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バレンタインの過ごし方。【るいは智を呼ぶ、ポッチーズ+惠】

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「あんたたちは黙ってなさい」
 本音が謎の感想と煽りとツッコミはまとめて一蹴。よくある光景。対象外のみなさまも慣れたもので、苦笑いやらため息やらそれぞれのリアクションを返す。
 いつものたまり場の、本気なようで本気じゃないやりとり。大分体に沁み込んできた会話のリズムが心地いい。
 それにしても……花鶏は本当に学校では人気者なんだなぁ。
 確かに、プラチナブロンドの髪にクォーターならではの整った顔立ち、背も高くスラっとした立ち姿、見た目が九割の世界で花鶏のビジュアルはは絶対的なアドバンテージだ。加えて花鶏が『あこがれのセンパイ』を演じきっているとするなら、あこがれのセンパイになるのは想像に難くない。
 ……ちょっと度を超えてるような気はするんだけど。
「こういうのって、女子校ではよくあることなの?」
「あるある。私ほど大量にもらう子はいないけど、バレンタインに本命チョコが飛び交うのは普通よ。むしろ私はあの光景こそが健全だと思うわ。汚らわしい男どもに高いお金出してチョコを渡すなんて言語道断金の無駄美の冒涜でしょ?」
「……いやまあ、好みは人それぞれだし」
 同意しかねて口を濁す。と、るいがつっかかり始める。
「つーか、花鶏に騙される子はぶっちゃけ可哀想だよ。別に誰が誰にあげてもいいけどさ、花鶏はない」
「何よ皆元、もらえないからってひがんでんの?」
「別に。私、チョコ嫌いだし」
「……そういう問題じゃないと思うんだ」
「可愛い子羊ちゃんたちは私にときめくことで至上のバレンタインを過ごせるのよ? まあ、食い意地しかないあんたにはわかんないでしょうけど」
「よく言うよ、お花畑の癖に」
「……ちょっとそれは聞き捨てならないわね、私のどこがお花畑なのよ」
「ラブレターもらって鼻の下伸ばしてる辺り。すっごいだらしないもんその顔」
「だらしないとはなによだらしないとは! この私の美貌にケチつける気!?」
「花鶏の中身じゃ見た目がどんなでもダメっしょ」
「なんですってー!?」
「やるかー!?」
 ……今日も懲りずに揉めました。
「……今回はるいセンパイの言う事にほんのちょっとだけ賛成デス」
「本人にまったくもって悪気がないっていうのが困るのよね、少しは罪悪感を持てばいいのに」
「花鶏らしいじゃないか。彼女なら何十人でも愛せるんじゃないかな」
「一夫多妻というかハーレムというか」
「ネタとしてはアリですが、現実にはしょっぴかれるか刺されて終了ですね」
 花鶏とるいの風物詩を眺めつつ、のほほんと缶ジュースを飲む。2人はしょっちゅうケンカするし本気で取っ組み合ってるんだけど、憎み合ってるわけじゃない。喧嘩するほど仲がいいの体現みたいだ。そんな風にぶつかれる相手をお互い持たなかったんだろうと考えると、それはそれでいいことなのかな、と思ったりもする。
「バレンタイン、かぁ……」
 と、空を見上げたこよりがぽつんとつぶやく。物思いにふけってるような、何かにこがれるような、いつもと違う表情だ。
「……ひょっとして、こよりんは誰か相手がいるの?」
「いえ、いないデス」
 無理に笑ってるのが分かる苦笑いで、ちょっと膝を丸める。照れ隠し、というわけではなさそう。
 ……なんだろう?
「そういうんじゃなくて……その」
 茜子や伊代、惠も不思議そうな顔をする。
「どうしたの? あなたがそんな顔するなんて珍しい」
「あれですか、恋せざるもの存在するべからず的な恋愛脳のイジメとか」
「そんなものがあるのかい?」
「この時期は透けて見えます。いないものを捏造させてでも話のネタにして、挙句うっかり自分とかぶった相手が出てこようものなら全力で蹴落とすとか」
「陰湿だ……」
「ああいうノリ、私も苦手だわ。恋愛なんて個人個人の自由なのにそれを共通項にしようっていう考え方ってフェアじゃないと思う。第一興味の方向性だって十人いれば十人異なるんだしそれを統一させようっていう空気を作ること自体が」
「いえいえ、そういうのでもないんデスよー」
 みんなに見つめられて罰が悪くなったのか、えへへ、とまた無理な笑顔を作る。
「鳴滝が恋してるとかしてないとかじゃないんです。うちのクラスは比較的そういうのに疎い子が多いので」
「そうなの? じゃあ一体何?」
「……そりは」
 明らかにしょげてしまう。
 小さな背中に胸が締め付けられる。思わずしゃがみ込んで、こよりに視線を合わせる。
「とりあえず、話せることなら話してみて。無理にとは言わないけど……みんなも力になれるかもしれないし」
 小さな間と、細いため息。
「……あの、ですね」
 くしゃっと表情を変え、一呼吸置いてこよりが続ける。
「今年のバレンタインって、女の子で集まってチョコを作るのが流行ってるんです。デコチョコとかいうらしいんですけど……クラス中でそれが盛り上がってて、女の子みんな楽しそうにしてて……鳴滝も、誘われるには誘われたんですけど……誘ってくれた子の家、行ったことがなくて」
「あー……」
 そういうことか。
 こよりぐらいの学年の子なら、男の子にチョコを贈るよりみんなで作って騒ぐほうが楽しい時期かもしれない。ブームになってるならなおさらだ。
 ただ、こよりは――
「……」
 彼女が飲み込んだ言葉を、みんなが理解する。
 ――混ざれなかったんだ。
 こよりだって、断りたくて断ったわけじゃない。参加できるものなら参加したかったはず。
 けれど、彼女にはそれができなかった。
 ――呪い。
『通ったことのない扉を開けてはならない』、それがこよりの呪いだ。言い換えれば、行ったことのない家は彼女にとって処刑場も同然。そんな危険な場所、避けざるを得ない。
 しかし、こよりにとっては致し方ない選択は、代償として彼女を孤立させた。
 クラス中が一種のお祭りになっている中、ひとりだけそれに参加できない。楽しみたいのに、楽しめない、楽しむ権利を奪われている。それも、自分のせいではなく、抗いようのない呪いのせいで。
 ……その疎外感は、幼いこよりの心をどれほどえぐることだろう。
「よくあることデスから……センパイたちが気にすることじゃないんです。ただ、やっぱ……その」
 寂しいのだと、言葉にせずにこよりは訴える。
「こよりん……」
 いつの間にか喧嘩を終えていたるいがしょぼんと眉を下げる。仲間の落ち込みには人一倍敏感、力技が使えるなら使ってでも助けようとするのが彼女だ。ただ、今回は事情が事情なだけに、どう手を施したらいいのか。
 ここに集えばみんながいる。けれど僕たちは学年も学校もバラバラで、基本的に離れ離れだ。その離れている間に受ける痛みは、どうしたって避けようがない。
 僕のように一種冷めて諦めていればまだいい。だけど、こよりはそんな風には割り切れないだろう。ましてクラス中が一定方向に盛り上がっているのなら、なおのこと影響を受ける。それは決して悪いことじゃない、自然なことだ。だからこそ、こよりは悲しむ、苦しむ。たった2週間といっても、辛いと思えば思うほど体感時間は伸びる。仕方ないといい聞かせたって、きしむ心の痛みは和らぐことはない。