マリーの想い、テリーの本質
それを感じた時、彼女は最愛の人から大きく離れた位置にいた。
何が起こったのか、なんて嫌でも分かる。
自分は、彼に突き飛ばされたのだと。
テリー「あ……(がたがた……ぶるぶる……)」
突き飛ばした当の本人は、酷い有様だった。
彼女を突き飛ばしたたくましい両腕はそのまま伸びきった状態のまま…。
端整な作りの顔はものの見事に死人のように真っ青に染まっており…。
何か、とてつもない恐怖に襲われたかのようにその全身を小刻みに震えさせ…。
そこには、普段の陽気で明るい彼はいなかった。
いるのは、何かの恐怖に怯え続ける死人のような青年だった。
マリー「…テ、テリー?…」
普段の明るさ、さわやかさ、力強さを微塵も感じさせない…。
あまりに違和感だらけの想い人の姿…。
そんな彼に近づこうとするが…。
テリー「く、来るなあっ!!」
マリー「!!??」
彼自身が、彼女の接近を許してはくれなかった。
何かに怯える姿そのままに、彼女を拒絶するテリー。
テリー「だ…だめだ…俺に…俺に…近づくな…」
マリー「テリー?…どうしたの?…」
震えの止まらない体を庇うように両手を前に突き出しながら、ひたすら拒絶の姿勢を崩さない。
そんなテリーを目の当たりにしたマリーは、彼に拒絶されたことに大きなショックを受けながらも、どうにかそれを隠しながらテリーに問いかける。
テリー「だめだ…俺を…俺を…愛さないで…」
マリー「(ズキッ!!)な、なんで!?なんでそんなこと言うの!?私は、あなたのことが…」
愛情を拒絶するテリーの言葉と姿勢にさらに大きなショックを受けるマリー。
今度はそれを隠しきれず、悲痛な表情をその美麗な顔に貼り付けながら目の前の想い人を問い詰めるが…。
テリー「嫌だ…もう…嫌なんだ…」
マリー「?な、何が?…」
テリー「俺を…俺を愛した人が…目の前で死んでいくのは…」
マリー「!!」
消えてしまいそうな儚い声で吐き出した彼の思い…。
そして絶望…。
その一言が、彼女に全てを理解させた。
させることになってしまった。
――――――――なぜなら、彼女自身も味わったことのある絶望だから――――――――
そのたった一言で、彼の背負っているものを全て理解することができてしまった。
マリー「テリー…まさか…あなたも…」
その先を告げることはなかった。
いや、できなかった。
その先を告げるよりも早く、テリーの口が言葉を紡ごうとしていた。
テリー「…俺には…かつて本気で愛し、そして愛してくれた女性がいた…」
マリー「……」
震えは収まったが、蒼白な顔は変わらず。
しかし、そんな状態でも、テリーは静かに言葉を紡ぎ始める。
マリーは、そんなテリーの言葉を、静かに聞く姿勢をとった。
テリー「生まれて初めてだった…あそこまで…あそこまで異性に恋焦がれたのは…そして…あそこまで愛してもらえたのは…ずっと復讐のために憎しみを抱き続けながら生きてきた俺にとって…初めてだったんだ…」
マリー「………」
テリー「でも…その彼女は…結局は俺の復讐劇に巻き込まれた末に…命を落とした…俺の…目の前で…」
マリー「!!…」
テリー「俺は…俺は…自分が本気で愛した女性を…本気で俺を愛してくれた女性を…救うことができなかった…」
マリー「テリー…」
悲しみに満ちた表情でぽつぽつと語り続けるテリーの過去…。
悲痛なテリーの過去…そしてそれを悲しげな表情で語り続けるテリー自身…。
想い人のそんな姿、過去にマリー自身も悲痛な想いを隠せなかった。
テリー「それ以来…俺は女性と深く関わりあうことに恐怖を感じるようになり…誰かに恋し…誰かを愛することができなくなりはじめていた…辛かったんだ…彼女のことを思い出すのが…彼女のような悲劇にまためぐり合うことが……でも…」
マリー「でも?」
テリー「また…また…出会ってしまったんだ…俺が…本気で愛することができる女性に…」
マリー「え?…」
テリー「はじめは怖かった…けど…どんどん彼女への想いが大きくなって…抑えられなかった…彼女を…愛することを…そして…そんな俺を…彼女も愛してくれた…」
マリー「………」
テリー「だが…そんな俺達を引き裂くかのようにまた戦いの中に…今度こそ…今度こそ大切な人を護る…そう誓った…そして…戦い続けた…」
マリー「………」
テリー「だが…だめだった…」
マリー「え?…」
テリー「またしても…またしても…俺を愛してくれた女性は…俺の愛した女性は…俺の戦いの中で命を落とした…また…俺の…目の前で…」
マリー「……(ズキンッ)」
胸が…痛かった。
目の前の青年の…あまりに辛く悲しい過去…。
そして…それを悲痛な顔で語り続ける彼…。
見ていたくなかった。
聞いていたくなかった。
戦いの中で必死に自分の愛した人を護ろうと…。
救おうとして…。
目の前で…その大切な命が散ってしまった時の彼の絶望…。
彼女自身も、過去に自身の大切な存在を失ってしまった。
だからこそ、分かる。
彼の、テリーの深すぎるほどの絶望と…。
いいようのないほどの悲しみを…。
テリー「だめなんだ…もう…俺の…俺の愛した女性は…俺を愛してくれた女性は…みんな…俺の目の前で死んでいく…もう…耐えられない…自分が愛してしまったから…その人が死んでいくなんて…そんな光景を…目の当たりにするなんて…俺には…もう…」
マリー「テリー……」
悲痛な想いを打ち明けるテリー。
その悲痛な顔の中にある瞳に…涙を浮かべながら…。
溢れ出た涙が重力に従い、頬を伝って流れていくことすら気づかず、ぽつぽつと語り続ける。
――――――――ずっと…ずっと封じ込めていた、絶望と悲しみ…救えなかった己への怒りと憎しみ…辛さを…――――――――
テリー「大切な人一人救うことすらできない俺自身が…許せなくて…憎くて…悔しくて…でも…それでも救えなくて…俺は…人を愛してはいけないんだ…俺は…人に愛されてはいけないんだ…」
マリー「……めて…」
テリー「俺は…自分の大切な存在すら護れない…救えない…そんな男が…人を愛することも…人に愛されることも…おこがましいんだ…」
マリー「……や…て…お願い……」
テリー「だから…マリー…俺を…俺を…愛するなんて…言わな…」
マリー「お願いだからもうやめて!!!!!!!!」
森の中の木にいた鳥達が騒がしく逃げ出すほどの怒号。
あまりにも悲痛で自虐的な想いを涙を流しながら吐き出し続ける青年の言葉を…。
自身をひたすら傷つけるだけの空しい語りを…。
彼自身気づいていないであろう…自分自身を切り刻み続ける時の絶望に満ちた顔を…。
そんなもの全ていらないと言わんばかりの彼女の叫び。
テリー「!!!!マ、マリー!!??」
自分自身を切り刻み、傷つけるだけの空しい語りを断ち切られた彼の目に映ったのは…。
同じ絶望を味わい、同じ想いを共感できる…彼女の悲痛な顔…。
そして…その顔の中にある瞳から零れ落ちる涙…。
普段の彼女からは見ることはないだろう…そんな顔をしたマリーは、涙を拭うことすらせずに愛しい存在に近づいていく。
そして…。
マリー「バカ!!!!!」
ばしいいいいいん!!!!!
作品名:マリーの想い、テリーの本質 作家名:ただのものかき