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バレンタインの過ごし方。【るいは智を呼ぶ、ポッチーズ+惠】

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 デートという単語はあえて流し、微妙に話を濁したところで、丁度良くチャイムが鳴った。宮は軽く会釈して席に戻っていく。
 感じるのは、なんとも――なんとも困った居心地の悪さ。どよっと濁ったため息混じりに窓の外を見る。
 バレンタインデー。あげる人ともらう人、勝者と敗者、男と女、明と暗、明確な2極化を迫られる日。
 ……本音を言えば、バレンタインは好きじゃない。チョコとか相手とか関係なしに、バレンタイン自体が好きじゃない。
 オトコにもオンナにもなりきれない僕にとって、性別を意識させるイベントは、ただそれだけで居場所を奪うから。

 と、思ったんだけど。
 女子校の事情はまた違うらしい。
「んっふっふっふ……今年はなかなか大量よ~? 靴箱開けたらほぉぉら」
 いつも以上に上機嫌な花鶏が鞄から取り出したのは、揃えて数えないと何通かわからないぐらいの大量の封筒だった。それも全部別のデザイン、パステルカラーにフェルトの飾りにラメにキャラクターもの、女の子の夢とトキメキよりどりみどり。
「ひょえぇ~! これ全部花鶏センパイ宛デスか!?」
「そうよ。私の美しさに普段は近寄れない控えめな子猫ちゃんたちも、この日は思い切ってアプローチしてくれるの」
 綺麗な顔立ちをにへらっと崩す花鶏。……多分、こういう顔は学校では見せないんだろうなぁ。
「たまに靴箱に入れようとしてるところを目撃したりして……目が合ったら顔真っ赤になって走り去ったりして……かんわいいったらもう、ぐへへへへ」
 ヨダレ垂れてるヨダレ垂れてる。
「一皮剥けばただのセクハラ畜生だというのに、見た目に騙される愚か者のなんと多い」
 これみよがしに盛大なため息をつく茜子。思わずうんうんと頷く。
「いや、外観は心を映し出す鏡という。これだけ生徒の羨望を集めているというのは、それだけ花鶏の姿が認められているということだろう? 素晴らしいじゃないか」
 フォローなのか気まぐれなのか、惠が花鶏を褒める。
「……才野原に言われても嬉しくないわね」
 ところがどっこい、せっかくフォローを入れてもらったのに、花鶏はけんもほろろ。
 好みの子には優しくても、好みじゃなければ路傍の石に同じ、なかなかドライです。
「褒められるのは嫌いかい?」
「スカートじゃない時点で却下」
「あはは、それは失礼したね」
「ショートパンツに生足のセットなら許してあげないこともないけど」
 ただし抜かりない。
「さりげなくリクエストしない、そこ」
「ふむ……たまにはそういうのもアリかもしれない。どうかな、智」
「僕に振らないでっ!?」
「惠センパイはやっぱりカッコイイ服装の方が似合うと思うデス!」
「トンチキな趣味はトンチキらしく突き抜けて欲しいですね、ロックとかメタルとかパンクとか、白塗りでカツラでお歯黒でギター振り回すとなお良し」
「いや、流石にその方向は」
「ダメよ、そんな服装したら目立ちすぎて補導の対象になっちゃうでしょう? ここだって一応不法侵入なんだし、せめて外見は普通の生徒らしくしてないと。先入観ってすごく厄介で、いったん目を付けられたら弁解するのにすごく時間がかかるし、疑わしきは罰せよの悪癖がはびこってる上に点数稼ぎに使われちゃって大変なんだから、君子危うきに近寄らずで学生らしい格好をしていたほうが身の安全を守る上では」
「30文字でまとめてください、無駄はおっぱいだけで十分です」
「またそうやってはぐらかす……本当に心配してるのに」
「その心配の方向が……伊代らしいけどね」
 言ってることは間違ってはいないんだけど、どうにもズレている。当人がそのズレを認識できないのが困るやら可愛いやら。
「っつーかさ、こんなにラブレターもらっても処理しきれないっしょ? どーすんのコレ」
 話題を戻しつつ、ごもっともなツッコミを入れたのはるい。食欲魔人だけど甘いものは苦手だからか、今日はノリがいまいちのご様子。
 そんなプチ不機嫌っぽいるいの態度を嫉妬と取ったか愚問と取ったか、花鶏はふんぞり返る。
「ふっ、甘いわ皆元。この私が注がれる愛のパワーを受けそこねるようなドジを踏むと思う? これから全員のチョコと共に初めての唇を奪う算段を立てるのよ」
「お、鬼だ、鬼がいる!」
「何言ってるのよ智。あっちが『私を食べて』って言ってるのよ? 据え膳喰わぬは女の恥よ!」
 ……さも当然のような宣言は、もはやどこからツッコめばいいかわからない。
「あひゃ~……そりはちょっとかわいそうかもしれないデス」
「かわいそうっていうか、フェアじゃないと思うわ。手紙出してまで渡すんだからそれ相応の気持ちが込められてるんだろうし、特設コーナーのチョコレートだって安くはないのよ? それを取っ換え引っ換えもらうものだけもらうっていうのは相手に対して不義理だし、彼女たちが後々背負う心理的な負担とか考えるともうちょっと自重してもいいんじゃないかしら」
「抜かりはないわよ。ホワイトデーにはお返しと共に全員等しくいただくから」
「それがダメなんじゃん!」
「まあ、自業自得ですよね。何年後かに『ファーストキスを無駄遣いした!』『なんという黒歴史!』『見た目に騙された私のバカ!』と散々もんどり打って後悔し、逆恨みの果てにカッターナイフで後ろからぷすっと」
「バッドエンドフラグ立てない立てない」
「八方美人は余計なトラブルを呼ぶことに余念が無いですから」
 ちらっと視線を送られる。
「ってなぜそこで僕を見るの!?」
「自分の洗濯板に聞いてください」
「洗濯板言わないの」
「鳴滝もぺったんこですよぅ! おそろいデス!」
「少し分けてあげたいわ、最近肩こりがひどくって」
「るいねーさんも分けたげたいなー、運動するのに邪魔なんだよね」
「……人って分かり合えないものですね」
「イヤミがないイヤミほどイヤミなことはありません」
「僕はどちらにつけばいいのかな」
「この会話に加わること自体に違和感があります」
「……困ったな、実はつい最近下着を買い換えたんだが、その際に測りなおしてもらったら」
「にょわー!? ストップストップ!」
「?」
「どったの智ちん?」
「はい! 世の中には知らないことがいいってこともあると思います!」
「つまりこの男装アルカイックより平たいことを自覚したくないと」
「……あうぅん」
 そういうことじゃないんだけど、そういうことにしておこう。
 不思議そうに首をかしげる惠にアイコンタクト。察してくれたのか、にこっと笑って話を止めてくれた。誤解されたかもしれないけどまあいいや。……惠より小さいのは事実だし。
「そうそう、智もこよりちゃんも伊代も予約を入れるなら今のうちにどうぞ。3人は特別待遇よ」
 話の切れ目を狙い、さらなる獲物を狙う花鶏。
「丁重にお断りいたします」
「結婚までは清い体でいるようにってお母さんにしつけられてますデス」
「私はそんな属性はないから……」
 だがしかし、3人揃ってきっぱりと拒否する。残念ながら、日々危険な目に合いまくりな僕らには花鶏の見た目効果はないのです。
「……あっさり振られてしまったね」
「へっへーん、ざまーみろ」
「コメントする価値もないほどに当然の結果ですね」