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バレンタインの過ごし方。【るいは智を呼ぶ、ポッチーズ+惠】

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 人数が増えて気合が入ったのか、るいと惠もやる気を見せる。スーパーの袋から買ってきたチョコを出して並べて、スタンバイ完了。こよりもトッピングを出して並べる。
「せっかくだから、刻んだ数とか量とかカウントしてみる? ゲーム感覚だと早く終わるかも」
「そうだね。たとえ単純な作業であっても、競争を活用すれば効率は大幅に上がる」
「おおっ、そういうことなら鳴滝も負けませんデスよぅ!」
「るい姉さんの実力を見せてやる!」
「よーし、それじゃあ各自刻んだのをボウルにいれて、重さで比べよう」
「はいはーい、センパイセンパイ! 罰ゲームとかどうでしょうか!」
「あ、いいかも。じゃあ一番量が少なかった子は罰ゲームね」
 ペナルティは勝負の華。追われる恐怖がノルアドレナリンを分泌させる。
「それじゃあ――よーい、スタート!」
 掛け声ひとつ。四人が一気に真顔でチョコレートを刻み始める。それはもう、それはもう真面目に。
 食堂にリズミカルに響く音。
 力技で押し切るるい、どこぞのショコラティエの動きをコピーしてきたらしいこより、もともと器用なのか刃物の扱いに慣れてる感のある惠、そして僕……るいが一歩出てる感はあるけど、後の三人はほぼ互角の様相。
 これは気を抜いたら負けそうだ。
 勝負は拮抗すればするほど盛り上がる。ビリは罰ゲームともなればいやでも集中力が増す。
 無言でひたすらチョコレートを刻み続ける四人。火花が散ってる予感。
 ただ――
「……すっごいシュールな光景よね、これ」
「ネタとしても脅し材料としても使えるわね、撮影撮影」
「後から来て正解でした。こんなげーむにまじになっちゃってどうするの的な意味で」
「ひゃああぁぁ! 花鶏やめて撮らないでえぇ!」
「イヤなら手を止めてこっちに来なさい」
「らめなのぉ! 手を止めたら罰ゲームになるのぉ!」
「おにょれ花鶏、覚えてろ……!」
「ふぇえ、これ全部撮られてるデスか!?」
「……まあ、何事も経験、なのかな」
 真面目であればあるほど、傍から見れば滑稽な姿。
 結局、勝敗以前の問題で、四人揃って黒歴史映像を撮られる羽目になりました。
 ……ゲームをするときは、全員参加を義務付けましょう。

 紆余曲折を経つつ刻まれたチョコレートを湯煎で溶かすと、甘い香りが食堂中に広がった。温度を調整しながら溶かしていくと、潤んだようなツヤが出る。ホワイトの中にビターを少したらせば、綺麗なマーブル模様の出来上がり。それをさっとクッキーにつけて、ケーキクーラーの上へ。僕は特にトッピングに気を使おうという気はないからその程度だけど、こよりや花鶏は飾り付けにも余念が無い。
「んとー……ここにはお花のお砂糖置いて、チョコスプレーかけて」
「あらこよりちゃん、ほっぺたにチョコが付いてるわよ?」
「え」
「取ってあげるわ。んー」
「ひょわぁ!? 花鶏センパイ、取るなら手で取ってくださいぃ」
「あーら、じゃあ手で頂いちゃってもいいのかしら」
「そういう意味じゃないデスうぅ」
 ……花鶏は別の意味で余念が無い。
「こらそこ! 料理中に余計なことするんじゃないの! 食べ物を粗末にしたらバチが当たるわ!」
「いいじゃない、ちょっとぐらい」
「よくないわ! いい、料理は一見安全そうに見えるけど刃物を使うし火も使うし、実際はすごく危険な作業なのよ。怪我や火傷してからじゃ遅いんだから、常に手先に神経を集中させて、間違いがないように丁寧に作業することが何よりも肝心なの。それに、せっかくの食材をぞんざいに扱ったらお百姓さんに申し訳ないでしょ」
「お百姓さんと来ましたか」
「素材の作り手に想いを馳せるというのはひとつのロマンかもしれないね」
「笑顔でカカオ豆を収穫してる写真を想像してみましょう、みたいな」
「実際はフェアトレードが画期的な提案扱いされる程度に略奪まがいの搾取をされてますけどね」
「そういうのはまた別の機会に。切なくなる」
「現実なんて、大抵は本当は怖いグリム童話ですよ」
「バレンタインそのものが甘い夢だろう? だったら無理に醒ます必要もないんじゃないかな」
「その甘い夢すら、選ばれし針先の人間にしか与えられないんですけどね」
「徹底的に不公平」
「さあこよりちゃん、チョコレートをその身体にっ!」
「いやぁぁぁ! るいセンパイおたすけくださいー!」
「やめんかこの変態がー!」
 チョコ作りでも、いつもの賑やかさは変わらない。変わるものがあるとすれば、チョコレートがテーブルに増えていくことぐらいか。だけど、それがなんだか嬉しい。あげる相手など想定していないけれど、出来上がっていくチョコレートは妙に可愛らしくて、密やかな幸せの固まりに見える。
 七人がそれぞれ、同じ素材で別のものを作る。出来上がりはバラバラとも言えるし、全部チョコレートだとも言える。
「ねーねートモちん、ちくわとチョコって合うかなぁ」
「やめたほうがいいと思う」
「……やっぱそうかぁ」
「るい、まさかちくわ持ってきてるの!?」
「ん。いや、甘いのはあんまり好きじゃないけど、ちくマヨと絡めたらいけるかなーって」
「料理ができない子の思考回路恐ろしい」
「柿の種チョコとかあるじゃん? ああいうノリで」
「どこから突っ込めばいいでしょうか先生」
「むしろ放置して食べたときの顔を激写したいですね」
「そういうアカネは何持ってきたの?」
「わさびと辛子とコンソメキューブです」
「何そのイロモノ通り超えてイジメなシロモノ!?」
「忘れた頃にちびうさちゃん経由で色情教主に差し入れしてやろうかと。ロシアンルーレットにするのもアリですが」
「気が抜けない……」
「猫はチョコ食べられないですからね。茜子さん的にはその時点で価値がマイナス100ポイントです」
「基準が人間ですらない」
「……まあ、作るのは楽しいですよ。後始末に困りそうですけど」
「だったら普通に作ればみんな食べてくれるのに」
「そういう直球は茜子さんのプライドが許しません」
「困ったこだわり」
 でも楽しいですよ、と茜子はもう一度繰り返す。イロモノ食材の他に用意してきたらしいドライフルーツにチョコをつけて、ぽんぽんと並べていく。
 彼女があえて遅れてきたのは、みんなに気を遣わせないためだったんだろう。作業開始時はどうしてもバタバタする、彼女の呪いを考えれば、その時間はいないほうが双方にとって安心できる。誰も茜子の遅刻を咎めなかったのは、それをなんとなく感じ取っていたからなんだろう。単にそこまで気が回ってなかったという説もあるけど……ここは暗黙の了解という優しさに一票。