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てのひら、ひとひら

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心なしか、丹念に舐める動きを繰り返していた銀時の舌に、煙草の辛さよりも吐息の甘さの方がより濃密に感じられて、銀時は土方の背に回していた掌を静かにその背筋の綺麗なラインに沿って撫で上げると、後ろ髪へと指を差し入れて、より強く引き寄せた。
もう、降る雪の凍るような冷たさなど、感じない。
其処にある、二人分の熱だけを夢中で追い掛ける。
舐めて、擽って、絡めて、吸い上げて、甘く噛んで。
抑えていた欲望がぞろりと蠢きだし、背骨を伝って這い上がって来る感触を、まだ皮膚一枚向こうの距離に感じながら、この侭、この熱に流されてしまおうかと、ぼんやりと淡い快楽に浸りながら銀時がそう思った時、不意に土方が首を反らして口づけを解いた。

「……は、……」

濡れそぼった吐息が、戯れが過ぎてすっかり赤味を増し、官能的に熟れたその唇から漏れ出るのを耳にして、自分から離れてしまった土方を咎めるように、尚も銀時は追い縋ろうとしたけれど、土方は無理矢理に片手を腕の輪の中にこじ入れて、銀時の胸元を掌でやんわりと押す。

「……も、やめとけ。これ以上は、駄目だ……」

 拒絶でさえも、甘く鼓膜を擽る響き。
 互いを包み込むように降りしきる雪の淡い白が、仄かに土方の姿を照らし出し、そのほんのりとした明るさが目に柔らかく映り込む。
何もかもが酷く柔らかくて、そして土方が銀時へと向けた眼差しのちらちらと揺らぐような色合いは、劣情に灯された銀時の中の熱を、やがて穏やかに鎮めてくれた。
惜しいと思う気持ちがないと言ったら嘘になる。けれど銀時は官能のざわめきを無理に追い掛けるよりも、今、自分へと穏やかな柔い眼差しを向けてくれる、そんな土方の珍しい様子に、胸を擽るような嬉しさを感じて、だから腰の辺りで焦れている疼きを、息一つ飲み込む事で意識の外へと追いやった。

「んじゃ、もうちっと。このまんまでさ。確かめさせろよ」

あともう少しだけだから、と。そんな銀時の我が儘は、そしてやはり聞き入れられるのだ。そんなに甘くてどうするんだ、と、今度は拒む事をしない土方の体を抱き締めて、銀時はそう思った。
警戒心も敵対心も人一倍強いと言うのに、一度信頼したら疑うと言う事を知らない、ある意味、危ういまでの無垢さを、この土方十四郎と言う男は持っている。
だから、こんな悪い男につけいられて絆されちまうんだよ、と苦笑混じりに銀時は胸の内、呟きを落としたけれど、腕の中から伝わってくる暖かな体温を、手放せるような自制心など持ち合わせては居ない。
この腕の中の確かな温もりは、どうして、こんなにも愛しいのだろう。
銀時は少しだけ背を丸めると、土方の肩の上に顎先を乗せる。そうすれば、互いの顔を見ることは出来なくなる。 
今、きっと泣きそうに笑っている自分の顔を、銀時は見られたくはなかった。

「…うん。消えねーで、染み込んで来る」

 そっと、囁くような声で白く凍てついた息を吐き出すと、土方は『あ?』と低い声を語尾上げに発した。

「……話が全然見えねーんですけど」
「構わねーよ、解んなくて」
「……あー、そうかよ。俺も天然パーマの考える事なんざ、微塵も解んねーよ」

土方の憎まれ口は、言葉自体は相変わらずだったが、その声のトーンは酷く穏やかな物になっている。
互いの顔が見えない姿勢でも、銀時には土方が雪を眺めている静かな表情が見えるような気がした。
土方の肩に顎を乗せたまま、少しだけ顔を傾けると、頬にさらりとした細い髪が触れる。外気に少しだけ湿ったその感触をもっと感じたくて、甘えるように銀時は鼻先を其処へと埋めた。
ゆっくりと息を吸い込んでも、強く感じるのは煙草の香り。
けれど、それは何処か胸が疼くような甘さを銀時に伝えてくれる。まるで一面の凍てつく真白の中、密やかに咲いた花のような。
触れても消えない。
触れたなら互いの熱に溶けて肌から染み通る。
静かに降り積もり、この掌の上に落ちて来た、ひとひらの雪にそっと紛れ込んでいた綺麗な花。
この掌の上に。
この腕の中に。
この胸の内に。
消えないひとひらの温もり。
その温もりが、もう、空ではないのだと教えてくれる。

