こらぼでほすと 留守番6
「日曜までよ、アレルヤ。なかなか楽しい休暇だわ。可愛い子猫ちゃんたちと仲良くなれたし、大人数でわいわいやる合宿チックなのも、賑やかで若返るわ。」
子猫たちとおサルちゃんの若いパワーを、存分に吸収させてもらえたからね、と、マリューは大笑いする。普段は、鷹と二人だから、静かなものだ。それに何年か連れ添ってもいるのだから、騒ぐような用件はない。ここでは、いきなり紫子猫と黒子猫が喧嘩を始めるし、悟空は信じられないほど食べるし、アレルヤは、ちょっとドジなところがあって、そのフォローで慌てふためくこともあるし、で、ずっと大声で叫んでいるような状態だ。これは新鮮で楽しい。さすがに、これが通年と言われたら、マリューもギブするだろうが。
「僕らも楽しいです。」
「でも、あなたたちのママは、私より年下で、これを毎日やってるわけなのよね? ある意味、尊敬するわ。」
「あ、いや、ずっとってわけではないですよ。ミッションの都合で、バラバラの時も多かったので、全員が揃っている時だけです。」
「それでも、それ以外は、ずっとなんでしょ? 」
「まあ、そうですね。僕らの精神的なフォローもしてくれてたし・・・そう考えると、すごいかも。」
一番年上で、マイスター組リーダーだから、そういう意味でもフォローはしてもらっていた。ミッションでは各人のMSの特性に基づいて対等の仕事をしていたが、普段の部分のことを考えたら、そうだと思う。人に懐かない刹那を懐かせたり、他人にも自分にも厳しいティエリアを諭したりしていたのは、誰あろうロックオンだし、アレルヤにしても、ハレルヤのことを気付かれてからは、アレルヤとハレルヤを同じように扱ってくれていた。これから、あのフォローが常時受けられないのだと思うと、ちょっと不安だ。だいたい、自分ではティエリアも刹那も従ってくれるとは、到底、思えない。
「ほら、暗くならない。こういうのは経験よ。慣れれば、いいだけなんだから、しっかりしなさい。」
どんっっと背中を叩かれて、アレルヤも苦笑した。その後、どすっっと蹴りが入った。
「アレルヤ、俺は行くぞ。」
背後にはティエリアだ。親猫が部屋に戻れるほど回復したので、見舞いに来ても良いという許可が出た。刹那は、「行かない。」の一点張りだから、ティエリアが戻ることにした。
「おまえは口より先に手だな? 紫の子猫ちゃん。」
呆れるように呟いて、ハイネも挨拶に顔を出した。ようやく、オーヴでのバイトが終わって戻ってきたハイネが、別荘まで運んでくれることになっている。
「マリューおねーさま、今晩からアスランたちが泊まりに来るから、今日の夕方で、ボランティアは終わってください。お疲れ様でした。」
せっかくの休暇を全部潰させるのは申し訳ない、と、アスランたちが、こちらに泊まりに来ることになった。今夜の仕事が終わったらやってくるから、交代してもらえることを伝えた。
「あら、残念。」
「まあ、そう言わずに、鷹さんの相手もしてやってください。あんまり子猫とサルばっかり構ってたら拗ねますよ? 」
「しょうがないわねぇー。」
鷹のほうにも、そのことは連絡済だ。今は、ラボのほうにいるからハイネと入れ替わりに戻って来る。それから、土日は、ふたりでゆっくり過ごしてもらえる算段だ。
「マリューさん、俺たちに付き合ってくれて感謝している。」
「そう改まらなくてもいいのよ、ティエリア。私も楽しかったから。」
ティエリアもお礼を言って、軽く会釈した。じゃあ、出かけてくる、と、ティエリアはハイネと外出した。マリューのほうも、荷物を整理してくると、脇部屋に引き込んだ。
『吉祥富貴』に、今夜の予約が入った。元から入っていたヒルダの分は、八戒の担当だが、もうひとつが、また? というお方だ。
「ナタル様が、お連れ様と来店です。」
フロアマネージャーのアスランが、ミーティングの席で、それを発表すると、げーという声が一斉にこだました。
「動けるのかよ? ちっっ、もうちょっと丹念に痛めつけておくべきだったか・・・」
「いや、悟浄さん、ナタルさんに尋ねたら、『あれ』ではないということでした。でも、油断は禁物なんで、八戒さんと悟浄さんは姿を隠してください。」
凹にした当事者は、やはり顔を出さないほうが無難だ。
「でも、アスラン、キラくんも危険ではありませんか? 」
「そちらは、俺とシンと紅で席につくから大丈夫。」
最近、スマートな接客の紅も、ナタルのお気に入りで、シンたち同様に指名してくれるようになった。ナタルではなくキラの周り、三人が張り付くので、おかしな真似は、阻止できる。
「それから、オーナーが飛び入りする可能性があります。そちらは、イザークとディアッカで接客してください。後から、キラも行かせます。」
ヒルダが、こちらに戻っているということは、その警護対象者の歌姫様も戻っている。まだ、こちらに顔を出していないから、今夜辺り、やってくる可能性がある。
「お客様の予定は以上です。」
「アスラン、ひとつ質問だ。」
打ち合わせが終わると、イザークが手を上げた。親猫は、どうしている? という質問だ。『吉祥富貴』では、各人のスケジュールなんかも、必要とあれば公開される。それらは、アスランと八戒が管理しているからだ。そうでないと、指名された時の出勤予定が把握できない。
「ロックオンなら、別荘だ。風邪を引いたんで、戻ってる。」
「え? じゃあ、寺は? 」
「アレルヤと刹那が留守番をしている。ティエリアは今日、ロックオンの看病に戻った。今夜から、俺とキラで寺へ泊まるし、『あれ』には、俺が対応するつもりだ。」
今度こそ、息の根止めてやる、と、アスランは優雅に冷酷に笑みを浮かべている。悟浄たちに相当痛めつけられているらしいので、タネ割れしたら、簡単に潰せるだろう。イザークとディアッカは、その微笑の意味が、よくわかっているから、「殺すなよ。」 とだけ注意した。
その夜、ナタルと現れた男は、『あれ』ではなかった。なかったが、『それ』も相当怪しい風体だ。どう見繕っても、鷹ぐらいの年齢なのだが、長い髪をポニーテールにして、白いスーツの背広丈も、非常に短い斬新なデザインだったからだ。
「あれも何かのコスプレか? 」
「いや、ああいうコスは・・・・あれ、誂えだよな? あんなデザイン有り得ないだろ? 」
こそこそと、それを観察しつつ、スタッフたちで問答する。やはり、『それ』もおかしい生き物という認定で、意見は一致した。
「すまないな、シン。キラはいるか? 」
「はい、すぐ来ます。ナタルさん、お飲み物は何がいいですか? それとも、先に八戒さんの施術を受けます? 」
「ああ、そうだな。先に施術してもらおう。ミスターカタギリ、ご要望のキラは、すぐに来るらしい。失礼する。」
ここに来る女性客は、ほとんどが八戒の気功波を受ける。ナタルも、ここのところのゴタゴタで疲れているから、先に、そちらを頼んだ。
「では、ご案内いたします。」
ナタルは、紅が優雅に案内する。残るほうには、シンとレイが接客する。
「カタギリ様、お飲み物は? 」
作品名:こらぼでほすと 留守番6 作家名:篠義