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バースデイ

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臨也のことを想いながら、九瑠璃は如何しても我慢出来なくて引っ切り無しに頬を手指で拭う、先程触れられた処が気になって気になって仕方ないのだ。皮膚の内側の、細胞という細胞がうぞうぞと蠢くような感覚、其れはもう細胞レベルの拒絶反応というようなもので、九瑠璃は堪らない不快感と不安を覚えていた。
其処に触れたのは実の兄であるのに、其処から彼が持つ、残虐さや非情さ、邪悪さといった唾棄すべき負の要素が入り込んで来て、まるで病が身体を侵すように蝕んで、自分の中身が喰い荒らされてしまうような気がしてならない。
厭だ、厭だ、私はちがう、絶対にっ。
そう胸の中で叫んでいる自分を、九瑠璃は俯瞰的に感じ取っていた。
「ねぇ、クル姉聞いてる?」
不意に不満気な声が耳を掠めていき、九瑠璃は目線を上げると、隣に向き直る。
――いない。
舞流の声は確かにしたはずであるのに、当の本人が隣にはいなかった。何故かしらん、と九瑠璃は首を傾げてみたが、傾げたところで何も変わらない。ただ、遠くで電車の走る音がしているのや、小鳥が囀っているのが聞こえるだけ。足を止めて、九瑠璃は考える。
……私は何をしていたんだっけ?
段々と此処は一体何処で、私は何者なんだろうかという気すらしてきて、終いには、生きているのか死んでいるのかよく分からなくなり、生きているのと死んでいるのは何がどのように違うのかしらん、と考え始めてしまう。すると、後ろからまた舞流の声が聞こえた。
「こっちだよっ」
そう云われて振り返れば、果たして舞流はいた、肩を怒らせて仁王立ちしている。如何したのかと聞けば、舞流はきっと九瑠璃を睨みつけてきた。
「如何したのじゃないよっ、さっきから私ずっとクル姉のこと呼んでるのに。いっつもそうだ、クル姉は私の話を全然聞いてくれないっ」
「ごめんなさい、考え事をしていたの」そう伝えても、舞流は聞く耳を持ってはくれない。
「云い訳なんか聞きたくないっ。如何せ、また変なことを云いだしたって決めつけているんでしょう?」
クル姉は私のことなんか如何でもいいんだっ、舞流はそう喚くと九瑠璃の肩にぶつかりながら横を駆け抜けて行く。「待ってっ」と云ったけれど、九瑠璃の細く薄っすらとした色味の声では届かず、妹の背中が小くなって見えなくなるのを黙って見つめるしかなかった。
決めつけているのは、何時も舞流じゃない……。
姿が見えなくなって暫くしてから、九瑠璃は歩きだす、もう舞流は家についているだろうと思い、はて此れから自分は如何したものかと考える。家にはまだ帰りたくない、何とはなしにそう思う。仕方なく、家を通り過ぎた少し先の公園に行こうという気になる、歩きながら舞流のことを考える。
活発で口が達者で社交的、変わってはいるが、非社交的で口数の少ない自分にとっては頼もしい存在。けれど、困ったこともある。
舞流はよく、九瑠璃の代弁をする。物を云わない九瑠璃にとって、大方の場合、其れは非常にありがたいことだった。くだらない連中に、レベルの低いことをいちいち口にしてやる必要がない、其れはとても楽なこと。けれど稀に、舞流の代弁によって九瑠璃が不利益を被ることがあるのだった。
如何にも舞流は、自分が考えていることは九瑠璃も同じように考えている、と思っているようで、事あるごとに「クル姉だってそう思うよね?」「クル姉もそう云うに決まってる」などと口にする。
確かに同じように物事を感じることの方が多い、けれど全く思ってもいないにもかかわらず、舞流が代弁をしたりすると、あらぬ誤解を招いてしまう。其の所為で、九瑠璃の預かり知らぬ処で、九瑠璃自身が反感を買っており、嫌味を云われたり、嫌がらせをされたことが一度や二度ではなかった。
一卵性双生児、同じ顔、同じ遺伝子、どちらがオリジナルでどちらがコピーなのか。其れは絶対に分からないことであるが、一つ分かることがある。其れは、二人が全くの別個体である、ということ。其れを分かっているはずであるのに、舞流は何時も自分と思考を同じにしたがる、年々其の傾向は強くなってきていた。九瑠璃はベンチに腰掛けてぼんやりと思う。
此れは一体全体如何したことか、まるでコンピュータの同期のようだ。
此れではどちらがオリジナルでどちらがコピーなのか、何時か本当に分からなくなってしまいそうで、急に怖くなる、皮膚が鳥肌めく。九瑠璃は一人、寒くもないのにぶるりと身を震わせ、慌てて自分の身体を掻き抱く。怖い、酷く怖い、けれど恐怖心よりも、妹への同情が勝った。
……あなた不安なんでしょう、私が「一抜けた」って云うじゃないかって。
舞流の気持ちは分からなくもなかった。何時の日だったか二人で目指すことにした「人間」、其れに若干の窮屈さを自分が感じ始めていること、時々冷めた目で眺めてしまうこと、何時も一緒にいるのだから、舞流がそんなことを全く感じ取らないわけはない。そして、臨也に対して抱く感情を、少なからず舞流にも抱く時があるのを、舞流は知っているに違いなかった。
だから、九瑠璃を同期したがる。嫌われるのが怖くて、独りにされるのが怖くて、不安で仕方がなくて、だからあんなことを云ったりやったりするのだろう。そう思えば、舞流の「同期」思考は分からなくもない、納得はいかないが――
ふぅ、と溜息を吐くと、九瑠璃はベンチから立ち上がり、鞄を持つ。
自分が分かってあげなければ、誰が分かってあげられるのだろう。私だってそう、あの子がいなければきっと駄目。今までそうやって来たんだもの、……私たち。
片割れのことを思いながら、九瑠璃は家へと足を向ける、少し先の角を曲がれば家はすぐ。
舞流はぐちぐちと引きずるタイプではないから、今頃は何時もみたいに明るくて、玄関を開けて「ただいま」と云えば、「クル姉何処行ってたの? 遅いよぉー」となどと云って抱きついてくるのだろう。そうして自分は昨日買った、とっておきのアイスクリームを出してきて、半分こをするだろう。そうして、「ごめんね」と云えば「ごめんね」と云われ、仲直りは完了するだろう。
そんなことを思い、九瑠璃は口元に小さく、諦めたような笑みを萌すと、少し駆け足に角を曲った。




……痛い。
夕暮れの路地裏にて。髪の毛を引っ張られて、九瑠璃は無言で痛みを訴える。表面上は眉根を僅かに顰めただけであり、声も出さないものだから、九瑠璃の髪の毛を掴んでいる同じ学年の女子生徒達は面白くなかった。
何人かいる、其の内の一人は「まただんまりかよ、いい加減何か云えよっ」とおよそ大和撫子とは縁遠いような言葉と語調で云うと、九瑠璃の髪を引っ掴んだ儘、其の腕をぶんと振る。反動で九瑠璃はよろけ、近くの壁に肩からぶつかった、ぶちりと音がして、髪の毛が幾本か抜けたのが分かる、相手の女子生徒も手に残った髪の毛を見て、「気色悪ぅー」と云ってニヤリと嗤い、他の女子生徒達もけらけらと嗤った。
「あんたの妹、如何にかなんないの?」
「あいつの所為でこないだ酷い目にあったんだから」
「お前、姉貴だろ? 責任取れよ」
作品名:バースデイ 作家名:Callas_ma