こらぼでほすと 留守番7
直接、伝えるから、明日、合流するまで黙っていてくれ、と、言われてアスランも頷いた。そろそろ戻らないといけないだろうと、『吉祥富貴』のスタッフも噂はしていた。ただ、親猫が体調を崩したから、もう少し先か、と、予想していたのに、三日後のトレインの予約を頼まれた。
・・・ロックオンが指示出したんだろうな・・・・
子猫たちが、そんな判断をするわけがない。親猫が、そう命じれば、渋々でも頷くだろう。
・・・それなら、派手に送り出してやるほうがいいかな? 八戒さんとも相談するか・・・・・
そのまま、アスランは八戒と連絡を取ったが、答えは否だった。
「派手にするより、マイスター組だけにしてあげたら、どうですか? しばらく、会えないんだから、話したいこともあるでしょう。それに、子猫たちは、また降りてくるんだから、普通に送り出してあげればいいんですよ。」
これで、会えないなんてことはない。一ヶ月か二ヶ月に一度は、誰かが降りてくるだろう。あまり派手にしてやったら降りて来にくいなんてことになってしまう。その辺りの意見を八戒が話した。
「そうですね。これで終わりじゃないんだった。」
「明後日ということなら、明日一度、マイスター組には別荘へ帰ってもらいましょう。明日の夕方から、僕と悟浄が寺へ泊まります。」
それが本来の留守番の形でもありますからね、と、八戒は笑った。ロックオンが出て来るきっかけに、三蔵は、留守番に指名したが、いつもなら、八戒たちがしていることなのだ。
「わかりました。ティエリアに、もう一度、連絡して、そう伝えます。」
端末を切って、振り返ったら、ハイネが傍に居た。アスランの返事する言葉だけで、なんとなく理解したらしい。
「明日は何時だ? 」
「昼頃でいいだろう。」
「子猫たちが宇宙へお帰りか・・・ママニャンが落ち込みそうで、そっちのほうが俺は怖いよ。」
「こればっかりは、どうともできないさ。」
「そうだけどな。」
もう戦わないと決めた自分たちと、これから第二ラウンドを覚悟しているマイスターたちとでは、気分も覚悟も、まったく違う。ロックオンは戦えないが、気分的には、マイスターのままだ。また、ぶっ倒れるほど落ち込まれるのは避けたい。
「悟空の世話でもしてもらおうぜ、アスラン。それなら、忙しくて倒れてる暇もないさ。」
「そういうことだな。」
離れたところから、悟空の、未だ衰えない食欲に苦笑して、二人も、輪の中に戻る。
翌日、午後からハイネがアレルヤと刹那を別荘に送った。話は、彼らだけでいいだろうと、すぐに引き返して、寺へ戻った。その頃には、悟浄と八戒が寺へ到着していた。キラたちは、歌姫様に拉致されてしまったらしい。
悟空も話は聞いたらしく、ちょっと肩が落ちている。まあ、あれだけ賑やかにしていたのだから、いきなり大人ばかりになったら寂しいだろう。
「あのな、悟空。明日から、またママニャンが、ここに来るから、思いっ切り世話をかけてやれよ? 」
「え? 」
「ママニャンも、一人になったら寂しいだろ? だから、ここで、おまえ相手にしてるほうがいいんだ。」
「でも、ハイネ。いいんですか? まだ体調は落ち着いたわけじゃないでしょう? 」
「ドクターに言わせると、あのまま別荘にいるほうが危険なんだとさ。だから、定期的に検診はするが、寺に居るほうが安全だって。」
ラボの医療ルームにいたドクターに、そこいらのことは相談した。風邪のほうは、もう回復しているから、日常生活は、少しゆっくりと送ってもらうだけでいいらしい。世話するのが悟空だけなら、忙しいなんてこともないから、そのほうが無難でしょうね、と、ドクターも笑って許可はくれた。
「そのほうがいいだろうな。三蔵が帰ってきても、しばらくは、ここんちで遊んでればいいさ。」
「そういうことなら、かまいませんよ。僕らも、朝は、さすがにきついですからね。」
深夜まで仕事して、朝も普通に起きるなんていうのは、相当厳しい。悟空たちは、深夜になる前に、だいたい仕事は終えて帰るから、なんとかなっているが、八戒たちのほうは、クローズまで、といかなくても、それより遅い時間になる。一日だけというなら、起きられるが、毎日となると、キツイ。
「あーそれならさ、さんぞーの代わりをしてもらえばいいんだよな? 俺が朝飯作ってさ、それ、起きて食べてくれればいいし、洗濯とか掃除も、俺がやりゃーいいんじゃん。」
「ママじゃなくて、パパ代行ですか? それはいいですね、悟空。」
何もしない保護者の代わりというなら、楽でいいだろう。まあ、悟空がいない時に、それなりの家事をするぐらいなら身体にも悪くはない。
「挨拶ぐらいはしたかったな。」
「うーん、それなら、見送りに行くか? 悟空。トレインじゃなくて、シャトルだから、間に合うぞ。」
トレインだと、一度、軌道エレベーターのあるユニオン領か、アフリカ大陸へ移動することになる。その時間を省ければ、親猫と居られる時間は延びるだろうと、アスランが、シャトルの手配をした。一端、プラントへ入り、そこからエターナル経由で、CBの船とランデブーする地点まで輸送船に載せてもらうという手筈にした。ちょうど、プラント側から提供の資材を運搬する用件があったから、それに便乗させることにしたのだ。明日の夕刻まで、マイスター組だけで水入らずで過ごして、それから親猫だけ寺へ戻って来ることになっている。
「夕方か・・・なら大丈夫だ。行くっっ。」
「そうしてくれると助かるな。ママニャンが迷子になったら大変だから、しっかり連れて帰ってくれ。」
「おうっっ。」
「悟空、ロックオンさん、あまり長時間、連れまわすようなことはしないでくださいね。できれば、途中からタクシーにしてあげてください。」
「オッケーっっ。」
悟浄は、くくくくっ・・・と肩を揺らしている。アスランも最初から、誰かをロックオンの迎えに配置するつもりだった。たぶん、見送って、そのまま佇んで居そうだから、誰かが同行するほうがいいだろうか、なんてハイネと相談したからだ。当初、ハイネが、その役はやるよ、と、言っていたが、ここに適任者がいることを思い出した。子猫の代わりなら、サルでいいのだ。それをさも、自分から言い出したように錯覚させて、ハイネが誘導した。
明日の夕刻に、シャトルで戻ることになった、と、ティエリアが戻って来たアレルヤと刹那に仰々しく申し渡したら、途端に、ハレルヤが出て来た。
「ちょっと、待て。あのぼんくらを放置するつもりかよ? 女王様。」
「ロックオンの風邪は治っている。それに、タイムリミットなのは事実だ、ハレルヤ。」
「それなら、ちびだけ残しておこうぜ。いきなり全員、帰らなくてもいいだろ? 」
アレルヤはティエリアの言うことに逆らえない。だが、気持ちは、今、ハレルヤの言葉と同じものだ。だから、ハレルヤが変わっている。
「ハレルヤ、そう決めたのは、俺だ。ティエリアも、おまえさんと同じことを言った。」
「だから、それでいいじゃねぇーか? ロックオン。」
「ダメだ。組織は、まだ混乱している状態なんだろ? それなら、マイスターが率先して働くべきだ。こんなとこで、ちんたらしている場合じゃない。」
作品名:こらぼでほすと 留守番7 作家名:篠義