二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

バレンタインの過ごし方。【るいは智を呼ぶ、ポッチーズ+惠】

INDEX|4ページ/7ページ|

次のページ前のページ
 

 なんとかしてあげられないものか――アイデアを求めて視線を回す。みんな一様に渋い顔。
 今回は相手が悪いわけじゃないから、乗り込んだりするわけにもいかない。かといって気を使ってこよりんの学校に遊びに行ったりすれば、余計浮いてしまうだろう。
 僕らに出来ること――
「……ところで、こより。その『デコチョコ』というのは、どうやって作るものなのかな?」
「え? あ、んとと」
 思いつきなのか純粋な興味なのか、惠が問いかける。こよりは目を閉じて顎の下に指を置くいつものスタイルで記憶を辿る。
「鳴滝もよく知らないんデスが、チョコを溶かして可愛いケースに流しこんだりクッキーにつけたりして、そんでラムネとか星型のお砂糖とかをトッピングするみたいです」
「そういえば、スーパーのバレンタインコーナーに製菓材料が色々あったような」
「近所の店の特設、今年は飾り物が多い気がしてたけど……ブームなのね」
「そーなのデスよ。手作り生チョコとかケーキみたいなのも人気デスけど、今年は飾りがメインだとか」
「はー、なるほど」
 手作りチョコ……なんとも乙女なかほりのする言葉だけど、その意味するところも時期によって変わるらしい。思い返せば、昼間の料理研究会の子たちも盛り上がりつつ愚痴もこぼしていた。初心者向けの手作りキットが流行ってて、部員がそっちに気を取られるから本格的なお菓子が作れないとかなんとか――
 ……初心者向け?
 ぴこん、とひらめく。
「ねえ、こよりんが誘われたって子は料理が得意なの?」
「いえ、そんなことはないデス。調理実習見てる分には普通でした。ただ、おうちが広いらしくて、みんなを呼んで作るにはちょうどいいとか」
 返答に確信と計画を結びつける。
 初心者でもOK、必要なものは広い会場のみ。
「……それなら、できるんじゃない?」
「ほえ?」
「だから、デコチョコ。本格的なのは難しくても、溶かして流して飾るぐらいなら僕たちにもできそうかなって。どうかな?」
 簡単な話だ。参加できないのなら、参加できるイベントを作ればいい。事情を知らないところに行けないのなら、事情を知ってるところに行けばいい。クラスメイトがダメならば、僕たちがやればいい。
「そうね。お菓子って難しい印象があるけど、そのぐらいなら無理なくできそう」
「チョコはあんまり好きじゃないけど、作るのは面白そうかも」
「私もこよりちゃんのエプロン姿を堪能したいわ」
「場所なら用意できるんじゃないかな。こういうことなら、浜江も佐知子も断らないだろう」
「茜子さんのスペクトラルチョコレートを披露する日が来たようですね」
「……え……い、いいんですか……?」
 みんなの快い返事にビックリするこより。もちろん、僕たちに断る理由はない。
「だってほら、みんなヒマだし」
「パーっと盛り上がったほうがいいよ!」
「カロリーが気になるから作ったことはなかったんだけど、いい機会じゃないかしら」
「ガギノドンたちを連れていけないことだけは残念ですけど」
「時にはこういう楽しみ方もあっていい、そうは思わないかい?」
「こよりちゃんの頼みとあれば、ラブレタースケジュールぐらいいくらでも調整するわよ」
「あ……ありがとうございます、センパイたち! 鳴滝、この恩は忘れません!」
「そんな大げさに考えなくていいよ、僕たちもやってみたかったんだし」
「そーそー!」
「お礼はこよりちゃんの裸エプロンで」
「それは却下」
「世間様の商売根性に乗ってみるのもたまにはいいんじゃないですか」
「確か、今朝の新聞にお菓子材料の特売チラシが入ってたのよね。あれ探してこなきゃ」
「道具も必要かな。手持ちがどのぐらいあるか聞いておこう」
「えとですね、そのへんのことは鳴滝ちらっと聞いたんですが――」
 みんなすっかりノリ気だ。こよりも笑顔で話題に加わり、あれこれと計画を練り始める。
 ほっと胸を撫で下ろしつつ、自分でまいた種の違和感に想いを巡らせる。無意識の内に作り上げていた先入観が崩れる、ちょっと心地いい気恥ずかしさ。
 バレンタインを仕掛け人として楽しむ――ありそうでなかった発想。

 そんなわけで、2月13日。
 授業が終わるなり、飛び出すようにして学校を出た。優等生お嬢様の雰囲気は崩さず、でも不自然じゃない程度に急ぎ足をする。待ち合わせの時間までには余裕があるけど、のんびりしてもいられない。
 目指すは、学校と惠の屋敷の間にある大型スーパー。今回、チョコ作りの材料は各自が持ち寄ることになったから、その買出しだ。 みんなで集まって作ることが目的だから、材料や作るものに制限はない。つまりはフリーダムだ。一体何が飛び出すのか……気分は闇鍋。食べ物を粗末にする結果は招かないと信じたいところ。まあ、バレンタイン関係なんだから、みんな空気を読んでチョコ関係にしてくるだろう。……してくるよね?もちろん僕は普通にチョコを作ります。
 必要なのが分かっていたなら先に買っておけば、と言うなかれ。僕のカバンは常に宮和のチェック対象、普段とちょっとでも違うものが入っていれば即座に気づかれる。バレたときの弁明と宮の反応なんて想像するだに胃が痛い。
 ……どうか、明日しれっと『和久津様、チョコレートの残り香が』とか言い出しませんように。
 そんな一抹の不安は脇において、スーパーの中へ。中途半端な時間ということもあってか、比較的人が少ない。ほっと一息、でも緊張で手に汗をかきそう。
 ……その、やっぱり、わかってはいても、バレンタインのチョコを買うというのは恥ずかしい。目的はあくまでみんなでクッキングで、プレゼントするもしないもないんだけど、そのコーナーに踏み入るだけでプライドがちくちくする。うう、意外に根深いアイデンティティの問題。
 とにかく、早く買い物を済ませて屋敷に行こう、そうしよう。
「えーと……」
 チョコ売り場は――と探そうとした瞬間にそれは現れた。というか、目の前。野菜も果物も特売品も押しのけて、一等地を独占状態だ。
「……うわーお」
 その異様で強烈な光景に、思わず声が漏れる。
 見渡す限りのピンクとハートのディスプレイ。目がチカチカするようなラメの飾り。ショーケースには女の子が好きそうな箱に入ったチョコが並べられ、『一番人気』とか『本命ならコレ』とか『お父さんに』とか用途が書かれたポップがついている。脇のラジカセからは甘ったるいラブソングがエンドレスリピート。凝った柄がプリントされ、さらに鮮やかな色の袋に入れられたチョコたちは震度3でも耐えられなさそうなほどに積み上げられ、威圧感を醸し出している。もはや大和撫子が仄かな恋心をチョコに託してとかそういう次元じゃない。これは戦争だ、男と女と企業と愛と競争と財布事情の仁義無き戦いなのだと、売り場の雰囲気が語っている。……何と戦ってるのかよくわかんないんだけど。