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連理

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 二人が去ったのちに、家康と元親はどちらからともなく顔を見合わせる。
「――刑部……大谷吉継。あの男なら、考えられないことじゃない」
 家康が静かに言えば、元親もまた怒りを秘めた声音で答えた。
「毛利元就、あいつが糸引いてたってのも疑う必要はねえよ」
 白々しくも停戦を掲げ、石田軍との同盟を勧めた男を思い浮かべる。
「見極められなかった俺は、あいつにとっちゃどれだけ、………」
 唐突に、元親は物凄い勢いで家康へと向き直ると、叫ぶように言った。
「すまねえ家康……!許してくれ!俺はとんでもねえ、取り返しのつかねえことをしちまうところだった……!いや、お前を疑ったこと自体が、俺は」
 そのまま土下座までしそうな勢いに、家康は慌ててその肩を掴んで引き留めた。
「も、元親!やめてくれ。いいんだ、ワシを信じてくれたろう、許すも許さないもない!」
「だがそれじゃあ俺の気が……」
 家康はきっぱりと首を振る。
「いいんだ。……それにな元親、ワシは、お前が石田軍と同盟を結んだと聞いて驚いたが……、少しだけ安心もしていた」
 友が敵方へ行って安心した、などという妙な言葉を聞き、元親は伏せていた顔をあげる。その視線の先で、家康は不意に小さく笑みを零した。
「ああ、元親……お前に話したいことが、たくさんあるんだ」
 その柔らかな表情を、信頼を込めて自分を見つめる顔を見て、今更ながらに元親の背筋が冷える。自分は一歩間違えればこの男を誤解したまま槍を向け、怒りと憎悪でその命すら断ち切っていたかもしれないのだ。
 家康はその表情のまま、何かを思い描くように宙へと顔を向けた。
「……やはり、ワシの思ったとおりだったな」
 突然そんな風に呟いた家康を、元親が見る。家康が顔をこちらへ向けないと知ると、元親は静かに碇槍を地に突き立てて、そこに背を預けた。何も言わぬまま聞く体勢を見せた元親に甘えて、家康は問わず語りのように言葉を紡ぎ始めた。
「三成は、不思議な男じゃなかったか。……いや、どうなのだろうな。今のあいつは、もう、孫市の言う通り変わっていて……ワシのことを憎んで……それ以外に何か、何か残っているだろうか。……不器用でな、融通がきかなくて、言葉もきついし、前にある背しか見えていないものだから周囲はまるで自分が馬鹿にされたような気になることもあって、……敵を作って。まったく生きているだけで損をしているような、奴で……」
 元親はぽつりぽつりと落とされる言葉を黙って聞いていた。
 一度でも石田軍にいなければ、相手方の総大将を語るにしては妙なその響きに違和感を覚えたろう。だが憎悪に呑まれてなお、真っ直ぐな眼と言葉を持ち、瞬きをすれば消えてしまうような一瞬に幼い表情を見せたことすらあったあの男を思えば、何となく家康の言いたいことはわかる気がした。
「だから元親ならそういうものを見逃さずに、汲み取ってくれるのではないかと……三成を分かって、真正面から認めてくれるのではないかと安心していた」
 もし、と元親は思った。
 もし自分が西軍に行かずに初めから家康の傍にいたのなら、家康は元親の同盟を心から歓迎して、共に天下の泰平を目指そうと朗らかに笑いかけたろう。そしてどんなつらい局面であれ迷いは見せず泣き言は言わず―――こんなにも感情の滲み出た独白を聞かせることなどしなかったように、思う。
 紡がれ零れ落ちていく執着の切れ端を、元親であれば否定しないと感じたのか。
 石田は卑怯な真似はしないと同意した、元親のその言葉を、家康は心の底から嬉しがったのだ。

作品名:連理 作家名:karo