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ただのものかき
ただのものかき
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マリーの想い、テリーの本質

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自らが破り、引き裂いたそこから溢れ出る血液を、マリーは小さく喉を鳴らしながら飲み下す。


―――――――――極上の血液を貪る吸血鬼のような恍惚の表情で――――――――


座り込んで木に背中を預けたままのテリーの肩口に顔を埋めながら、なおもその鉄の味のする体液を貪る。
そんな常軌を逸した彼女の姿に、テリーはただ呆然とするばかりだった。

マリー「ん…ねえ…テリー」
テリー「な…なんだ?…」
マリー「どうして私がこんなことしたと思う?」
テリー「…分からねえ…俺、お前に憎まれていたのか?…」
マリー「…やっぱりあなたはあなたなのね…教えてあげる…」
テリー「……」
マリー「私はね…あなたをこんな風に傷つけて…縛り付けて…あなたの全てを自分のものにしたいくらい、あなたのことを…一人のオンナとして、愛しているのよ」
テリー「え?…」
マリー「この傷だって…あなたが私だけのものだっていうことの証としたいからつけたの…あなたの血を飲んだのだって、私の中にあなたの体の一部が混ざってひとつになるのを感じたいから…私は、あなたが大好き…もう、どうしようもないくらいに…愛してる…」

常軌を逸した…しかしどこまでも純粋で真っ直ぐな愛…。
自らが付けた、最愛の人物の傷を愛おしそうに眺めながら、その胸に頬を寄せる。
そして、目の前の愛を忘れてしまった青年に張り裂けんばかりの想いをぶつける。

テリー「……マリー……」
マリー「…どこへも、行かせない…あなたを、ずっと私のそばに縛り付けたい…私は、もう最愛の人を喪うのは嫌…テリー…愛してる…永遠に(ずっと)愛してるから…」

ここまで言われては、さすがの朴念仁も気づかないわけにはいかなかった。
縛り付けたい、といった言葉を行動で表すかのようにテリーの体にしがみつき、胸に顔を埋めるマリーの姿。
そんな彼女から、痛いほどに伝わってくる激しすぎるほどの愛情。
そんな激情とも言える愛情を伝えられたテリーは、思いも寄らなかった事態に呆然とせざるを得なかった。
そんな彼を差し置いて、彼女は最愛の人に抱きついたまま、さらにぽつぽつと語り始める。

マリー「父と恋人を同時に喪って…それ以来ぽっかりと穴が空いてしまった私の心…いつからなんて…もう覚えてないけど、あなたといるとその心の空白が埋められていくのを感じてた…」
テリー「……」
マリー「この想いを自覚したきっかけは、私がネスツの調査をしていた時のこと…ネスツが絡んだ大会の中で、あなたが二度も命を落としそうになったのがきっかけ…」
テリー「!あの…時のことか?…」

かつてネスツの野望のために開催された大会。
その中でテリーは基地の崩壊に巻き込まれ、命を落とす直前まで追い込まれたことがあった。
それも、二度も。
結果的には無事に生還することはできたものの、本来ならば死んでいて当然だった。
なぜそのことが結びつくのか。
この孤独な青年には、決して分かることのないことだった。

マリー「あの時のあなたが…あなたがいなくなったことが…父と恋人が死んだ時と重なって…私は、あの時の絶望を…いえ、それ以上の絶望を感じた…でも、あなたは生きて帰ってきてくれた…無事に生還したあなたの姿を見た時…思った…私は、もうこの人がいないと生きていけないって…」
テリー「マリー…」
マリー「それ以来…私の中であなたへの想いがどんどん大きくなっていくのが分かった…でも、今の関係を壊したくなくて…ずっと…ずっとこの想いに蓋をして…ひた隠しにしてた…」
テリー「……」
マリー「でも…隠そうとすればするほど、この想いが大きく膨らんでいって…あなたを私だけのものにしたい、なんて…醜い独占欲までどんどん大きくなって…それでも、ずっと隠してた…さっきのあなたの言葉を聞くまでは…」
テリー「俺の…言葉?…」
マリー「…『自分にとっての大切な人は、もういない』」
テリー「!」
マリー「私は、この人にとっては大勢いる友人の一人にしかすぎないんだって…私には、万に一つの可能性もないんだって…そう突きつけられたのと同然だった…許せなかった…私は…あなたのことを考えるだけで狂いそうになるのに…私は…もう、あなたしか見えていないのに…」
テリー「……マリー……」

吐き出される言葉のひとつひとつに、狂おしいほどの想いがこめられている。
そんなマリーの言葉に、テリーは何もいうことができなかった。


――――――――こんな俺を、そこまで想ってくれる人がいたのか――――――――
――――――――何気なしに発したあの言葉が、それほどに彼女を苦しめ、傷つけていたのか――――――――


そんな彼女の想いに、何も気づくことすらできなかった自分が情けなかった。
同時に、自分を愛してくれる存在に、恐怖を感じてしまった。


――――――――自分の愛した女性は、みんな自分の目の前で死んでしまった――――――――


それ以来、無意識に恋すること、人を愛することを避けるようになってしまった自分。
もし、またあの悲劇が自身の目の前で繰り返されたら?
そう思うと、本能が、心が愛情を拒絶するようになってしまっていた。
そんな自分が、彼女を愛することなどできるのだろうか。
無意識のうちに封印してしまっていた過去の記憶が、今になって苦く甦ってくる。

マリー「あの言葉を聞いたとき、私の中で鍵をかけた想いの蓋が音を立てて壊れるのが分かった…もう、どうにも止まらなかった…あなたが欲しい…あなたの全てが欲しい…もうそれだけだった…」
テリー「…………」

過去の忌まわしい記憶が甦ってしまい、途端にその端整な顔を蒼白に染めてしまうテリー。
しかし、想いの丈を打ち明けることに集中しているマリーはそれに気づかない。

マリー「強引にあなたの唇を奪ったとき…私はもう天にも昇る心地だった…あなたの胸に傷つけたときも…あなたの血を飲んだときも…あなたのひとつひとつを自分のものにしていってるみたいで…もう嬉しくて嬉しくてたまらなかった…」
テリー「………」
マリー「今もこうしてあなたの胸に抱きついているのだって…幸せすぎてどうにかなりそうなくらいなんだから…」
テリー「………(かた…かた…)」

似ている。
あの時と。


――――――――かつて、自分を愛してくれた女性が自分に愛を打ち明けてくれたときと――――――――


あの時はその直後に…。
あの悲劇が…。
自分にとっての大切な存在が…。
心から愛した存在が…。
自分の目の前で喪われた…。
また…あの時の悲劇が繰り返されるのか…。
だめだ…。
それだけは…絶対に…。

マリー「?…テリー?…」

幸せをかみ締めながら抱きついているテリーの体が小刻みに震えていることに気づくマリー。
ふと見上げてみると、そこには死人のように顔を蒼白にしながら何かに怯えるように震えるテリーの姿が。
これは、ただごとじゃない。

マリー「テリー!?どうしたの!?テリー!?しっかりして!!」

怯えるように震え続ける最愛の人の肩を掴み、無我夢中で語りかける。
が、その時だった。


どんっ!!


マリー「!あっ!!!!」

瞬間、自身の体に強烈な衝撃を感じた。