こらぼでほすと 留守番6
「はははは・・・それ、よくわかるわ。俺、一週間が限界だ。軍人だった時に、何が苦痛だったかって、あれが一番だった。このペーパーレスの世の中に、なんで、あんなに書類にサインしなきゃならないかねぇ。」
「それ、三蔵も叫んでるよ。」
向こうの寺院で仕事している三蔵の横に、悟空も一緒に居るのだが、一時間か二時間に一度は、そう叫んだり詰ったりしている。寺院の最高責任者の認証が、印鑑だけなら預けておけるのだが、当人のサインが必要な書類もある。それらは、転送されて、ここまで届けられるため、こちらにいても、その書類とは顔を突き合せている。急ぎでないものは、あちらに溜まっているだろうから、それを目の前にこめかみをひくつかせたであろう保護者の姿は簡単に想像できた。
「そろそろ里心が出てきたか? 」
ぼんやりとしてしまった悟空に、鷹は、そう声をかけた。誰かがいるというのと、保護者が居るというのは、かなり違うものだ。いくら、おかんなロックオンでも、そこまでの対応はできない。
「なんだよ、それ? 」
「寂しいかって聞いたんだ。」
「うーん、ちょっと寂しいかな。ロックオンさんがいたら、そうでもなかったけど・・・・」
「まあ、ママは、子育てに慣れてるからなあ。それなりに気配りとかできるんだろうが、俺やアレルヤじゃ、それは無理だし、マリューでも難しいな。」
「いや、別に会いたいとかじゃないんだ。なんか・・・こう・・・言葉にできねぇーけど、なんかなんだ。」
どうしてるかなーなんて想像すると、ちょっと気分がブルーになる。それで、猛烈に会いたいとかいうわけではないのだが、やっぱり、姿がないな、なんて思うと寂しくもなる。駄々をこねる年でもないのだが、それなりに構ってくれていたロックオンまでいなくなると、さらに、その気持ちが膨らんでいる。
「じゃあ、ちょっと楽にしてやるよ、おサルちゃん。」
こたつから起き上がると、鷹は、悟空を抱えて、客間に顔を出した。ティエリアたちも、まだ起きていて着替えたところだった。鷹が現れたので、アレルヤは、警戒するようにティエリアの前に陣取った。
「違う違う、このおサルちゃんも仲間に入れてやってくれ。・・・悟空、刹那はママがいなくて寂しがってるから、一緒に寝てやれ。おまえなら風邪は移らないから大丈夫だ。」
アレルヤに、もう一組の布団を出して、ここで全員で寝てくれ、と、依頼して、鷹は風呂に入るぞ、と、宣言した。
「着替え、三蔵のでもいいか? 」
「おう、貸してくれ。俺は居間のこたつで寝るから、毛布もくれるか? 」
「え? 脇部屋に布団を敷きましたよ? 鷹さん。」
「いやぁー俺さ。テレビがないと寝れないんだよな。ここんち、居間にしかないから。」
ハイネやロックオンのように読書して眠るなんていう物静かな習慣は、鷹にはない。適当にテレビをつけておいて、その音を聞きながら寝る。テレビは、タイマーで適当な時間で消えるようにしておくから、それが子守唄の代わりになるというのだ。
「騒々しい子守唄だな? 」
「深夜のサスペンス劇場とか、なかなかハマるんだぞ? おサルちゃん。・・・なんなら、お兄さんと一緒に体験してみるか? 」
「いっいいえっっ、悟空は僕らと一緒に寝ますからっっ。誘わないでください。」
いい声で囁かれる言葉に、アレルヤが悟空を引っ張った。横になっていた刹那まで飛び起きて、悟空に飛びついて、鷹を睨んで威嚇する。
「襲ったら駆逐する。」
かなり本気で睨んで自分を守ろうとしてくれる黒子猫に、悟空は微笑んだ。そういや、ここにも寂しい子猫がいたんだよな、と、その頭を撫でた。
