こらぼでほすと 留守番4
弾かれたように、三人も行動を起こす。刹那が、てってこと駆けてくる方向に、こちらも走り出して合流した。
「ロックオン、あなたは、刹那を保護してください。ハレルヤ、徹底的にやっ、てしまえ。なんなら、息の根を止めることも許可する。」
ティエリアが指示を出すと、アレルヤは超兵モードで、ハレルヤと共同戦線体勢になる。
「止めて欲しけりゃ止めてやんよ。アレルヤ、サポートしろっ。」
「オッケー、ハレルヤ。」
もちろん、アレハレルヤも本気モードだ。ただもう、なんていうか、着物に袴なのはわかる。その上に派手な陣羽織に、兜の仮面だけをつけているというのが解せない。
「どこに行ったら、あの衣装は売ってるんだろうね? ハレルヤ。」
「アキバじゃねぇーか? こらっっ、そんなのんきなこと言ってる場合かよ。」
でも、どこか、アレルヤは暢気だ。そんな感想を言っている。そして、ティエリアは肉弾戦ではなく、銃を手にしている。それ、味方もヤバくねぇか、と、ロックオンは頬が引き攣った。
「ティエリア、威嚇だけだぞ。殺すなよ。」
「ロックオン、あなたは、どこまで甘いんですか。ここで殺っておけば、後腐れがない。」
「いや、殺人はまずいってっっ。」
純粋培養テロリスト様に容赦とか社会的見地なんてものは、一切ない。もちろん、刹那もナイフを取り出している。
「お義母様、具合が悪いとお聞きしたのだが、回復なされたか? それなら、運命の恋人を私の褥に誘っても問題はあるまいな。」
ぴょんっと、土塀から飛び降りて、こちらにゆっくりと近づいてくる。いや、今、ものすごく気分が悪いよ、と、ロックオンは、こめかみに手をやる。
「大丈夫か? ロックオン。・・・・おまえの存在が、ロックオンの気分を害する。駆逐するっっ。」
「いや、刹那君、それはいいから、おまえは、俺と逃げるぞ。」
飛び掛りそうな刹那の腕を捕まえて、ロックオンが山門の方向に目をやる。あちらから脱出すれば、外でタクシーでも拾って、逃げられる。ここで、本気の戦闘なんかになったら、この変態の生命が危うい。さすがに、ストーカーごときで殺させるわけにはいかない。ユニオンの現役軍人が、行方不明なんかになったら、軍自体の捜索が始まってしまう。それは、面倒だし、『吉祥富貴』にも迷惑がかかる。
「逃げる? そうか、愛の逃避行を、私の恋人は、御所望か? 残念ながら、カスタムフラッグはないが、軍の高速艇で、私たちの愛の巣へ導こう。お義母様に別れの挨拶をするがいい。」
キラの電波もハンパではないが、この毒電波よりは優しいと思う。ざくざくと前へ進んでくるストーカーに、アレハレルヤが立ちふさがった。
「なんと、愛の試練か? これを退けることを望むなら、やらねばなるまい。運命の恋人よ、私の畏怖堂々とした戦いを、きみに捧げよう。」
ぎゃあー耳が腐る、と、アレルヤが叫んでいるが、ハレルヤのほうは冷静だ。間合いを取って、対峙する。だが、ストーカーは、それよりも先に、ふたつの花束を差し出す。
「この花は、ひとつは、お義母さまへのお見舞い、ひとつは、運命の恋人への貢物だ。花が散っては可哀想だから、先に渡させて欲しい。」
「へっ、バカぬかすなっっ。そんなもの、渡させるわけがないだろうがっっ。」
差し出された花束を、ハレルヤが叩き落す。さらに、間合いを詰めて、けりを見舞うが、それは難なくかわされた。
「きみには、花を愛でる気持ちがないと見受ける。花は、己の心に響くものだ。きみには、その心すらないのか。」
