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【米英←仏】フランシスの受難の一夜

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「気休めなんかじゃないさ。じゃなかったら、弟と喧嘩したくらいで落ち込んで男に抱かれようなんて思わないだろ」
「え?」
 何気なく飛び出したきわどい単語に、またもアルフレッドは戸惑いの表情を浮かべる。フランシスは肩をすくめた。
「俺とコイツ、どこで知り合ったと思う? ……ゲイバーだよ」
 思った通り、彼は仰天した。
「ゲイバー?! 何だって彼はそんなところに」
「まぁ、目的がなきゃ行こうとはしないだろうな」
「目的……」
 それって、と不可解そうな目を向ける彼に、フランシスは答える。
「あくまでも俺の想像だけどな。他の男と遊んでお前を想う気持ちを忘れちまおうって腹だったんじゃないの」
「そ――それで、君は彼を……」
「だから何もしてねえって。いざ始めようとしたら泣き出しちまったんだよ、アル、アルって他の男の名前呼びながらな。すっかり萎えたところに、電話が掛かって来たってわけだ。噂のアル――つまりお前からな」
「……」
 アルフレッドは何も云えずにフランシスとアーサーの顔を交互に眺めていた。
「いくら気にしてるっつっても、普通、セックス始めるって時にまで弟の名前呼ばないと思うけどな。お前もそう思わないか?」
「……それは……でも……」
 彼はまだその結論を出すのを迷っていた。今まで考えたこともなかったなら、信じられないのも道理というものだろう。
「けどな、こいつがお前をどう思ってるかより、お前がどうしたいかだろ。お前はこいつが俺に抱かれたって思ったとき、どう思った?」
「…………」
 返答はなかったが、彼がどういうことを考えたかは簡単に想像がついた。だからゆっくりと頷く。
「そういうことだよ。誰かに取られたくなかったら、ちゃんと捕まえときな」
「……アーサー……」
 やっと声を絞りだした彼は、兄の名前を呼んだ。それはちいさな声だったが、抑えようとしても抑えられていない彼への感情が溢れていた。フランシスはその横顔に微笑を浮かべる。
 結局、アーサーもアルフレッドも、互いを想うあまりに自分の気持ちを押し殺していただけなのだ。だけどそれが少しでも表面に零れ出したなら、到底押さえつけることなんか出来ないくらい、心の奥では相手を求めていた。
 そんなところは似なくてもいいのにな、とフランシスは苦笑交じりに思う。けれどだからこそ、彼らは惹かれ合ったのかもしれない。ならば心の中をさらけ出し合ったとき、二人の繋がりはより深いものと変わるのだろう――きっと。フランシスはそう思った。

 **

 フランシスがアーサーとアルフレッド兄弟と出会い、そして別れた一夜から二日後の昼、彼は公園のベンチに座っていた。
 空を見上げて、いい天気だな、とのんびりと思う。
 近くのカフェで昼食を取ってからこの公園へと彼は訪れていた。晴れている日は昼寝に最適の、お気に入りの場所である。ベンチに他に誰の姿もないので、ごろりと仰向けに転がった。
 それから目を閉じて、一昨日の夜のことを考える。フランシスの言葉を受け止めたアルフレッドは、じゃあ帰るよ、と云ってアーサーへと向き直った。
 ――ああ、そいつ見た目に反して意外と重いから気をつけろよ。って、別に俺に云われなくても知ってるか。
 余計なことを云ったかと思ったが、アルフレッドは笑っただけだった。
 ――そうだね、いつものことだから……でも大丈夫だよ。俺、こう見えて結構力持ちなんだ。
 そう云うと、ひょい、とばかりに彼が兄を両腕の中に抱き上げたときのフランシスの驚きと云ったらなかった。あれは「結構力持ち」なんて部類じゃねえぞ、と今になって突っ込みを入れる。正真正銘の馬鹿力というやつだ。
 だがそのときは、持ち上げられて気がついたアーサーが弟を呼んだために、突っ込むタイミングを失ってしまった。
 ――アル……?
 ――そうだよ。歩くからしっかり捕まっててくれよ。
 ――ん……。
 素直に頷くとアーサーは弟の胸に顔を寄せ、背中に手を回した。その後、彼らはどうなったのだろうか。
(ああ、でも、もう会うこともないんだろうな)
 散々な目にも遭ったが、あれから二日が経った今となれば、なかなか面白い出来事だったとも思える。だから名前しか分からないことが残念な気がした。
 しかしその瞬間。フランシスが回想から戻ったのを待ち構えていたかのようなタイミングで、上着のポケットの中から電子音が流れ始めた。緊急の仕事でも入ったかな、と緩慢な動作でそれを手に取る。画面に出ている番号は見たことのないものだ。
「はい、もしもし?」
 誰だろうと思うが、得意先とも限らないので出てみる。だが沈黙が返って来た。
『……』
「? 誰?」
 間違い電話かな、と思いかけたとき、相手が思い切ったように声を出した。
『あの……俺、アーサーだけど』
「えっ……アーサー?」
 アーサーという知り合いは何人もはいない。その中でも一番に思いだしたのは、もちろん云うまでもなかった。
『ああ。覚えてるか? 二日前に世話になった……』
「そりゃ覚えてるよ。何でこの番号?」
 忘れようがない。だがどこでアーサーはフランシスの番号を知ったのだろうか。交換したっけか、と記憶の引き出しを探ってみるが、該当するものは見当たらない。すると遠慮がちにアーサーは云った。
『あの店のマスターに聞いた。駄目もとで聞いてみたら、常連だから知ってるって。顧客情報だから教えられないって突っぱねられたけど何とか聞きだした。悪い』
「ああ、なるほどな。別に構わないけど、そんでわざわざどうした?」
『迷惑掛けたってアルから聞いた。悪かったな……謝っておけってこっぴどく怒られた』
 彼が弟に怒られている姿を想像して思わず苦笑する。
「ああ、まあな。なかなかない経験したよ」
『聞けば、代金も足りなかったらしいじゃねえか。払いたいんだが……』
「いいって、もう済んだことは」
『だが……』
 そういえばしらふの彼と話すのは初めてである。酔ってるときとはだいぶ印象が違うんだな、とフランシスは半ば感心していた。
「それより、弟君とはどうなんだ?」
『えっ』
 思い切って尋ねてみる。アーサーは短く驚きの声を発した。
「仲直りしたか? ってか、何かあっただろ?」
『な、何で分かるんだ?』
「やっぱりか。や、カマかけてみただけ」
『おまっ……』
「まぁまぁ。何があったのか教えてくれたら全部チャラにしてもいいぞ」
 アーサーはたっぷり五秒は考えてから、消え入りそうな声で云った。
『…………告られた』
 電話口の向こうは真っ赤な顔をしていることだろう。思い浮かべてまた口元が綻ぶ。
「そっか。はは、そりゃ良かったな」
『良くねえよ! 弟だぞ!』
「お前も好きなんだろ? お前、あのときそう云ってたぞ」
『っ……嘘だ……』
 本当ははっきりと肯定してないが、まぁいいだろう。呆然としている彼に、で、と質問を被せる。
「当然、告白は受け入れたんだろ?」
 彼はまた口ごもってから、ああ、と答えた。
「そうか、そりゃ良かった。あんなところに通って弟の代わり探しなんて、不毛もいいところだしな」
『か、通ってねえよ。あんなとこに行ったのは初めてだ』
「……あれ、てことはお前、処女だったのか」