「あー大丈夫だ、刹那。俺、普段から、さんぞーのいい声で慣れてるから、あれぐらいじゃ、なんともない。今日は一緒に寝ような。」
とりあえず、毛布と着替えを渡して、自分も風呂に入ってこようと、自分の部屋に出て行く。それを見送って、「あいつも寂しいみたいだから、一緒に寝てやってくれよ。」 と、刹那の頭をぐりぐりと撫でた。
「戸締りしてから風呂に入るから、おまえが先に入れ、アレルヤ。」
「いえ、僕が最後で。それに戸締りも僕が・・・」
門や本堂、それから玄関と、戸締りも広範囲だ。それに、誰か『吉祥富貴』のものがやってくる場合を考えて一箇所だけ通れるようにしておくことになっている。それは、ロックオンから教わったので、鷹は知らない。
「そういうことなら、一緒にやろう。・・・おまえさんたちは、大人しく寝ていること。」
廊下へ出て悟空も呼んで、三人で戸締りをした。当然、ここの住人の悟空が一番詳しいので、その指示に従う。さっさと回って順番に風呂に入って、その日は、それで終わった。
翌日から、マリューがやってきて、居候組が賑やかになった。ただし、マリューも技術仕官なんていう仕事の忙しい人だから、家事は、それほど得意ではない。そこいらのフォローはアレルヤがして、鷹は、仕事に出たり入ったりで、二、三日は、穏やかに過ぎた。
カレー、シチュー、お好み焼き、鉄板焼き、鍋という栄養も摂れて簡単なメニューを、悟空とマリューとアレルヤで用意した。これも、各人で、いろんな拘りがあって、その議論でもわいわいと騒ぐ。刹那も熱が完全に下がって、風邪が治ると、境内で悟空相手のトレーニングに勤しんだ。
「ほら、来いよ、刹那。」
「悟空、武器を出せ。」
「え? でも、それだとおまえが、すっごく不利だぞ? 」
「かまわない。一度、その威力を拝ませろ。」
八戒から聞いていた武器を、刹那が見たいとせがむので、悟空も耳の上に引っ掛けている如意棒を取り出して、伸ばした。伸縮自在の如意棒を本気で使ったら刹那ぐらい簡単に倒せてしまうから、そこの部分は固定した。
「ちゃんと避けろよ、刹那。」
「了解した。」
びゅーんと、悟空が如意棒を揮う。そこから刹那は飛び退いて、悟空の傍へ駆け込んでくる。長い棒は、大勢の相手をなぎ払うには有効だが、自分の手元に飛び込んでくる敵には不利になる。だが、悟空も慣れたもので、その如意棒を始点にして、ぴょんと、棒高跳びのように刹那が突っ込んできた場所から別の場所へと飛んでしまう。
「ほんと、男の子って怪我が絶えないわけね。」
それを本堂の前で観戦しているマリューは、大笑いして見ている。明日は休日だし、たまには外食でもしようか、ということになったので、晩御飯の準備がないから、観戦なんてことになっている。
その隣でアレルヤも、それを眺めて微笑ましいと笑っている。悟空が本気でないのは、その表情でもわかる。適当に刹那に訓練をつけてくれている様子だ。対人の訓練も、それなりに受けてはいるが、マイスター組は、それよりも低重力下での筋力の維持のため体力をつけることと、MSの操作のほうの訓練が主になるから、こういう体術なんかは珍しくて楽しい。それに、刹那は接近戦用のMSのマイスターだから、こういう訓練は大切でもある。いつもは、自分かロックオンが付き合っていたが、それほど上手なわけではなかった。というか、一対一対応のものしかできなかったのだ。それからすると、悟空の動きは数人を相手にしているのと同じほどの効果がある。
「マリューさん、お休みはいつまで、なんですか?」
作品名:こらぼでほすと 留守番6 作家名:篠義