こらぼでほすと 留守番9
虎が居間に戻ったら、そこには、スタッフが、ほぼ集合している状態だった。バイトは昼間は本業があるから顔を出していないが、それ以外の顔は、ほぼ揃っている。祭り騒ぎ大好きの鷹は、ラボのほうを担当していて、これに参加できないと残念がっていた。
「大袈裟な。」
「まあ、そう言わないでくれ。緊急連絡だったから、気になったんだよ、三蔵さん。」
大騒ぎになったのは、アスランが、緊急連絡を連絡網で配信してしまった所為だ。変態が、親猫を拉致しようとした、なんて内容だと、誰だって慌てる。
「ショックを受けたみたいだから、しばらく安定剤を投与します。その間は、ちょっとぼおっとしていると思うから、こき使わないでください。それから、身体のほうは、あまり問題はないと思いますので、大事にしすぎないこと。」
ドクターのほうからの注意事項は、そんなとこだ。急激な動作で、貧血を起こしただけだから、そちらは、深刻なことではないとのことだ。説明だけして、ドクターは帰る。送るのは、ダコスタの役目だ。
「本気で、ウイルスぐらいは飲ませたほうがいいと提案はしておくよ。」
「洒落にならないよ、ドクター。」
ドクターの最後の言葉に、ハイネがツッコむ。お疲れ様でした、と、八戒が挨拶して送り出す。一通り、三蔵たちが出張るまでの経緯を、虎とアスランで話す。その横で、親猫から許可を貰った、と、キラが、お弁当を開いて、うーん、と、首を捻る。なんか、大雑把である。
「あ、俺のが完成版だ。それは、ママニャンのだから、適当になってんだろ。」
ほら、こっちだ、と、ハイネが自分用のものを開けると、キラにすかさず強奪された。入ってるのは、同じなんだけどな、と、言いつつ、ハイネと三蔵も弁当を口にする。バタバタしていて、食べる暇がなかったのだ。他のものは、お茶を飲みながら、この事態の報告会となっている。
「ママは、ここがいいそうだ。三蔵さん、あれ、頼めるか? 」
「ボケてるだけなら構わねぇーが、表のゴミは捨ててくれ。」
「けど、捨てたところで、また来襲なんてことになったら、ほんとヤバイぞ。」
「だから、ハイネ。俺が、二度と来ないようにすると言ってるだろ? 」
「アスラン、本気すぎて危ないよ、おまえ。要するに諦めさせるとか、ママ以外の標的があればいいんじゃないのか? 」
「それは、何だ? 悟浄。」
「それがわかったら、俺は、もうちょっと楽な人生が送れている気がするな。」
「どこか遠いところへ捨ててはいかがです? 例えば、南米大陸とか。」
「八戒さん、そんなまどろっこしいことするくらいなら、脳に電流でも流しませんか? 絶対、忘れると思います。」
「アスランくんは、意外と過激だなあ。」
「トダカさん、そこ、和むとこじゃないから。」
各人が勝手な意見を騒ぎ立てたところで、話は纏まらない。どうしたもんかなあーと、虎が声にした時、廊下を歩く音が響いた。
「おい、イノブタ、エロガッパ。」
三蔵は懐のブツの安全装置を外す。八戒と悟浄も立ち上がる。だだだだだぁーと走っている音で、三蔵は舌打ちして、安全装置を元に戻した。居間に顔を出したのは、悟空だった。
「うわぁーなんの集会? なあ、さんぞー、ゴミはちゃんと始末しろよ。あんなとこに置いとくと腐るぞ。」
そして、集まっている面々を、一通り眺めて、ひとり欠けていることに気付いた。
「あれ? ロックオンさんは?」
「ごくーー、ロックオンさんが攫われそうになったんだ。それで、寝込んでて・・」
「ええっ? なんだよっ、キラ、なんで? 」
事情を八戒が説明すると、悟空の顔色が変る。珍しく本気激怒モードだ。
「へぇー、刹那のママに、そんなことしやがったのか。」
純粋な生身の戦闘能力ということになると、悟空がピカイチだ。あのゴミの始末くらいなら簡単すぎて笑っちゃうぞ、ぐらいのことになる。
「ほんと、刹那のママは弱ってるっていうのに、ひどいよね? ごくー。」
さらに、MSなら、おそらく宇宙一と思われる大明神様も怒っている。ふたりして、自分たちの弟分からの大切な預かり物に手を出した、ということが、かなり頭にきているらしい。
「よくよく考えたらさ、ママニャンって最強のうちの一人なんじゃないのか?」
ふたりの怒りの声に、ハイネは、ふと気付いて口にした。このふたりを共同戦線に駆り立てられる人間なんてものは限られている。ついでをいえば、マイスター組の子猫たちも、これに加わるわけだから、ものすごい報復攻撃ができてしまう計算が成り立つ。
「今更、何を言うんだか・・・そりゃ、ハイネ。ママっていうのが、一番強いに決まってるだろ? うちの女房なんか、自らも強いときてるから、最高に最強ってことになる。」
「わけのわかんないことをほざいてますね? うちの亭主は。」
本当に、もう、と、最高に最強の人物は苦笑している。恋人は、相手だけだ。それ以外を守ることに全力は出さない。だが、保護者というか、ママという存在は、一番ではなくても大切にしたい存在である。キラや悟空にすれば、八戒が同様の事態に陥っても、同じように怒るだろう。『吉祥富貴』のおかんであるから、シンやレイまで、これに加わり、さらに、悟浄が参戦してくる。そうなってくると、報復攻撃は、ロックオンより派手なことになりそうだ。
「そこ、惚気てないで真剣に考えてくれ。」
話が違う方向に流れたから、虎が嗜める。
「どこかへ押し込めてしまうか? 例えば、病院だ。表立って、というわけにはいかないが、そういうことを頼める病院というのは、どうにかなるだろう。キラ様、彼らの電子カルテの改竄というのは可能ですか? 」
「うんっっ、お茶の子にゃいにゃい。」
トダカの真面目な提案に、その手があったか、と、虎も頷く。この時代、電子カルテであるから、改竄は、実力のあるハッカーなら可能でもある。そこに、精神不安定とか精神錯乱履歴あり、なんてことを記せば、それなりの検査は行われる。これらの検査なんてものは、時間が必要だし、その間は病院に拘束されることになる。
「とりあえず時間を稼いで、ママを、また落ち着かせたら隠すとしよう。」
まだ、ラボの存在はバレていない。それに、ここ以外の場所へ移せば、おいそれと攫われることもない。ここに、誰もいないとわかれば、ストーカーも来襲することはなくなるはずだ。
「おい、来たぞ。」
玄関からの足音に、また三蔵が反応する。だが、それより早く動いたのが、悟空とキラだ。廊下に飛び出して、歩いてきた『それ』と『あれ』の前に立った。
「やあ、『運命の女神』キラ、きみまで現れるとは、私は運命を感じずにはいられない。もしや、少年も帰ってきたのだろうか? 彼は、お義母様のところかね? 」
「クジョーくんは、どこだい? キラくん。僕は、彼の看病をするつもりなんだ。彼は、とても弱っているみたいだから、見晴らしのいい空気の綺麗なところで療養させてあげたいんだよ。そこで、僕の話をゆっくりと聞いてもらいたいとも思っている。」
ぼろぼろのはずなのだが、言葉は別物だ、所詮、毒電波は毒電波。聞いていると頭が痛くなる内容だ。居間から顔を出した面々も、顔を歪ませて渋い顔になる。
作品名:こらぼでほすと 留守番9 作家名:篠義