「あるわけねぇーだろうがっっ。その気色の悪い台詞で、すでに腐ってんぞっっ。」
叩き落した花束を、さらに蹴り上げて、ストーカーに見舞う。それと同時に、ハレルヤが拳を突き出した。だが、これも、片手で受け止められた。
「ナイト気取りとは笑止千万。私の運命の恋人のナイトは、私だ。」
いや、もう、耳が腐りそうな台詞満載で、ティエリアは顔が引き攣っている。とりあえず、肉弾戦に突入したから、ロックオンのほうへ振り向いて、合図した。アレハレルヤが対峙している間に、門から外へ逃げろ、ということだ。
「刹那、行くぞ。」
腕を捕まえて、戦っているふたりを、少し避けて門へ走り出す。後から、ティエリアも走っている。
もう少しで、門だ、というところで、ティエリアがぎゃっと叫んだ。振り返ったら、ころりんとティエリアが転がって、ストーカーが、すぐ間近にいる。その後をアレハレルヤが追い駆けているところをみると、猛攻を凌いで、こちらへ走り出していたようだ。
「刹那、とにかく大通りまで走って、タクシーに乗れ。」
結局、俺も参加かよ、と、内心で苦笑しつつ、刹那の手を離した。時間ぐらいは稼げる。すぐに、アレハレルヤが追いつくから、それまでの時間なら、なんとかしてやる、と、立ち止まった。だが、刹那は逃げないで、ロックオンを庇うように前に出てきた。
「こぉーらっっ、おまえさんが狙われてるんだってっっ。逃げろっっ。」
「ダメだっっ。あんたは、俺が守る。」
「おまえまでKYになってんじゃねーぞ。」
逃がそうと腕を引っ張ったら、刹那に振りほどかれた。しょうがない、とりあえず、アレハレルヤが追いつくまで、やるか、と、思っていたら、「おや、いいところでしたね。」 と、暢気な声が背後からした。
「ロックオン、その薄着はいけませんよ? 風邪ひいたら、どうするつもりですか? 」
「まったくだ。よおう、せつニャン、ママを守ってるのか? おまえはエライなあ。」
暢気な言葉と共に、ロックオンと刹那の両隣に、八戒と悟浄が並んだ。マイスター組は、ふたりの戦闘能力を知らないから、これはこれで大慌てだ。すでに、目の前にストーカーはいる。
「ふたりともっっ、怪我するから下がってください。」
「あはははは・・・大丈夫ですよ。悟浄、どうします? 」
ロックオンの声なんて、どこ吹く風と、八戒は微笑んで、ちろりと横目で悟浄を見る。相手も、ニヤリと笑って、「俺から行くか? 」 と、返事した。
「見せ場はさしあげましょう。後で、おいしいコーヒーを淹れて差し上げます。」
「はいはい、ご褒美があるなら、張り切るか。・・・おい、アレハレルヤ、そこ、退けろ。おまえらも怪我すんぞ。」
ストーカーの背後にいるアレハレルヤたちを手で追い払った。八戒が、ロックオンと刹那を門のほうへ後退させる。悟浄の飛び道具は特殊で、広範囲に攻撃できるから、そういう意味で危険だからだ。
「新手か・・・どこまで、私の愛を試すのだ? 運命の恋人よ。それほど、私の血が欲しいのか? いや、この身も心も、すべて、きみのものだ。だから、安心して私の胸に飛び込んできたまえ。」
「いや、おまえの存在が、もうなんていうか毒だよ。地の果てへでも帰れ。」
ひゅいっと悟浄が手を回すと、そこには、どこから現れたのか、ものすこく大きな武器が出てきた。殺しちゃまずいよな? と、ぶつぶつと呟きつつ、それを、前へ突き出すと、鎌の部分が飛び出して、変態の陣羽織にひっかかり土塀へと直撃させた。ぼすっと土塀に埋め込まれそうな勢いで、ストーカーの身体が土埃に霞んでいる。
作品名:こらぼでほすと 留守番4 作家名:篠義