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ぐらにる 眠り姫5

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「ロックオンが正気でない状態を確認してくればいい。・・・アレルヤ・ハプティズム、きみは、ロックオンがいなくなってから、その代わりを務めようとしているが、それは必要ない。」
「代わりじゃなくて、僕が今は年長だから、きみたちをフォローしたいと思うだけだ。なかなか、ロックオンみたいにはいかないけどね。」
 なかなか、ああはうまくいかない、と、アレルヤは溜息を吐く。わざとらしくなく、ちゃんと、マイスターたちをフォローしていたロックオンには感心するばかりだ。
「ロックオン・ストラトスがデュナメスを乗りこなせないなら、組織は新しいマイスターを連れてくる。おそらくは、ロックオン・ストラトスのポジションを補完するべき人物になるはずだ。だから、きみはきみのままでいいんだ。」
「・・・・わかってる。たぶん、リーダーが変わるんだろ? でも、僕は・・・『処分』なんてさせたくない。」
「僕も同意見だ。あの男には借りが山ほどある。・・・いつか記憶が戻れば、それでいい。」
「生きていたら、戻るかもしれないものね。」
「そうだ。生きていなければ、戻らないんだ。」
 マイスターもガンダムのための部品と一緒だ。壊れれば新しいものが補充される。だが、部品だが感情があるから、その壊れた部品すら残しておきたいとは思う。それが人間の考え方だ。






 軍施設にも、一年に数度、外部へと解放される日がある。それはオープンディズと呼ばれていて、民間人が基地施設を観覧できるイベントだ。
「寝かせておいたほうがよかったんじゃないのかい? グラハム。」
「こちらの本部付近は立ち入り禁止区域だ。それほど心配することもないだろう。」
「けど、きみらも飛行展示に参加してしまうし、僕も、そのフォローで、ここには残れないんだぜ? 眠り姫が、どっかで、また・・・」
 以前、眠り姫の噂を聞きつけたものが、眠り姫に暴行を加えたことがあった。敵対していた組織の人間だろうと言われているから、部隊を全滅させられたものが報復した結果だ。オープンディズには、民間人だけでなく、他の基地からの応援部隊もやってくる。その中に、また報復したがるものが混じっているかもしれない、と、カタギリは心配したのだ。
「それはない。私の眠り姫に手を出すと、どうなるかは、わかっただろうからな。」
 報復した相手には、私も、それなりの報復をした。殺しはしていないが、それなりの罰は与えたので、それも噂として広まっている。だから、そちらの心配はしていない。むしろ、眠り姫が、いつものように、どこかで眠って行方不明になることのほうが問題だ。
「施設内のMPたちには、連絡しておいたよ。もし眠り姫が、この区域から抜け出しそうなら連れ戻せと指示してある。」
 立ち入り禁止区域には、警備のためにMPたちが配置されている。だから、勝手に開放区域へと眠り姫が移動することはないはずだ。
「とりあえずは、飛行演技をやり終えて、私が眠り姫を探すさ。今日は、まともではないから、どこかで眠っているだろう。」
 最新鋭のフラッグを、民間人にも披露するために、模擬演習や編隊飛行が組み込まれている。普段は接点のない民間人たちに興味を持たせるためと、子供たちに軍部のイメージをクリーンで力強いものとアピールするためのものだ。
 朝から眠り姫は、ふらふらと出かけて行ったが、まともではなかったから、逆に私は安心した。あの状態では、何を話しかけられても答えることはできない。話しかけられていること自体が認識されないから、心に病むこともないだろう。





 軍施設のオープンディズに便乗して、無事に施設に侵入した。だが、広い軍施設の中で、一人の人物を探すというのは、かなり骨の折れる作業だ。エージェントが以前、接触した場所だけは確認していたから、その周辺を探してみることにした。
・・・いた・・・
 確認した場所から、そう遠くない場所に、彼は寝転んでいた。眠っているのかと思ったら、セルリアンブルーの両目が、ちゃんと開いていた。
「ロックオン。」
 声をかけたが反応はない。それはそうだろう。名前すら覚えていないのだ。
近寄って、視線を合わせたのに、ふいっと逸らされた。空を見上げているのを邪魔したらしい。
「ロックオン、あんた・・・このままだと死ぬぞ。」
 マイスターと言っても、所詮、組織にとっては部品と一緒だ。ティエリアは連れ帰れば、どうにかなると言ったが、そんな生易しいものではない。動けなくなった部品や壊れた部品は、不必要なものだから処分されるのは当然のことだし、刹那は、それを経験してきた。だから、わずかでも覚えている痕跡があれば、言い訳できるかもしれないと思った。
「・・・半分・・・・」
「え? 」
「・・・半分だ・・・・」
「違う、おまえの名前はロックオン・ストラトス。そして、俺の名前は、刹那だっっ。それだけでいいから覚えてくれ。」
 抱き起こして両腕を掴んで揺するように訴えたが、彼は、視線すら合わせない。ただ、「半分」 と「空は黒」 とだけ言う。報告書に正気でないほうが多い、とは書かれていたが、本当にそうなんだと実感した。以前のロックオンという男は、些細な空気を読み取って、それなりの言葉をかけてきた。正直、うざいと思ったこともあったが、それが当たり前になった時に、その言葉が、どれほど大切かは理解した。逼迫して殺伐とした時間の中で、ありふれていて温かい言葉は、その空気を和ませる効果があったからだ。
「どうやったら、こうなるんだ? 」
「・・・青かった・・・」
「ロックオン」
 唐突に、彼が背後へ倒れたので、連れられるように刹那も、倒れこむ。すると、彼の両腕は動いて、自分の背中をトントンと叩いた。
「・・・いい子・・・」
「俺は子供じゃない。」
「・・涙・・・」
「泣いてない。」
 以前より、もっとダイレクトな言葉だった。ただ、それは長続きしなくて、パタリと背中に回されていた手は落ちた。身体を離すと、彼は目を閉じていた。
「半分は死んでいる、ということだな? 」
 その寝顔が穏かで、だからこそ悲しい。マイスターだった部分が死んでしまった、と言うなら、生き返らせるまでのことだ。
「死ぬのはいつでもいいだろ。」
 あの時に終っていたはずだったのだとしても、現在、生きているなら、生きていて欲しい。
「あんたが、あんな無茶ばかりするから・・・俺は・・」
 間に合わなかった自分を責めた。けど、責めている暇もない激しい戦闘が待っていて、捜索すらできなかった。それは、ミッション優先の自分たちには仕方のないことだったけど、心残りにはなった。
 ぽろりと勝手に涙が落ちる。死ぬつもりだった、と、刹那も気付いていた。そうでなければ、あんな無茶はしないだろう。
「ロックオン、思い出してくれ。・・・そうでないと・・俺が・・」
 処分されるなら苦しませたくない。自分には、その技術だけは備わっている。けど、やりたくないのは事実だ。
「おい、何をしている。」
 背後から声がして、数人の足音が近づく。ここで逃げては、余計に不利だと判断して、泣き顔のまま振り向いた。そこには、MPとヘルメットにペインティングされた屈強そうな軍人たちがいた。
作品名:ぐらにる 眠り姫5 作家名:篠義