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ちいさなもののおおきさは

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「滝口の家族が心配するだろー」
「…滝口君って、一人暮らしじゃないのかな」
「…さぁ」
 一通り会話が終わると、再び沈黙。
「思えばさ」
「うん」
「俺達、滝口のこと何も知らないよな」
 そう、何も知らない。黄巾賊に襲われ、重症を負わされた。ハーモニカで作曲するのが趣味。D組。同じ学年。ポテトチップスがすき…なのかは、食ってる所を一度しか見たことが無いから分からないけど。俺達が持っている滝口亮の情報なんてそれ位だ。…あと、大怪我を負ったにも関わらず、笑顔で「お前らのせいじゃないよ」なんて言えるプレイボーイなんだってこと位。
「やっぱり、もうちょっと歩くか」
「そうだね」
 滝口(小)の手を引き、再び歩き出す。座ってるよりも良いだろう。…というか、滝口(小)本人から何か情報が得られれば一番良いんだけど。しかしこの滝口(小)、電話番号だとか住所だとか、肝心なところは一切答えてくれない。違う所から攻めてみるか。
「たーきぐちぃ」
「…?」
「家族は何人なんだ?」
「…えぇと」
 お、答えてくれるのか。
「ぼくと、にーちゃ」
「兄貴?」
「うん、りょーにーちゃ」

 …あぁ、そうだよな、その通りだ。人が小さくなるなんて、探偵まんがにしかないものだ。その通りだ。

「りょーにーちゃの、おともだちでしょ。きだ、りゅがみね」





「よし、えらい」
 なでられた。にーちゃはやっぱし、やさしい。
 にーちゃにおこられるのはやだから、ちゃんとやくそく、まもらないと。
「あ、そーだ。最後に、ひとつ」
「はい」
 いいへんじだって、またなでなでされた。さいごのやくそく、なんだろう。
「とおるは、男の子だろ」
「うん」
「じゃあ、悲しい時に泣いたら駄目だよ」
 …ないちゃだめ?
「なんで?」
「男の子は泣いたら駄目。男が泣くのは悲しい時じゃ無いってこと」
「…わかった」
 うそだよ、ほんとはよくわかんない。でも、なかなかったらにーちゃみたいになれるとおもった。
「ぼく、なかないよ」





「へぇ、弟さんと二人暮らしなんだー。タッキーも大変だね」
「や、大変じゃないですよ。大人しい奴なんで」
「そうなんだー、へー、へー」
 狩沢はすっかり少年…滝口亮と仲良くなっていた。目を輝かせているので、何かおかしな妄想でも繰り広げているのだろうと予想。当たったら悪いな、滝口。
 しかし当の滝口本人は、少し落ち着いてきたもののやはり辛そうに目を伏せている。ふいに、滝口が腰を上げた。
「…すいません、やっぱり俺、探してきます」
「え?」
「…弟、まだ三つなんです。行かないと」
 ありがとうございました、と呟き、軽く会釈をしてワゴンの後ろのドアを開けようと押す滝口。ってちょっと。
「待てよ」
 俺の代わりに門田さんが声をかけてくれた。
「膝、さっきからずっと震えてるぞ。その脚でまた走り回るのか?」
「あー…その位しないと、どうにもならないんで」
「いいから、座ってろ」
 門田さんは正面に向き直り、俺と目を合わせる。わかってますよ。三歳の子じゃ、そんなに遠くまでは行けない筈だ。

「その、はぐれたスーパーってのはどこだ?その周りをあたっていこう」




「まぁ、当たり前だよな」
「…」
「人が小さくなるなんてある訳無い」
「…本当、頭の悪い勘違いだったね」
「…そうだな」
 本当にその通り。何故最初から弟か何かだと思わなかったんだ。
「滝口君弟いたんだね」
 帝人はそう言って、滝口(弟)の頭を撫で、髪の毛を梳いた。
「本当、俺達滝口のこと何も知らないな」
「仲悪い訳じゃないのにね」
 今度色々聞いてみよっか、なんて話しながら、俺達は未だに滝口(弟)と手を繋ぎ滝口(兄)を捜索していた。この時間といえど人は溢れる程おり、探し出すのは難しそうだ。
 そう思っていたらふいに三人の歩みが遅くなった。下を見やると、滝口(弟)が地面を見つめて脚の動きを止めている。
「…?おーい、弟。どした?」
 聞いてみるも、滝口(弟)はもじもじとして俺の手を握る力を少し強くするだけだ。
「弟君、どうしたの?さみしい?」
 帝人がその場にしゃがみ、目線の高さを合わせたまま再び滝口(弟)の頭を撫でる。すると、滝口(弟)はおずおずと帝人の目まで視線を上げた。(俺が話しかけても見向きもしなかったのに、と思ったのは大人気が無いので内緒にしておこう)
「…さみしんじゃ、なくて…」
「ん?」
 滝口(弟)はその場に座り込み、顔を真っ赤にし、潤んだ瞳を帝人に向けて、言った。

「…おしっこ」







 てれびから、ぼくのすきなおうたがきこえた。にーちゃに、ぼくはこのおうたがすきなの、っておはなしした。
 そしたらにーちゃは、なんかしかくいのをおくちにあてて、ぼくのすきなおうたのおとをだした。
「にーちゃ、すごい、きれい」
「だろー」
「それ、なぁに?」
「これはハーモニカっていう楽器」
「はもにか…?」
「そう」
 にーちゃははもにかをもういっかいおくちにつけて、すきなおうたのおとをいっぱいだしてくれて、そのあとはもにかをぼくにもふーふーさせてくれた。
 ぼくは、はもにかでおうたはうたえなかったけど、にーちゃとはもにかはおにあいだから、ぼくがはもにかでじょうずにおうたをうたえなくてもいいって、おもった。







「はぐれたの、ここか?」
「はい…」
「…いないなぁ」
 時計の短針は七と八の丁度真ん中を指していて、この時間になるとスーパーの中に居る人も少なくなっていた。はぐれた現場というお菓子売り場にも、弟は見当たらない。
「やっぱり、外に出ちゃったのかなぁ…三歳の子なんでしょ?もう普通に歩けるんだし」
「…」
 狩沢、そんな不安を煽ることを口に出してやるな。滝口の顔が見て分かる程に青くなっていってるのが、お前にはわからないのか。
「俺、…外探してきます、ここには居ないかもしれないし」
 ってちょっと待て、落ち着け。小走りで出口に向かおうとする滝口の手首を掴み、引き止める。
「まだ分からない。ここに居るかもしれないだろ?とりあえず放送でも流してもらおう」
 俺がそう言うと、門田さんが「俺が行ってくるから、お前らはまだそこで探しとけ」と言い残しサービスカウンターに向かった。
 滝口の心配そうな顔はまだ変わりそうに無い。…出会ったその時からずっと眉間に皺を寄せている。普段はどんな顔をしているのか、少し気になった。




 この位の年の子ってもうオムツ外れてるんだっけか。弟も年下の親戚も、勿論子供なんてものも居ない俺にはそんな知識は無かった。
 あの後近くのスーパーに入り、急いでトイレに向かった。今トイレには帝人と滝口(弟)が入っていて、俺は外でお留守番中って訳だ。
「本当、弟置いてどこ行っちまったんだ、滝口」
 さっきまでは、あの滝口のことだ、きっとぼーっとしていたなりなんなりではぐれてしまったんだろう…と思っていたが、「あの滝口」なんて言える程俺は滝口のことをちゃんと分かっていない事に気付かされた。電話番号やメールアドレス、住所すらも分かっていない。友達だと思っていた人間なのに、ここまで遠い所にいたなんて。