こらぼでほすと 留守番9
「グラハムさん、僕は、グラハムさんの『運命の女神』だよね? 」
ずいっと、キラが前に出て、そう確認する。
「今更、そんなことは確認するまでもない。きみは、会った瞬間から、私の女神だ。それは、永遠に変らぬ真実だと断言する。」
それを聞いて、うん、と、ひとつ頷いて、キラは、普段なら絶対にしない綺麗だけど冷たい笑顔になる。
「じゃあ、僕は、あなたの運命を決められるんだよね。女神の僕が命じることが、グラハムさんの未来になるはずだ。」
「仰せのままに、キラ。」
「二度と顔を見せないでね。僕の前に、その顔が現れたら、僕、本気で消滅させるまで、グラハムさんを凹にする。」
「なにぃ? 」
「それから、ビリーさんも、勝手に派遣しないでね。ビリーさんも、見つけたら、確実に、ふたりに女神の僕から、不幸の贈り物をするから。・・・僕、今、とっても怒ってるんだ。」
「一体、私の何が、きみの機嫌を損ねたというのだ? 」
「僕のママを勝手に連れて行こうとするからだよ。・・・刹那のママは、僕のママでもあるんだから。」
「それは誤解だ。恋人のお義母様を療養させるのに手を貸そうと思ったまでのことだ。きみから離すなんて意味ではない。恋人のお義母様は、私の母ともなる方だ。それなら、私が最高の医療機関を用意するのは、当たり前のことだ。」
それじゃあ、何か? うちのドクターはヤブだとでも言うつもりかよ? と、ハイネがツッコミ。
もういっそ、ボツリヌス菌でも飲ませたほうがよろしいんじゃないんですかね? と、八戒が、さらっと指摘。
ついでに、高僧様が、胸糞悪いから撃たせろ、なんて、マグナムを準備。
さらに、あいつ、死に場所でも探してるのか? と、悟浄が無駄な見解。
「122キラくん、そんなことは、そっちでやってくれ。クジョーくんは、どこだい? そこにいるのかい? 」
ふらりと、イっちゃってる目のビリーは、グラハムを押し退けて進んでくる。キラの肩を掴もうとしたが、その手は、悟空によって遮られて、廊下から即座に開け放たれた窓経由で、身体ごと放り出された。
「聞いてるの飽きたぞ、キラ。」
「じゃあ、やっちゃってもいいよ、ごくー。」
オッケーと、さらに、ストーカーも、簡単に窓から放り投げてしまった。自分より体格のいい『それ』と『あれ』だが、その程度は簡単に投げ飛ばせる。
「この仕打ちは、何事だ? キラ。」
それでも、受身を取って気絶しない『あれ』というのは、腐っても軍人だ。
「「 刹那に代わってお仕置きだっっ。」」
ふたりして、人差し指を突きつけて叫ぶ。伊達に、カラオケでウインクを踊っているわけではない。息もぴったりに、決め台詞だ。
おおーっと、大人組は、その勇ましい台詞に拍手する。そして、大人気ない大人は、『それ』と『あれ』の鼻先に、着弾させて、「俺からも祝福を贈るぞ。」 と、ニヤリと笑っている。
「運命は過酷なものだ。だが、あえて言おう、私は女神の勘気を溶かすために、再び現れるだろうことをっっ。」
まだ言うか? と、げんなりと大人組が肩を落としていたら、キラが窓から飛び降りて、そのストーカーの背中に、えいっと足を振り下ろす。そこいらあたりは、肋骨があるから、どこでも攻撃有効エリアだ。うぐっという声と共に、『あれ』は、ようやくダウンした。
今回は、近くの公園ではなく、離れた場所にゴミは捨てて来た。そこで回収されて押し込められるはずの病院へも裏から手を回した。ついでに、適当な病原菌をドクターが、その身体に振り撒くとうサービスまでしておいた。しばらくは、大人しいだろうと、ふう、と、虎が息を吐く。
「久しぶりに、気持ち悪いと思ったな。」
「そうか? 俺は、歌姫の姿で、いつも、この気分は味わっているがな。」
ゴミの回収とか病院の手配とかで、ワタワタしているうちに店の開店時間になってしまった。だが、キラの「今日はお休み。」の鶴の一声で臨時休業になった。予約があったわけでもないので、まあ、いいだろうと、アスランと八戒も了承した。というわけで、手配に向かったハイネとダコスタを除いて、ここで宴会になっていたりする。
「二日ほどして落ち着いたら、きみもバイトに出て来るんだろ? 三蔵さん。」
で、じじいーずプラス高僧様は、のんびりと酒盛りだ。悟浄、八戒とアスランは、食べ物の調達に、近くのスーパーへ出向いている。大人数すぎて、作るのが大変だから、出来合いのものを用意することにしたからだ。
キラと悟空は、親猫の付き添いがてらに、携帯ゲーム機で遊んでいる。しばらく、自分たちが黒子猫の代わりをする、と宣言した。
「出るつもりだが? 」
とりあえず、乾き物とビールで、なんとかしといてください、と、八戒が用意していったので、イカクンを齧りつつ三蔵も答える。
「その時は、ロックオン君も一緒に連れてきてくれないか? 」
そのほうが安全だろう、と、トダカは提案する。別に仕事をさせたいということではなくて、一人にしておくよりは、ということらしい。
「八戒の仕事を助けてもらう程度のことにしておけばいいだろう。」
接客ではなく、バックヤードの仕事をしていればいい、と、虎も付け足す。それなら、誰かがいるのだし、気も紛れる。
「しかし、ママを襲うか? 普通? 俺より背丈はあるんだぞ? 」
中性的なタイプというなら襲われたり拉致されたりも理解できる。しかし、筋肉は落ちているといっても、元からの体格が、それなりな親猫は、どう見ても、そういう対象にはなりにくい、と、三蔵は思う。
「それが、『蓼食う虫も好き好き』ってやつだろ? 」
「それにしたって、ママはねぇーよ。」
「顔は美人だぞ? 三蔵さん。鷹さんの好みには該当しているからな。」
「そういや物好きが、うちにもいたな。」
「ははは・・・そう言ってる三蔵さんだって、女房代わりに使ってると思うがね? 」
「トダカさんだって、娘気分じゃないか? 」
「じゃあ、私はきみの舅ということになるのか。末永くよろしく頼むよ。」
あんたら、それ、セクハラだってーと、当人が聞いていたら嘆くことをのたまいつつ、じじいーずプラスは酒盛りしている。まあ、襲撃は排除したから、気分的に軽くなって、口も滑っているということだろう。
いつものように起きたら、となりに保護者が寝ていた。かなり酒臭い。昨日は、遅くまで宴会状態で、どんちゃん騒ぎになっていたので、朝のお勤めもやっていない。
「さんぞーー、朝だ。」
どすっと背中に蹴りを入れて、悟空のほうは飛び起きる。今日から通常だ。自分で、朝の支度やら洗濯をやらないといけない。
顔を洗っていたら、いい匂いがするので、台所へ顔を出したら、親猫が働いていた。
「え? 」
「よおう、おはよう、悟空。メシできてるぞ。それと、俺の横にキラが寝てたんだけど、どういうことだ? 」
いつも通りの様子に、ちょっとばかり悟空は驚く。医者の言った通りなら、今日は起きてくるはずがなかったからだ。
「大丈夫なの? 」
「ああ、だから、ただの貧血なんだって。心配されることはないんだよ。」
作品名:こらぼでほすと 留守番9 作家名:篠義