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いつか愛になる日まで

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 あなたはいい加減な人に見せていて騙されかけたけど、困らせられながら俺はちょっとだけ疑ったこともあります。だって、ちゃらんぽらんな人があれほど鍛え上げられたしなやかな体をしているはずはないから。服で隠されていても鍛えているのかいないのかくらい誰でもわかります。一日でも怠けてしまうと取り戻すのに三日かかることを考えれば、あなたは全然いい加減な人ではない。だから美しい体の隣を歩くたび、これでいいのかなと思いました。俺にかまっていて、それでいいのかなって。あなたの時間を俺に使っていていいのかなって。
 上忍で、里の誰もが知っていて、人気があって、そんな人に毎日毎日名前を呼ばれて、特別扱いされて。山ほど文句も言ったけど本当になんでこんなことになっているんだろうって不思議がりながら有頂天になってました。あなたは俺がどんなに邪険にしてもにっこり笑って近づいてきたから。それに甘えていたのかな。いい気になっていたんですかね。
 これは天罰ですか? あなたはいつ帰ってきてくれるんです? 俺はいつあなたの笑顔に接することができるんでしょうか。
 あなたは知りたがりで、俺のことを何でも聞いて、とっても楽しそうでした。なんでそんなことで嬉くなってしまうのか不思議だったくらいです。靴下を右から履くか左から履くか、そんなことどうでもいいことじゃないですか?
 でもね、今ならわかるんです。俺もあなたのことが知りたくてたまらない。なんでもいい、何か話をしてください。今度は俺が聞く番です。たぶん俺はあなたがどんな馬鹿な話をしても楽しいし、どんな悲しい話をしても最後まで聞けると思います。あなたから目を逸らしたりしません。
 あぁ、早く会いたいな。 
 鍋を囲みましょう。温泉に行きましょう。たくさん話をしましょう。
俺はいつも通りに待っていますよ。だからあなたもいつも通り、にっこり「ただいま」って帰ってきてください。たぶん、それが一番自然なことだから。


 待っていたような、待っていなかったような、火影の呼び出しを受けたのは、2日ぶりに家に帰った大晦日の昼間だ。夜勤を済ませて戻ったのが朝だったが、夕方からはまた受付業務に出ることになっていた。
 冬休みに入って3日。よく眠れない。寝つきが悪く、ちょっとした物音で目が覚める。風邪の症状はなかったが、時々頭が鈍く痛んで体が重い。
 少しでも仮眠を取ろうと思って、ベッドに潜り込んで2時間。結局、眠りは訪れず横になっていただけだった。徹夜が2、3日続いたところで体調を崩すほどでもないが、眠気は一向に訪れる気配もなく、このまま何日でも起きていられる気もするけど目がパシパシする。
 せめて食事だけでも取らないと本当に体調を崩すと思って起き上がったところで、蝶の形をした白い式が窓ガラスをすぅっと通り抜けてやってきた。火影の式だ。
「戻った」
 一言、そう書いてあった。
 イルカはしばらくぼんやりした後、ベッドを飛び出した。部屋着にコートをひっかけて、寝てもいないのについた寝癖もそのままに走った。
 正月用の買い物客が多く道は混んでいて、商店街を通り抜けるのに苦労する。気のいい人たちが接客の間に声をかけてくれた。
「いい鮭が入ったよっ」
「後で! 後で来ます!」
 人ごみを掻き分けながら叫び返す。
「餅、ついたかぁ?」
「今年は買いますっ」
「おーい、10個でいいかぁっ?」
 ちょっと考えて「30個っ」と答えた。
「30個ぉっ?!」
 そりゃ食いすぎだーと言う声を背中に受けながら、ひたすら足を動かす。何度も人にぶつかっては謝った。迷惑そうな顔をされても足を止める訳にはいかない。
 遅刻ですよ、カカシさん。もう大遅刻です。紅梅屋の蕨餅くらいじゃ許せません。柊亭の懐石でも許せないかも。
 ああ、でもでも。
 怪我をしていませんか。痛いところはありませんか。気分は悪くないですか。
 落ち着いてなんかいられない。信じているけど、顔を見ないと安心できなかった。
 忍をやめるなんて言わないでくださいね。うんざりだと言わないでくださいね。あなたと俺は忍同士だからいいんです。俺が忍だからカカシさんは俺に気づいたし、カカシさんが忍だから俺はカカシさんの良さに気づいたんです。それに俺はあなたの赤い目をまだ見たことないし。
 騒々しく受付前の廊下を走りぬけ、あっけに取られる人たちを置き去りにする。誰かが何か言ったようだけど耳に入らなかった。
 3階まで1段飛びに階段を駆け上がり、部屋の扉を勢い良く開けながら「火影様!」と叫んでいた。酸欠気味の荒く乱れた息遣いが体中に響く。胸が苦しかった。
「ラブ、だな」と火影は言った。
「ラブ、なんだぁ」とアンコが言った。
 イルカが髪を乱して息も絶え絶えだというのに、2人ともソファに座ってお茶なんぞをすすっている。みたらし団子に手を伸ばしたアンコの指を叩いて火影はイルカに言った。
「まぁ、座れ、座れ」
「この団子、美味しいのよ」
 肩で息をしているイルカに女たちはのん気にそんなことを言う。
正月にはまだ1日早いというのにテーブルの上にはみたらし団子だけではなく、饅頭やら羊羹やら、甘いお菓子が所狭しと並んでどこかめでたさを感じさせる。
「はっ?」
「実は三色団子もあったりして。イルカ、なんにする?」
「アンコ、そんな話は聞いてないぞ」
「だって、火影様に言ったら全部だせって言うじゃないですかぁ」
「当たり前だ。私は里のトップだぞ、団子くらい自由に食わせろ」
 頭の痛くなるような会話が目の前で繰り広げられている。なんで?
 乱暴にドアを閉めてイルカは火影に走り寄った。
 額から滝のように汗が流れる。忍にあるまじき運動不足・・・って、そうじゃない!
「ちょっと! カカシさんはっ?! 戻ったって!!」
 普段なら使わない無礼な言葉で火影に詰め寄る。取り乱している自覚はあるが、こういう時に取り乱さないでいつ取り乱すんだと訳のわからないことを思い、余計訳がわからなくなる。とにかくどうなっているんだ。あの人は!
「うん、戻ったな」と団子を口に入れながら火影が言った。「うまい!」
「戻っちゃったのよ」とお茶をすすりながらアンコが言った。「でしょ?」
 そして、口をそろえて二人が言った。
「まぁ、座ってお茶でも」
 馬鹿か?! と罵らなかった自分を褒めてやりたいが、まったりお茶会の二人に血管が先にブチリと切れる。
「座ってなんかいられないし、お茶を飲んでもいられませんっ!! 火影様っ! カカシさんは?!」
 火影とアンコが顔を見合わせて沈黙する。二人とも微妙に視線を合わせようとしないところが不安に拍車をかける。這いずって帰ってくるだけじゃ駄目なんですよ、カカシさん。ちゃんと元気に帰ってこなきゃ。
 帰ってくるだけでいいと言い放った癖して、ぴんぴんしていなくちゃ駄目だと、許せないと思う。勝手だけど、そういうものでしょう?! 
「カカシさんは!!」
「あれはひどい顔だな」と火影が眉をひそめて言った。
「あの血の量じぁあね」とアンコが顔をしかめて言った。
作品名:いつか愛になる日まで 作家名:かける