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【けいおん!続編!!】 水の螺旋!!! (第一章・衝撃)

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 唯は恥ずかしそうに顔を掻いて答える。

「そりゃいいことだ。あ、そういやまたいつものライブハウスでライブイベントの告知が出てるんだけど、どうする?」

「えっ、いつ?」

「来月の16日」

「来月の16…、うんいけるよ。出よう出よう!」

「OK。みんなにもいけるかどうか聞いて、また連絡するわ。っと、私こっちだから」

 すでに二人は大学の構内に入っていた。軽音楽部のメンバーは同じ大学に入学したとはいえ、学部はばらばらであった。そのため、講義を受ける場所も、時間割もまったく違う。

ことに唯は、家族からの勧めもあって、他の仲間が文系の学部を選んだのに対し、理系の学部に入学していた。そのため、このようにキャンパス内で別れるタイミングも早いのだ。その上、理系の講義は文系の講義よりも多い。よって唯は、あの頃の友人たちに会える時間が、他の仲間たちよりも少なかった。そのことを唯は少し寂しく思っていた。

 でも、みんなとまったく会えないワケじゃない。毎日のように会って、楽しくお茶したり喋ったりしてるし、今年からは、憂やあずにゃんとも毎日会える。寂しがることはない。そう心に云い聞かせ、唯は自分の行くべき講義室へ向かって歩いて行った。



 2



「我々の細胞の中の染色体DNAは、常にミューテーション、即ち突然変異の危機にさらされている。

それはなぜか。まず、ひとつは我々の生きているこの環境は、さまざまな変異原であふれている。紫外線・放射線・タバコの煙・食物に含まれる化学物質なんかだ。また、もうひとつの原因は、我々のDNA複製機構・修復機構はカンペキじゃない点だ。

変異原がない環境においても、細胞分裂一回につき、百万ないし一千万分の1の確率で、エラーが起こると考えられている。つまり、一生のうちに起こる細胞分裂の回数を考えれば、我々の細胞にある染色体DNAは、一生のうちにかなりの数の変異を抱えるうることになる。

その複数の変異がたまたま何か重要な遺伝子に変異を及ぼしたとしよう。するとどうなるか?ある細胞は生存に必須な重要なタンパク質が作られなくなって、死んでしまうかも知れない。ある細胞は、逆に不要な細胞と認識され、免疫機構によって除外されてしまうかも知れない。また別の細胞は、アポトーシス機構が働いて、自ら死の道を選ぶかも知れない。

ところが、その中で逆に自己の生存・分化を過剰に促進されてしまった細胞がいたとしよう。その細胞は、おそらく他の細胞のことなど無視して増え続けるだろう。そして、個々の細胞を押しやって自らの勢力を広げ、自分のテリトリーから飛び出して、他の組織にまでその勢力を伸ばすかも知れない。そうなると、我々の身体の秩序は乱され、最終的には破綻してしまうだろう。

このように、突然変異によって暴走して増え続け、最終的に我々の身体に悪影響を及ぼしてしまう細胞の例が実際に存在する。それががん細胞だ…」


 大きなあくびをひとつして、唯は眠そうな眼をこすった。朝一から頑張って授業に出ると決めたものの、やはり眠いのはどうしようもない。その上、朝からこんなややこしい話を延々聞かされているのだ。どんな睡眠薬よりも効果は絶大だろう。

 唯は生命理学部・基礎生物科学科に所属している。彼女がこの学部を選んだ理由は、理系の中でも生物系は数学・物理系のややこしい学問が必要でないと高校時代の先生から聞いたためであった。

 また、基礎生物科学科を選んだ理由は“基礎”とつくからには、それほど難しいことはやらないだろうという、安直な考えからであった。当然、これらの志望理由は見事に裏切られた。

 生物学とはいえ、理系であるからには計算や数理論的な概念は必ず出てくる。また、生命活動もこの世の理を基盤にして成り立っているものなので、その裏には必ず化学があり、さらに掘り下げると、熱力学というやはり物理の一概念に行きつく。

 さらに、“基礎”と名前がつくのは、決して「基礎的なことしかやらない」という意味ではなく、「基礎を徹底的に固めることで、今後の飛躍をより大きなものにする」というコンセプトからのようであった。

 しかし、数学や物理や化学ではなく、生物でよかったと思える部分がないわけではない。我々の身体に密接に関係した話も多く、馴染みやすい部分が多少はあるのが救いだ。

もっとも、そう考えているのは自分だけではないらしく、女子大において、理学系の学問で活気があるのはここ生命理学部か、後は一部の化学系の分野くらいのものだ。ほかの物理や数学系の学部は閑古鳥が鳴いており、ほとんど潰れかけである。先生たちは、客員教授として他の大学の学生を教えに行って、生計を立てているらしい。

 周りを見渡すと、寝ている学生も何人かいた。じゃあ、私も寝て大丈夫かな?などという考えが頭をもたげる。

(ううん、だめだめ!頑張るって決めたんだもん!)

 フンス!といって唯は、前のめりになって授業に集中しようとした。
 その直後、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。



 3



「さっきの江藤先生、チョーうざくね?」

「うん、ウザい。しかもフケだらけで、不潔そう」

「あいつ、よく私たちのこといやらしい目で見てくるわよね」

「こないださ、あいつに会ったの。そしたら、ニカッて気持ち悪い笑顔してきたの」

「うわー、最低!ほんとイヤだわ。早く死んで欲しいよねー」

「ほんとほんと!キャハハハ」

 このような低レベルな連中の話を聞いていると頭にくる。少なくとも、自分が通っていた桜ケ丘女子高等学校では、こんなことを云っている人間なんて、ひとりもいなかった。お互いがお互いを思いやり、先生も生徒も互いの人間性を信頼し合って、清らかな関係を築いていたと思う。そりゃあ、ケンカや仲たがいもあるにはあった。けれど、相手をむやみに誹謗中傷したことなんか、一度もない。

 大学に入ると、視野が広がったためか、こういう醜いことを云い合う連中が目に付くようになった。もちろん、そんな人物ばかりというワケじゃない。中には、見るからにお嬢様のような、高潔そうな雰囲気を醸し出している人もいた。しかし、このような現実を目の前にして、自分のものの見方もひねくれてしまったようだ。そのお嬢様が実は影で何を云っているか、何をしでかしているか分かったもんじゃない、そう考えるようになっていた。周りの人間は信用できない。ただ、以前から心を許し合ってきたあの仲間たちは例外だが。

 キャンパス内のベンチで本を読んでいたが、低レベルな会話が耳触りで、彼女は立ち上がって、別の場所に行こうと歩き出した。

「澪ちゃん」

 ふと声がした。馴染みのある、安心感のある柔らかな声。

「ムギか」

 声の方を彼女は振り返った。期待した通りの柔らかな顔立ちの仲間がそこにはいた。

「澪ちゃん、次は授業ある?」

「いや、次は3時間目だから」

「よかった。私も今ヒマなの。よかったら、“赤い鳥”にでも行かない?」

 ふたりは、同じ方向に向かって歩き出した。