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バレンタインの過ごし方。【るいは智を呼ぶ、ポッチーズ+惠】

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 そんな既製品チョココーナーの隣に、これまたどーんと手作りコーナーが陣取っている。こっちは単価が低いからか、ギラギラした雰囲気は控えめだ。ただ、その分チョコ以外にもいろんなものが並んでいる。タルト皿にチョコケーキ材料セット、おそらくは溶かしたチョコを付けるんだろうハート型のクッキーやマシュマロ、飾り用のチョコスプレーにハートや人形を模した飾り用お菓子、ドライフルーツ、さらには調理器具からラッピング用袋まで、よく言えば手厚く、悪く言えばあらゆるついで買いを誘発するようなラインナップ。店側が徹底的に勝負をかけてきているのがわかる。
 ……まあ、今回について言えば、あちこち回らないで済むのは助かる。明らかに罠にはまってる感ありありだけど、まあそれも一興。多分。
 などと考えつつカゴにチョコを入れようとして――
「とーもセーンパイっ!」
「ふにょぇ!?」
 元気よく呼びかけられて、思わず10センチぐらい飛び上がる。えへへー、と隣に並んできたのはこよりだ。
「センパイもここで買い物ですか?」
「うん。こよりも?」
「はい! ここなら鳴滝も安心してお買い物できますから! 智センパイもいるならもう百人力です!」
 ……ああ、なるほど。
 同盟メンバー各々、ここのスーパーにはなんだかんだでお世話になっている。そういう意味で、ここはこよりにとって安全な場所というわけだ。
「お金は各自負担だよ?」
「もっちろん、承知であります! ちゃーんと貯金箱開けてきました!」
 くまの形のがま口を出してにっこり。相当小銭が入っているのか、面長状態になっている。
「よし、じゃあ2人で手分けして買おうか」
「ですね! 同じものばっかりじゃつまんないですもんね」
 というわけで、急遽タッグを組むことに。僕は主にチョコレート、こよりはトッピングを選ぶ。一口にチョコレートといっても、その種類は多岐に渡る。ビターやミルク、ホワイトは当然として、スーパーではおそらくこの時期にしか入荷されないだろうクーベルチュールにカカオマス、いちごにベリーに塩キャラメル味、その他もろもろ。色も形も味も値段もありすぎるほどあって、これはこれでクラクラする。
 とりあえず、混ぜても危険にならなさそうなものをチョイス。お菓子づくりは僕も門外漢だし、ノリでとんでもないことが起こりかねないのがあのメンバーの怖いところ。それも含めて楽しみではあるんだけど、自分から塩素と酸素を用意する必要はないだろう。
 こよりのカゴを覗き見ると、ハート型のグミやらパステルカラーのチョコスプレーやらがいっぱい。流石は女の子。と、その中にさっきの気合が暴走気味の既製品コーナーの箱が混ざっているのに気づく。
「あれ、こよりん既製品も買うの?」
「あ、はい。今日の分とは別に、お父さんやお母さんやお姉ちゃんの分も用意するので」
 なんと清く正しいバレンタインの在り方。普通なのかもしれないけど、僕の周りは「普通」が通用しない子だらけだから、こよりの買い物が逆に新鮮に思える。
「今日作ったのを渡すっていうのも考えたんデスけど、やっぱり家族には家族で買おうかなって。今日作るのはみんなでたべちゃいましょう!」
「なるほど」
 特別を選ぶ相手は、何も恋する誰かさんである必要はない。きっと、友チョコやらなにやらが流行りだす前から、こよりは家族にチョコを贈っていたのだろう。
 ……そういうのって、いいな。家族もいない、広義の意味ですらあげる相手の存在しない僕には、こよりの笑顔がなんだか眩しい。
 お会計をさっと済ませて本日の会場へ。真冬だというのに、日差しがほんのり暖かい。見上げてみると、穏やかな色合いの空に白熱灯の気配を宿した太陽がひとつ。
 珍しくもない風景が妙に感慨深いのは、新しい選択への高揚感のせいかもしれない。

「こんにちはー」
「トモちんおっそーい! あ、こよりんも一緒だ!」
「ごめん、買出し行ってて……他のみんなは?」
「花鶏とイヨ子はもう来てる。アカネだけまだ」
「集合時間にはまだ間がある。彼女も買出しに行っているのかもしれないね」
「そっかー……って……わぉ」
「どったの?」
「……いや、当然なんだけど意外な光景、というか」
 るいと惠、腹ペコ魔人と王子様にエプロン。出迎えてくれた2人のエプロン姿に違和感が全力で物申す。シンプルな生成のエプロンだし、似合ってないわけじゃないんだけど、普段とのギャップが激しすぎて未知の生物を見てる気分だ。しかも2人とも制服の上にエプロンだから、なおのことヘンテコな印象を受ける。
「あーら智にこよりちゃん、いらっしゃーい」
 ちょっと遅れて台所から出てきたのは花鶏。こちらもエプロン姿。ただし自宅から持ってきたらしく、2人のとは明らかに違う、凝ったデザインだ。お嬢様の雰囲気を壊さず、でも家庭的なニュアンスを醸しだす格好。たとえエプロン一枚でもこだわる辺りが花鶏らしい。
「ささ、2人ともこっちへ! まずは裸エプロンに着替えてね」
「全力でお断りします!」
 でもやっぱり、何を着ても花鶏は花鶏だった。
「まあそう言わずに、シンプルなデザインだからこそ肌色が映えるしぷりぷりのおしりやぺったんこな胸のラインが引き立っぐへ」
「この変態め」
 るいの一撃でべしょりと倒れ伏す。……申し訳ないけどちょっとこのままにしておこう。
 そろそろと花鶏を避けて食堂へ行くと、テーブルは既に準備万端、というか作業が始まっていた。一面に新聞紙が敷かれ、その上に人数分のまな板と包丁が置かれている。その一角でチョコに向き合っているのは伊代だ。体重をかけるようにしてせっせと削っている。
「あー……あなたたち、けっこう重労働よ、これ」
 僕たちに気づき、振り返る。もちろんエプロン姿。……気持ちがいいほどに違和感がない。ただ、表情はちょっとお疲れ気味。
「お得と思って選んだんだけど……やっぱり安いには安いなりの理由があるのね」
 伊代が格闘してるのは厚さが3センチぐらいありそうなチョコの塊だ。板チョコというよりブロック。確かにこれを細かくするのは大変そう。
「じゃあ、伊代はちょっと休憩しててよ。僕たちが代わりにやるから」
「あら、そう? じゃあお願いしてもいい?」
「もっちろんデスよー! 鳴滝は来たばっかりですから力あり余ってます」
「ついでに、どんな風に組み合わせるかとか考えといてくれると助かるかな」
 ぱちっと目配せ。
 今日のイベント内容とメンバーを考えるに、伊代はとっても重要なポジションだ。料理とお菓子は勝手が違うとはいえ、料理に慣れている人をどう活用するかで結果は大幅に変わる。花鶏もそれなりに作れるみたいだけど、彼女は味覚が若干ズレてるというか信用ならない部分があったりするし、何よりお菓子づくりじゃないことに気を取られまくる予感がする。真面目に取り組んでくれて安心出来る実力者といったら伊代くらいのもの。不慮の事態はいつでも起こり得る、切り札はとっておいたほうがいいだろう。
「というわけで、地味な下準備はみんなでぱぱっと終わらせちゃいましょう」
「はいはーいっ!」
「では、僕たちも再開するとしようか」
「みんなでやったほうが楽しいもんね」