こらぼでほすと 留守番3
もちろん、キラたちも、顔を出すつもりだ。用心するなら、用心するにこしたことはない。相手は、あの破壊的言動の変態だ。防御というより、メンバーにしてみれば、お遊び感覚でもある。
「ああ、それと、これが和食のレシピです。とりあえず簡単なものと代表的なものを選んできました。和食は、出汁が特殊なんで、それは、これでやってみてください。」
本格的になると、出汁をとることが大変なので、それに代わる簡易な出汁の素を八戒は持参したのだ。
「出汁ですか・・・・へぇー、ブイヨンみたいなものですか?」
それらを受け取って、ロックオンもラベルを眺めている。洋食で使われるのは、基本ブイヨンだ。
「そうですね。それに近いんですが、和食は植物性の昆布が基本の出汁になるんで、あっさりしています。」
「中華の出汁は、動物性だから、物足りない感じがする。おまえもそうだと思うぜ、ママニャン。」
「いろいろ違うんだなあ。」
ここに来ると、悟空が作る朝の味噌汁を飲んでいるが、確かに、あっさりしたものだ。別荘でも、たまに、和食が出てくる。ヘルシーなメニューだとは思っていたが、出汁からして違うらしい。
「まあ、それだけでは悟空には足りませんから、揚げ物とか焼き物は、用意してもらわないと。」
「あはははは・・・確かに、それはそうだ。」
食べ盛りの大食らいの悟空には、腹にがつんと溜まるものが必要だ。かなりの量を用意しないと足りない。
メインとなるメニューなんかの意見交換をしていると、本当にハイネがやってきた。大きな旅行カバンまで持参しているところをみると、本格的に居候するらしい。
「おまえ、本気で移住するつもりかよっっ、ハイネ。」
「それもいいなあ。ロックオンがいると、飯も洗濯も全部任せられるから楽でいい。」
「こらこら、普段は、ここに鬼畜坊主がマグナム持って座ってるんだぞ?」
「三蔵さんだって、ロックオンを嫁代わりにしてると思うんだけどな。」
「ま、そりゃ否定しないけどさ。」
「否定してくれよ、そこはっっ。」
遅れてきたハイネに、お茶を出しつつ、ロックオンがツッコミをいれる。客間は、自分たちが使っているので、ハイネには、本堂の脇部屋を使え、と、指示を出しているのが、すでに、ここの嫁らしい、と、八戒が内心でツッコんでいたりする。
「肝心のせつニャンは、アイシャさんのお供か・・・・まあ、それなら問題はないな。サルがいるし、アイシャさんもブツは持ち歩いてるはずだ。」
慌てて来なくてもよかったな、と、ハイネは、でんっと寝転がってペーパーバックを広げている。悟浄たちは、そろそろ出勤時間のはずだが、こちらものんびりとテレビを眺めている。
「時間はいいんですか? 」
「ええ、ちょっとシフトを変えました。僕らが、今日は遅番です。」
「なら、軽いものでも摘みませんか? 」
「おう、ひとつ頼むわ、ママニャン。」
はいはい、と、ロックオンが昼の残りのごはんで、手早くおにぎりを結んで、それと共に、簡単なおかずも用意する。朝の味噌汁も出して、残り物を一掃した。アイシャの作る料理には、それらは必要ではないからだ。貧乏性のおかんという愛称は伊達ではない。残り物も残さず処分する。
「ハイネ、パンがよかったら焼くけど? 」
「ああ、いや、これでいい。・・・なあ、ママ。ほんとに、俺んとこへ嫁に来ないか? 」
「はあ? おまえ、ノンケのくせして、俺を口説くなよ。」
「いや、こういう気遣いは、独り者には身に染みるんだよなあ。」
「バカ言ってんじゃないよ。風呂は入れるようにしとくけど、俺、たぶん起きてられないから、適当にしてくれ。夜食とか用意しとくほうがいいか? 」
「だから、その気遣いがさ。」
「もう、そのネタはいい。」
「んー夜食は欲しいな。でも、俺はサルほど食わないから少なめで。」
「はいはい。」
じゃあ、米だけは炊いておくか、と、台所で準備を始めている。あんた、止まると死ぬのか? と、ハイネがツッコむほど動くのが、ちょっと心配だが、黒子猫がいれば止めているだろうと注意はしなかった。
軽食を食べたら、出勤時間で、三人がぞろぞろと連れ立って出かけていった。すっかりと日は落ちている。この家には暖房器具も少ない。卓袱台が、こたつであるだけだ。
・・・・刹那にコートを着せたほうがよかったな・・・・・
とは、いっても、刹那はコートなんて持っていない。うっかりしていたが、冬物の防寒着というのが少ない。
・・・明日ぐらい、買い物に行くか・・・・
刹那は砂漠育ちなので暑さには強いが、逆に冬はからっきしダメだ。ここんとこの冷え込みに、ぶるぶるしている。まだ、支度金は残っているから、それの準備をしてやろう、と、考えていた。
そろそろ寒くなってきたな、と、悟空が目を覚まして、ベッドで伸びをひとつした。昨日も、刹那が寒そうにしていたから、自分のジャンバーを貸してやった。暑いのはいいが、寒いのは苦手だ、と、言っていたから、居間に暖房器具を出したほうがいいかもしれない。本日は土曜日だから、その準備でもするか、と、着替えて居間に顔を出したら、すでに、台所から、いい匂いがしている。
「あれ? おはよー。」
「おはよう、悟空。今日から朝も俺がするからな。・・・おまえ、顔洗ってないな? 先に洗って来い。」
「うぉーい。」 と、返事して洗面所に出向いたら、ちょうど刹那が顔を洗っていた。やっぱり寒いらしく、ぶかぶかのカーディガンを羽織っている。
俺の服を貸してやるよ、と、セーターを引っ張り出してきて、刹那に被せた。それから、顔を洗って、居間に戻ったら、びっくりするくらい正しい朝定食が用意されていた。
「こんなもんでどうだ? 」
「贅沢すぎるよ、ロックオンさん。」
「けど、栄養バランスとか考えると、これぐらいのほうがいいんだぜ、悟空。これなら、どんぶりメシを三杯もかきこむ必要もないしな。」
「え? 」
まあ、試しに食べてみろよ、と、言われて、いつものようにどんぶりメシを手にしたが、本当に一杯と、そのおかずで腹がくちくなった。いつもなら、足りないから、あと一杯はかきこむところだが、それが満腹で入らない。
「なんで? 俺の胃袋ちっちゃくなった?」
「違うよ、たんぱく質を増やしたからだ。炭水化物とたんぱく質だとカロリーの摂取量が段違いなんだよ。」
「えーっと、朝から肉食うといい? 」
「端的にいえば、そうだけど、それは胃の負担になるから、卵とかハムとか、そういうのでいいんだけどな。和食としては、魚の干物なんかが有効だ。」
ほら、悟空を見習え、と、刹那に、いろいろと勧めつつ、ロックオンは説明する。マイスターになった時に刹那が、あまりに小食だったから、いろいろと栄養についての文献も読んだのが、今、生かされているらしい。
「あのさ、今日、買い物行くだろ? その前に、ストーブとか出したいんだけどいい?」
作品名:こらぼでほすと 留守番3 作家名:篠義