―――嗚呼、やっぱり悪かぁねぇな。


「……っくし!」

どれだけの時間、そうしていたのだろう。
互いの鼓動さえもはっきりと鼓膜が捉えそうな静けさを、唐突に破ったのは土方のくしゃみだった。
慌てて抱擁する腕を解いた銀時は、悪り、と一言謝罪する。
見れば、傘の柄を握り締めた侭の土方の指先が、血の通りを悪くし紫色になっている。
ず…、と洟を啜る土方の顔は、鼻先と言わず頬と言わず、すっかり冷えて真っ赤に染まっていた。土方の髪に顔を埋めていた銀時とは違い、寒空の下、ずっと冷気を浴びていたのだから、それも当たり前の事で、漸く銀時の腕から解放されると、じとっと恨みがましい目線を送って来る。

「……あららら。多串くんたらすっかり林檎ほっぺ。田舎の子みたいで、かっわぃーいん」
「誰のせいだコラァ!!ついでに言うなら武州が田舎で悪かったなコノヤロウ!」

場を和ませようとして、土方の真っ赤になった頬を両手で包むように触れた銀時の軽口は、当たり前のようだが火に油を注いだ。
ついでに実は密かに土方が持っているらしき、田舎コンプレックスのような物まで刺激してしまったらしい。
先程までの穏やかな一時は何処へやら。すっかり冷えてしまった身体と銀時の言葉に機嫌を損ねたらしき土方は、頬を包んでいる銀時の手を乱暴に振り払った。

「怒るなって。……嗚呼、そうだ。これから肉まん買いに行かね?俺、丁度買いに行く途中だったんだ」
「………肉まんんん?」

ぱちくりと土方が瞬きをする。長い睫が音まで立てそうで、土方のそんな表情に銀時がまた笑う。虚を突かれたのか反応が鈍ったのを良い事に、銀時はさっさと土方の冷え切った手を掴んだ。
その手を引っ込められてしまう前にしっかりと指を絡め、己が引っ掛けている着流しの懐へと、強引に誘導してしまうと、銀時はコンビニまでの道程を歩き出す。
地面に突き立てた侭だった傘を、その途中で引っこ抜いて小脇に抱え、相変わらず土方の差す傘の下から抜け出さず、端から見れば相合い傘に収まる格好で。
此処に至ってやっと土方は今の状況に気付いたようだ。一つ傘の下、にやけた笑みを向けている銀時に声を荒げる。

「……コラ、テメー図々しいぞ!」
「いーじゃねーの。こっちの方が身体が近付いてあったけーだろ?ほら、肉まん肉まん。早くしねーとガキどもが帰って来ちまうよ」

今やすっかり銀時のペースに巻き込まれた土方は、『うぅ』とか『むむ』とか、小さく唸っている。照れや怒りだけではない、何やら言いたげな土方の複雑な表情に気付いた銀時は、何?と首を捻ってその顔をじっと眺める。

「……テメーのとこのガキの事なんざ知るか。嗚呼、畜生。何だってんだよ。何でテメーまで肉まん買いに行く途中でいやがるんだ。いくら考え方が似てるにしても、いい加減にしろってんだ!」
「……あ?」

今度は銀時がぱちくりと瞬きをする番だった。
思わずまじまじと顔へと注いだ土方の顔が見る見る朱の色を濃くして行く。冷えた為に染まった頬や鼻先以上に、気恥ずかしさから染まるその顔。
作品名:てのひら、ひとひら 作家名:琴尾はこ