ、ご飯冷めるよ?」
「そうだな・・やはり君の作ったご飯は美味しいよ、また作ってもらいたいね。」
ロイのその言葉を聞いたエドは俯いてしまった。
「あっ・・・すまない!」
「・・・いや、良いんだ。」
エドは自分で自分自身を抱きながら呼吸を早めていった。
「・・・はぁっ」
目から光を失い過呼吸気味になって涙を流した。
「エド?」
「ろ・・・いっ、ごめっ」
「まだ、気持ちに整理付いてなかったのか」
「な、んだか今日、泣きっぱなしだ…」
「っつ・・・少し待ってろ」
そう言って、一人涙を零すエドを置いてロイは台所に向かった、それはエドにホットワインを飲ませるためであった。本当はミルクの方がいいし、あまりアルコールの味を教えたくないのだが、牛乳が嫌いなエドのことを考えワインにしたのだ。
「エド…これを飲みなさい」
「・・・ろ、これなに?」
「いいからっ」
それが入ったコップが薄いエドの唇に当たる。おかしな態勢で与えているので少しこぼれてしまった滴をロイが舐め取った。
「え・・・ちょ!ロイ?」
「疲れているのだろ?今だけ眠りなさい。」
エドの目を手で隠したロイはエドの耳元でこう呟いた。その時にはエドはもう夢の中だったのだが。
「戦争がキミを変えなければいいが…、未知の物理学について一番知っているのが彼、そしてあの地域にはあの物理学者の息子がいるという・・・」
言い知れない不安に駆られたロイは静かにまた一つエドに口付けをした。
人殺
一歩・・・そしてまた一歩と戦場を進んでゆくのはエド達を率いる前線部隊であった。史上最年少の錬金術師は、たった一人である地域を任された、戦場において子供というのは一番守るべき存在なのである。故に彼が抜擢されたのだそうだ。それは上の者の罠・・・に近いものだったのだ、幾ら精神が強いとはいえ一人ずつ自分と年の違わない・・・ましてや年が下の子供たちを殺めてゆくのだ。さすがに精神を崩壊させるだろう・・・そして理由はまだいくつかあるのだ、エドはあまり軍に近づこうとしないので誠意を試すという意味もあるのだ、一方ロイはエドと全く反対の地域での戦闘だった。
「くそっ。」
「大佐、荒れてますね。」
「ありゃあ大将不足じゃないですか」
「そこの、二人私語は慎め!!」
「「はい、マスタング大佐」」
その返事を聞くとロイは己の拳を壁に叩きつけた。
「鋼のっ!すまない・・・」
下唇を切れるまで噛んだロイは、自分の失態に後悔していた。あの夜にエドが涙を流していたのは記憶に新しい。そして、ロイはもう一つ気掛かりなことがあった。無論、その原因とは物理学者の息子のことであるそいつの名をリジェと言った。ロイはエドだけは殺させたくないと思っていた、それはエドも同じである。
「はぁ・・・無事でいてくれよ…」
そういって、ロイは空を見上げたのだった。
「ここか…」
そのころエドはたった一人で担当された地域に来ていた。暗いその土地に不釣り合いな金色の髪をいつもの三つ網ではなく一纏めに束ねていた。二、三度呼吸をした後、両手を合わせ剣を錬成しそれを左手に持った。ウィンリィが作った機械鎧に人殺しはさせたくなかったという理由が一番妥当と言えよう。そう考えていると、物影から子供が三人、銃を抱えて出てきた、その中の一人はアルフォンスが成長した後の様だった。
「糞錬金術師め!!あんた達がいなければ物理学者が・・・蒸気機関が発達した新しい世界ができるはずなんだ!!」
「そうよ!さっさと、自分たちの罪を認めて私たちの技術を認めなさいよ!」
「・・・人を幸せにしない科学なんて科学じゃないんだろ?」
最後に出てきた黒い髪の少年の言葉にエドはピクリと体を震わした。
「あんたらがやってることは幸せになる科学なのかよ?」
そう生意気に言い放った少年にエドは剣を突きつけていった。
「遺言はそれでいいか?」
いつもより低い声が知らずに出てエド自身びっくりした。
「ふっ・・・オレよりチビに殺されるなんて、」
グサッ、剣が深く刺さり一気に引き抜くと少年は倒れた。少女が寄ってきて思い切り
「人殺しっ!!」
と叫んだ。少女は、もう二度とエドを許すことはないであろう。エドは剣を分解し遠距離にも使える銃に再構築した。銃を持った瞬間エドは人が変わったようになった。最初に刺した事で吹っ切れたのだろうか?使えもしない拳銃を持ち子供たちを打つ姿は人を殺してるとは思えないほど美しかった。
「・・・大半は、終わったな。」
ふぅ・・・と息を吐いたエドは、辺りを見わして自分が行った罪を確認した。
「こんなに、たくさんの人をオレが」
殺したんだ。確認しなくても分かっているはずだった、ロイの家で心の整理もできていたはずなのにこの目から零れ落ちる雫は何なのだろうと、自分の甘さを悔やんだ。
「ロイも、辛いはずなのにっ・・・。なのに…なんで。」
頬の血が涙で流れてゆく、せめて大砲を使えればいいのだが目立つ行動は避けろと言われているのでそれはできないのだ。
「うっ・・・もう、感情なんか消さなきゃなんねぇんだ。」
涙を拭い、自分に用意されたテントに向かうエドの目には光が無かった。
「エド…」
ロイはそのころ、一人与えられたテントで悩んでいた。
「平気か…、キミの精神は。あくまで子供なのだから。」
人のことを気にするな…といったロイだが、実際は自分自身が一番心配しているのだ。
「彼を信じてやれないなんて…信じてやりたいのに。」
「大佐、」
リザがロイのテントに入ってきた。よほど大事な用らしく顔は強張っていた。
「どうした中尉!」
「エドワード君のいる地域に居るリジェと呼ばれる少年が、研究所からウラニウムを盗んだらしいとのことです。」
「あの博士の息子がか…!そして、ウラニウムとは。」
「はい、それについては、あまり資料がないのですが・・・なんでも放射能を放つ物体だそうで、使い方によっては凶器に代わるようで・・・素手で触ると大変危険なものなのだそうです。」
「そうか・・・リジェはエドに復讐つもりなのか…」
作品名:lost heven 02 作家名:空音