こらぼでほすと 留守番2
「セツナ、明日、ワタシと出かける? 」
「ロックオンを一人にできないから、ダメだ。」
「じゃあ、ロックオンもイッショ? 」
「少しならいい。」
「あーずるいぞっっ、刹那。俺も行きたい。」
「ていうか、俺は放置しといてくれ。アイシャさんと出かけてこいよ。」
「あんたの監視が俺の仕事だ。」
「悟空、ガッコウは、いつ終わるノ? 」
「三時だな。」
「それなら、イッショに買い物。ここにある材料ではタリナいの。どう? 」
「うん、それならいいよ。俺、マッハで戻ってくる。」
「セツナ、買い物だけ、オーケー? ロックオンは、寝ていればイイ。」
「ああ。」
夕方の一時なら、離れてもいいだろうと刹那も納得した。子供たちだけでないのなら、少し遅くなっても問題はない。アイシャが、ただのか弱い女性じゃないから、そういう心配もない。それに、たまに監視している子猫がいなければ、親猫ものんびりできるだろうとアイシャのほうも考えてのことだった。
「セツナとゴクーの独占。ふふふふふ・・・・嬉しいワ。」
もちろん、自分の欲求も満たされるという一石二鳥だ。可愛い生き物大好きなアイシャにとって、元気一杯の悟空と、野良猫な刹那を同時に鑑賞できるのは至福だったりする。
さて、こちら、『吉祥富貴』では、ちょっとびっくりすることが起こっていた。というのも、キラたちが店に出勤してきた時に、入り口で、とんでもないのが入り待ちしていたからだ。
もちろん、先に出勤していた鷹が、それまでに、キラとアスランを捕まえて、待たれていない裏口へ誘導した。
「なんか変なのがいるんだよ。・・・・うーん、時代劇コスプレの外人っていうかさ。」
中へ入ってから、鷹が、そう説明する。どっかで見たことのある容姿ではあるのだが、決定的に違うのは、どっかの軍服らしい衣装に、顔に仮面というところだ。その仮面が、また、極東の端っこに、大昔に存在した鎧武者がつけていたような仰々しいものだから、怖い。真夏なら、お化け屋敷にでもバイトに行くんですか? と、尋ねられるが、どっこい、この真冬に、あれはない。
「なんで、うちの店の前なんかに・・・」
「いや、だからな。俺らも不思議に思ってたんだけど、ああいうの、何ヶ月か前に居ただろ? アスラン。」
「それは、ユニオンの? 」
「そう、背格好が、ちょうど、そんな感じだ。だから、用心のために、誘導したんだ。・・てっっっ、キラっっ。こらっっ。」
そう説明しているのに、天下無敵の大明神様は、その容姿が気になったのか、たったかたあーと、クラブの玄関へ走り出す。こういう時だけ、やけにすばしこいので、とても迷惑だ。ダコスタが止めようとしたが、遅かった。いきなり、扉を全開にして、「うわあーほんとだぁー」 と、大声で叫んでいる。
・・・・頼むから、危機管理能力を思い出してくれ・・・・・
ダコスタに引き続き、その声で追い駆けたシンとレイは内心で叫んでいる。攫われないように、三人がキラの身体に手をかけようとしたら、すらりと、その身体が前に引きずり出された。
「やあ、運命の女神。久しぶりだね。」
「やっぱり、グラハムさんだ。・・・・お久しぶり。あれから、どうしてたの? 僕と刹那は、ずっと待ってたんだよ? 」
抜け抜けと、そんな嘘をつく大明神様も、さすがホストだ。あの日、ご機嫌で、カスタムフラッグが海中に没していくのを、レーダーで確認していたのは、誰あろう大明神様自身だ。もちろん、自分のMSに刹那を搭乗させて、無事なら叩き落す気も満々だった。だが、きゅるんとすみれ色の瞳を大きくして小首を傾げられたら、誰だって、その可憐さに騙されてくれる。
おかしな格好のグラハムは、片膝をついて、キラの手を、そっと持ち上げて、「すまない、運命の女神。私は、きみとの再会を果たせなかった。・・・・きみに合わせる顔がないほど後悔している。どうか、もう一度、チャンスをもらまいか? 」 と、詫びつつ、その手にキスなんかしていたりする。
・・・・本気で、マリアナ海溝あたりに叩き落されたいんだな? あんたは・・・・
その言動もさることながら、その態度が、キラのダーリンを本気で激怒させていることに気づかない。シンとレイが、背後が熱く感じるほどの怒り状態のアスランに背筋が寒くなる。
「どうして、そんな格好なの? 前は普通だったよね? 」
天然電波の大明神様に、まともな会話を望んではいけない。許すとかいう話よりもそのおかしな武者姿に興味深々だ。
「実は、言い訳にもならないのだが、きみたちを迎えに行く時に、私のフラッグが異常を起こして海中に墜落したのだ。そのために、私は顔面に醜い傷がついてしまった。きみに、そんな醜いものを見せるわけにはいかないので、この姿で、きみに許しを請いに来た。キラ、どうか、許してもらえまいか? 」
真面目に謝っているらしい。確かに、あのカスタムフラッグは海面に叩きつけられたのだから、相当酷い怪我はしたはずだ。それが回復して、すぐに、やってきたのだろうが、『吉祥富貴』のスタッフにとっては迷惑極まりない話だ。そして、キラのほうは、あっさりと、その謝罪を受け入れたりする。
「うん、いいよ。そういうことなら、仕方ないよね。」
「では、今ひとたび、私のフラッグに、私の運命の恋人と共に乗ってくれないか?」
「うーん、それは無理。刹那は、今、お店に出て来てないんだ。刹那のママが具合が悪くて看病しているからね。」
「なにっっ、お義母様が? それでは見舞いをさせていただかなくてはなるまい。」
どちらにいるのだ? と、キラの両手を握って尋ねてくるにあたって、アスランの堪忍袋の緒が、びしっっという音と共に破れた。ぐいっとキラの背後から、その身体を抱き寄せて、グラハムとの距離を開ける。
「あなたが、お見舞いなんかにいらしたら、余計、具合が悪くなるので遠慮してください。キラ、もう、お話は済んだよね? 中でおやつ食べない? 」
「うん、今日は杏仁豆腐の気分? 」
「爾燕さんに頼んであげる。」
「ライチは外せないよ? アスラン。」
「もちろん、果物たっぷりにしてもらおう。」
ほら、行こう、と、キラをぐいぐいと店の中へ引きずり込む。「じゃあ、またねぇー」 なんて、キラはニコニコと笑顔で手を振っているわけで、呆気にとられたグラハムは、きっちりと置き去りのスルーにされた。スタッフも、速やかに扉の向こうへ消えている。
また、現れたんかいっっ、と、その話を事務室で聞いて、悟浄は呆れていたりする。まさか、あれだけの目に遭って、なお、やってくるとは思わなかった。普通、懲りるだろう。
「だからこそ、変態なんじゃないですか? 」
というか、仕事は暇なんかい? と、ツッコミしたいところだ。いくらなんでも、ユニオンの重要機密になってそうなMSを個人的に破壊してしまったのだから、それなりのペナルティで身動きできないはずだ。
「それがさ、あいつ、左遷されたらしいんだな。」
作品名:こらぼでほすと 留守番2 作家名:篠義