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いつか愛になる日まで

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 深刻な言葉を吐く癖してわざとらしい表情とはどういうことだ。クナイの一つや二つ投げつけてやりたかったが、投げたら投げたで自分より強い女二人に反対に串刺しにされそうだとこういうことだけは頭の隅で考える。
「とにかく!!」
 イルカは怒りを抑えて、声も抑えて言った。女には勝てない。ましてや自分より階級も実力も上だ。なんてやっかいな。
「カカシさんはどこにいるんです?!」
「病院か?」と火影がアンコに聞く。
「医務室でしょ?」とアンコがイルカに聞く。
 そんなん知るか。こっちが聞いてんだよ!!
「どっちなんですか!!」
 病院なら重傷だし、医務室なら軽傷だ。早く、早く!! どうなんですか! どっちにしても怪我してるってことだろ?!
 火影の胸倉を掴んでやりたかったが、そんなことを許されるはずもないし、あの豊満な胸に触らないで胸倉を掴むことは難しい。ああもう、ほんとに!
「ちょっと落ち着いて座れ」
 火影が有無を言わせない真面目な顔して目の前のソファを指差す。フッと気が抜けた。もしかして。火影様がカカシさんのことをなかなか口にしないのは。
『死んではいない』
 火影様の言葉通りに死んでいないだけ? 戻ってきただけマシ? あの血の量ってどういうこと? ひどい顔って?
 アンコがお茶を入れ、そっとイルカの前に出す。いつにないその静かなしぐさに力が抜けて、イルカはソファに崩れ落ちるように座ると頭を抱えた。胸の鼓動が鼓膜を痛いほど刺激する。
 どうしよう、あの人が死にそうだったら。どうしよう。
「まず、カカシは生きている」
 火影の静かな声がする。イルカは頭を抱えたまま頷いた。
「南棟の医務室にいる」
「はい」
「ちょうど木の葉病院の外科部長が来てたんだ。治療してもらっている。ラッキーだったな」
「・・・はい」
「お前、あいつが這いずってでも戻ってくるって言っただろ。戻ってきたんだ、頭を抱えることなんてないだろうに」
 鼻水が出た気がして、大きく息を吸うとズビッと音がした。顔を上げると視界がゆらゆら揺れる。
 だって、と言った言葉は子供みたいな泣き声だったが恥ずかしいとも思わなかった。
「だって、まさかそんな、怪我して帰ってくるなんて思ってもなかったんです。外科部長って、そんな・・・そんな・・・」
「あいつだって、怪我くらいするさ」
 火影はソファにもたれて肩をすくめた。アンコはうつむいて神妙だ。見たこともないその姿が状況の悪さを表している気がして、信じたくないと首を振った。
「カカシさんならどんな状況でも余裕なんだって・・・どこかで思ってました」
「お前だけじゃない。みんな、どこかでそう思ってる」
「勝手に不死身だって信じてた。怪我もしないし、無敵で、百人でも二百人でも相手できるんだって、よく考えれば馬鹿みたいなことなのに不思議とそれが変だと思わなかった」
「まぁな、それが良いか悪いかはおいといて、そう思わすカカシはだから強いのさ」
 そう言うと火影は立ち上がり、執務机の上に置いてあった受付勤務表を取り上げた。連日出勤予定になっているイルカの名前をパシンと叩いて言った。
「イルカ、お前は働き過ぎだ。明日から3日間休め。お前がいなくてもなんとかなるだろう。正月だしな。好きに過ごしな」
 火影を見つめる視界がぐにゃりと歪む。それは火影の思いやりか。カカシさんについていてもいいってことか。そんなに重傷なのか。
「あぁもう、泣くんじゃないよ。男だろ」
 ズビッと鼻をすすりあげて「はい」と返事をした。アンコがテーブルの上を滑らせてハンカチを貸してくれた。意外にも可愛らしいピンクの花柄で、ピシリとアイロンがかかっている。
「ありがとうございます」
「うん、まぁ。全部、火影様のせいだから」とアンコは意味不明なことを言ったが、イルカは気にしなかった。カカシ以外のことはどうでもよかった。
 贅沢は言わない。もう生きてるだけでいい。帰ってきてくれたことに感謝しようと思った。早く行かなきゃ、カカシさんのところへ。
「あの、失礼します」
 イルカは立ち上がって、ごしごしと目をこすった。そんなイルカを気まずそうに眺めて火影がいつになく優しく言った。
「うん。あのな、イルカ。お前だけじゃなく私も明日から休むことに決めた。そして今から帰る。腹が痛い。団子にあたった。びっくりだ」
 矢継ぎ早の言葉に、はぁ、とイルカは頷いた。正月も出勤するつもりだったんだとぼんやり思った。でも団子にあたる・・・?
「な、アンコ。お前も休もう」
「無理ですよ、火影様」
「な、な、なんで? 正月だぞ」
「正月でもあの机の上の書類は減りませんし、この状況も全部火影様のせいです」
「なに?! ああ、しかし、とにかく今は腹痛だ。アンコ、お前はどうする」
 私は、と言ってアンコはチラッとイルカを見た。ズズッと鼻をすすったイルカに、うっと声を詰まらす。
「火影様が帰るのに私がいたら損じゃないですか。私のせいにしないでくださいよ」
「お前だって調子に乗ってたぞ」
「火影様ほどじゃありません」
「人のせいにするな」
「火影様のせいですよ」
 よくわからない言い合いをしている二人に首を傾げながらイルカはもう一度「失礼します」と呟くように言って部屋を出た。
「私、帰るからね!」というアンコの大きな声が背後から聞こえた。
 イルカは扉を閉めるとアンコが貸してくれたハンカチで目を拭いて歩き出した。途中でトイレに寄る。
 鏡で見た自分の顔は頼りなげで悲しそうだった。おかしな言動でイライラさせたカカシの平和そうな顔や、煮魚を食べる嬉しそうな顔、印を結ぶときのコツを話していた真剣な顔を思い出して、顔がくしゃりとゆがむ。
冷たい水で顔を洗い、できるだけ気分を落ち着かせて医務室に向かって歩き出した。
 医務室に着くまでに心の準備をしておかねばならない。どんな状況であっても目をそらさないでいよう。お休みをもらったから、カカシさんの世話をさせてもらおう。
 正月を迎えるためににぎわっていた商店街のことを思った。明日から店はいっせいに休みになるから、今日のうちに何か、例えばりんごなどを買っておいたほうがいいのかなとふと思う。でも病人じゃなく怪我人か、カカシさんは。
 今年はおせち料理も作らなかった。毎年、真似事のような簡単なものを作っていたけど、なんだか作り損ねてしまった。冷蔵庫に食べる物はあるけど餅はない。商店街を通ったときに餅を30個って口走ったなと思った。米屋の主人はきっと取り置いてくれているだろう。あのとき、とっさにカカシさんと年を越すことを考えた。
あなたなしの生活なんて考えられない。
あなたがいないと寂しくて。待ちすぎて寂しくて。帰ってきたと思ったら、自分がどんなに寂しかったのかひしひしと感じてますます寂しくなってしまった。なのに怪我をしているだなんて。
気持ちを落ち着けながら、ゆっくり歩くよう気をつけていても、だんだん早足になっていく。渡り廊下を通り、階段を上る。あの角を曲がれば医務室だ。気持ちばかりが焦って、胸の鼓動が息を乱す。はぁっ、はぁっと小刻みに肩で息をする。
作品名:いつか愛になる日まで 作家名:かける