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いつか愛になる日まで

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「やった! ありがとうございます。ぜひよろしくお願いします。やった!」
 ぴょんぴょんとその場で跳ねて見せさえして、大変な喜びようだ。これにはイルカも
「あ、あの・・・」
 なんと言っていいかわからず途方にくれる。結局、何をしても疲れるんだなと思いながら揺れる銀の髪を見ていた。


「あれ、もう帰り?」
 イルカが6時を前に机を片付けていると、背中合わせに座っているヤマジがクルリと椅子を回して声をかけてきた。硬派でごつい外見に似合わず、フレンドリーな先輩だ。
「はい。今日は買い物して帰りたいんですよ」
 あの上忍様にご飯を食べさせなきゃいけないんで、と胸の中で付け加える。すでに親鳥がヒナにえさを与えるような扱いだったがイルカ自身は気づいていない。
「そういや、はたけ上忍のお誘いを断ったんだって?」
 キコキコと椅子を左右に揺らしながら隣に移動してきたヤマジが言う。イルカは鞄に書類を入れる手を止めて、横目で軽く睨んだ。
「先輩まで! 俺が大迷惑してたの知ってたでしょ?!」
 こそこそと言い返した。大きな声で言って、後で何か言われるのも腹が立つので自然と上忍様関係のことはひそひそ話になる。知るはずのないことを知らない人から言われるのは気持ちのいいものではない。
「はははっ。でもお前、やるねぇ。お誘いを蹴っ飛ばすなんてさ」
「ちょっと! 人聞きの悪い。蹴っ飛ばしてなんかいませんよ、丁重にお断りしたんです! ・・・いえ、しようとしたんです!」
「しようとした? ・・・・・・ってことは」
「はい、おうちでごはん、です」
 机の片付けを再開しながら、笑うのなしですから! と先制攻撃をした。目の端にヤマジの震える頭が見える。声を出さないようにしているというより、声も出ないくらい盛大に笑っているのに違いない。くそぅ。
「内緒にしてくださいよ、せめて2,3日は」
 どうせバレるのだろうが、バレたらバレたでまたわーわー言われることは目に見えている。10割非難されることも明白で、今よりさらに女性の風当たりは強くなるだろう。つかの間の平穏を望んでもバチは当たらないはずだ。
「お、前も、根っから、の、中忍だ、よな」
 ヤマジがおかしなところで区切りながら話すのは必死で笑いをこらえているからだ。笑っていませんとアピールされても、笑い声の幻聴が聞こえてきそうな顔がそれを裏切っている。
「俺が言わ、なくて、も来週に、は・・・、はぁ。確実に噂の的、いや、妬みの的だな」
 途中で大きく息をしたヤマジは笑いの渦から無事帰還したらしい。相変わらず、ニヤけてはいるが。
 机の上をザッと整理し終わるとイルカはあらためてヤマジを見た。一縷の望みを持って口を開く。
「バレない方法ってあると思いますか?」
「ないね」
 そう即答されて、「で、す、よ、ねー」と呟く。あるとも思っていないが、ないと断言されてもなんだか空しい。
「俺からは言わないし。ま、頑張れよ」
 おうちでごはん、おうちでごはん、たっのしぃなーと幼稚に歌うヤマジに肩をすくめながらイルカは「お先に失礼します」と言った。

 そんなイルカの危惧もどこ吹く風の上忍様は今日も最後にドッカンと特大の火種を落としてくれて、もはやそっこら中からボウボウと火の手が上がって消火は不可能だ。
 『内緒にしてください』と口にしたのは何時間前だったか。あれから1時間以内には式、伝令、テレパシー、念力に超能力、ありとあらゆるものが総動員されて、噂は里を駆け巡ったことだろう。
「はたけカカシが商店街で、例の中忍と夕飯の買い物をしている」と。
 まさかあの時間に正門にいると思わなかった。返す返すも自分の迂闊さが悔やまれる。裏口から出て行けば良かった。いや、塀を乗り越えるべきだったか。不本意だろうが、納得がいかなかろうが、平和に暮らしていくためならばそれくらいは喜んでやる。
 ぐつぐつと目の前で煮える鍋には牡蠣とたくさんの豆腐、白菜、エノキと長ネギ。仕上げに春菊をちらしてフタをする。
冷蔵庫から味ポンを取り出すついでに目に入った柚子コショウも取り出す。コンロの火を止めて、ちょっと気合を入れてからカカシを呼んだ。
「カカシさん、鍋、持って行きますよ」
「はい!」
 こたつに入って、まだかまだかとウズウズしていることがまるわかりのカカシは本当に子供のようで、無造作に置いておいた箸と取り皿、蓮華も必要以上に綺麗に並べられていた。電気コンロの上に鍋を置いて、イルカは思わずクスリと笑った。
「ご飯をよそってきますので、どうぞ先に食べててください。・・・あ、味ポンがないか。すぐ取ってきますね」
 慌てて背を向けるとすぐにカカシが「それは自分で」と言って立ち上がった。
「すみません、これです」
 味ポンと柚子コショウを手渡し、ご飯をよそって持っていく。微妙だとは思ったが夫婦茶碗にご飯をよそった。以前もらったものだが、それしかなかったし、色分けされているわけでもないし、まぁ気がつかないだろう。
「さて、お待たせしました。いただきましょう」
「はい! いただきます」
 簡単な鍋だというのに上忍は目をキラキラさせて大変御機嫌だ。買い物の道々、「鍋を家で食べるのって久しぶりです。それも一人じゃなくて。嬉しいなぁ」とはしゃいでいたのはあながち嘘ではなかったのかもしれない。
 熱さに顔をしかめながら豆腐や牡蠣をほおばる姿はとてもリラックスして見える。何度もお代わりをしては、何度も「美味しいですね」と言われて苦笑した。味付けは何もしていなかったし、ダシは昆布だけだったから。残り汁でおじやを作り、あっという間に鍋はからっぽになった。
「本当に美味しかった。誰かとこたつで鍋をつつくのが憧れだったんだ」
 両手を合わせて、ご馳走様ですと言われ、イルカは不覚にもドキリとしてしまった。隠されていない口元が自然な笑みに崩れて、本当に嬉しそうだったからだ。必要以上に感謝されている気になり、妙な達成感さえ感じる。
「あぁ冬はいいな。鍋料理ができますもんね。楽しいですね」
 カカシがあまりに実感を込めて話すので、こういうふうに誰かと鍋を囲むことがないのかなと思った。
「お口にあって良かったですよ。気に入っていただけたのでしたら、今度は辛い鍋でもしますか」
「はい! ぜひ! 何の鍋ですか?」
 身を乗り出して目を輝かせる上忍様はやっぱり子供みたいで自然にイルカの口元も緩む。
「そうですね、キムチ鍋にニンニクをごろっと入れたりすると美味しいんですよ。あ、でもお休みの前日じゃないと臭ってしまいますけどね」
「俺はいつでもいいです。だって、ふだんは口布してるし、気合でなんとかします」
 ウキウキと話すカカシにイルカは吹き出した。
「あははっ。気合でなんとかなるものじゃないですよ」
「そこをなんとかするのが上忍です」
 自信を持った口調にふと心配になる。そんなことまで出来ちゃうすごい人なのか?
「え、本当ですか?」
「そんなわけないですけどー」とごにょごにょ言う上忍にガックリくるが、やっぱり笑えてきた。単にこの人は誰かと鍋を囲いたくて仕方ないんだな。確かに今日は楽しかった。
作品名:いつか愛になる日まで 作家名:かける