こらぼでほすと 留守番5
早めに家を出れば、ちょっと顔を出す時間はある。トダカも、ロックオンのことは気に入っているから、顔だけでも見てこようと思っていたところだった。
「たまには、刹那君のトレーニングの相手でもしてやったら、どうだ?」
これといって、やることのない刹那は、退屈しているかもしれない。悟空がいれば、そんなことはないだろうが、午前中は、親猫とふたりっきりだ。
「『あれ』のことで、シフトを変えてたから、行く時間がなかったんだよ。元に戻ったら、行ってくる。いや、今から顔は出すけどさ。」
今日は、本当に短い時間しか滞在できないので、トレーニングの相手をするほどの暇がない。まあ、午前中の休講でもあれば、顔を出すよ、と、シンも言う。
トダカは、ほとんど店でも酒は飲まないから、車で移動しても問題はない。普段は、店と家が近いから徒歩なのだが、さすがに、寺へは、徒歩だと時間がかかる。適当におやつになりそうなケーキとかお菓子を買って、顔を出したら、なんだか大変なことになっていた。
「こらっっ、大人しくしろっっ。」
「やだぁぁぁっっっ。やめろぉぉぉーーーっっ。」
「お願いだから、ね? 我慢して。」
「おまえは、何をするつもりだっっ、アレルヤ。万死に値するぞ。それ以上に近寄るなっっ。」
「もう、なんでもいいからやっちまおうぜ、ロックオン。」
なんだか、奥から聞こえてくる不穏な会話に、親子ふたりで顔を見合わせた。何事だよ、と、シンが声のするほうへ走って、騒いでいる部屋に障子を開けた。
「おいっっ・・・・・え・・・・ええっ?」
刹那を背後からハイネが羽交い絞めにして、ロックオンが、刹那のパジャマを脱がそうとしているし、ティエリアにいたっては、上半身裸で、アレルヤを睨んでいる。
「おおっ、シン。いいとこへ来た。おまえ、アレルヤのほうを手伝ってくれ。」
どう見ても集団なんとかな場面なので、シンは、障子を開いたままで固まっている。その背後から、トダカが顔を出して、「どうかしたのかい? 」 と、普通に尋ねている。
「こいつら、風邪ひいて汗かいたから着替えさせてるんですが、言うこと聞きやがらないんですよ。」
「ああ、そういうことか。もう、身体は拭いたのかい? 」
「まだ、なんです。」
じゃあ、手伝うか、と、シンの肩をポンと叩いて、解凍すると、トダカも部屋に入ってくる。よく、見たら、確かに絞って湯気の出ているタオルとか、新しいパジャマが、そこにはある。
「ほら、刹那君。拭くだけなんだから大人しくして。シン、ティエリアくんの背中を拭いてあげなさい。」
さすが、年の功、そう優しく言うと、一応、刹那は睨みつつも大人しく、ロックオンにパジャマを脱がされた。すかさず、トダカが、熱いタオルで、その身体を拭く。
「シンくん、パジャマ取って。そっちのピンクのやつ。・・・ね? 具合が悪い時は、こうしてもらうのが普通なんだよ、ティエリア。」
拭きたいなら、前は自分でね、と、アレルヤも、その背中をタオルで拭く。往診してもらうまで、かなり熱が高かったから、パジャマが汗で濡れてしまった。治療してもらって、食事させて、着替えさせて寝かせてやろう、と、ロックオンが実行したら、「自分でやる。」だの、「俺に触るな。」だの、子猫たちが、ふぎゃあーーと威嚇して怒り出したのだ。ハイネまで借り出されて、とりあえず着替えだけでも、と、暴れているのを取り押さえていたらしい。
「ロックオンは出て行け。」
トダカに身体を拭いてもらい、ロックオンがパジャマを着せていると、刹那がむすっとしつつ、そう言う。
「うん、これ、着てくれたら出て行く。とりあえず、大人しくしてくれ。風邪は寝てるのが一番なんだ。」
どちらも、この後の展開が手に取るようにわかっているが、それを口にしない。この後、刹那の風邪は、もれなく親猫に伝染する。また、移してしまう、と、刹那は困った顔をしている。
「まあ、それは、後で考えるさ。」
ほい、完了と、パジャマを着せて、親猫が黒子猫の頭をポンと叩く。それから、振り向いて、アレルヤのほうを手伝う。クスリは飲ませたから、後は大人しくさせていればいい。どちらも、体力があるから、それほど大事にはならないでしょう、と、医者からも言われた。ついでに、看病することになったロックオンとアレルヤも、同じクスリを注射された。すでに感染してるだろうから、軽く済ませるための処置だそうだ。医者のほうも、わかっているから、アレルヤに自分の連絡先を教えて、親猫がぐったりしたら連絡して来るように、と、命じた。
大騒ぎが終わって、やれやれと、子猫たちを部屋に寝かせて、他は居間へ引き上げた。お騒がせですいません、と、ロックオンが謝ると、いやいや、と、トダカも苦笑する。
「せっかくのおやつが無駄になったかな。」
「いや、夜には回復すると思います。アレルヤ、紅茶でも淹れてくれ。俺、洗濯物を出してくる。」
着替えさせたものを洗濯機に叩きこみに行ったロックオンを見送って、トダカとハイネは、顔を見合わせて噴出した。
「はい? なんで、とうさんもハイネも笑うんだよ。」
「あはははは・・・いや、だって・・・・あははははは・・・おまえ。」
「シンでも、そういうことを考えるんだな。あははははは。」
シンが勘違いしたのだと、わかっている二人は大爆笑している。確かに、そう見えなくもないが、このメンバーで、それはない。自分が笑われているとわかって、シンが真っ赤になって怒鳴る。
「だってさ、あれはっっ。びっくりしたんだよっっ。もう、ふたりとも笑いすぎっっ。」
「いや、わかるよ、青少年。ちょっと刺激が強かったよな。あははははは。」
ドンドンと卓袱台を叩いて、ハイネが腹が苦しい、と、笑い転げている。トダカのほうは、ちょっと収まったのか、しみじみと、「おまえも大人になっていくんだなあ。」 と、目尻を下げて笑っている。
「すいません、大騒ぎにしちゃって。頂いたお菓子、そのままですけど。」
アレルヤが、全員分の紅茶を運んできた。ロックオンも戻ってきて、やっぱり、シンの顔を見て噴出している。
「ちょ、ロックオンさんまで?」
「あ、いや・・・あはははは・・・ごめん。目がマジだったから・・・あははははは。俺、いくらなんでも、ああいう遊びはしねぇーぜ? シン。」
「もう、わかったよっっ。うるせぇーよっっ、あんたらっっ。」
ブスブスと怒りつつ、自分たちが持ってきたお菓子に、シンは手を出す。しばらく、笑っていた面々も落ち着いたら、同様にお茶を手にした。
「風邪って、また、いきなりだね? ロックオンくん。」
「いや、ここんところ寒かったし、刹那は連日、外へ出てたんですよ。それに、ティエリアも、ほとんど別荘から出てなかったんで、一緒に移ったみたいで。」
無菌状態の場所に居た人間が、いきなり、ウイルスがわんさか湧いている市街地へ出向いているのだから、そういうこともあるのだろう。ティエリアは、刹那よりは抵抗力は強いはずだが、よく考えたら、ラボの仕事で無理をしていたから、その疲れもあったに違いない。
「しかし、これはこれで問題だな。移るだろ? 」
作品名:こらぼでほすと 留守番5 作家名:篠義