南雲と涼野
もちろん雰囲気だけではなく、白にうっすら青を混ぜた淡い色調で揃えられた部屋は彼の髪色やイメージカラーを表している。
そこに自分のような暖色系の髪をもつ人間が入ると、なんとも不調和で、本人は酷く肩身が狭い。
布団の中に隠れるようにしてもぞもぞと入り込むと、布団に乗ったノートが凹から突然盛り上がった布団を滑らかに這って――パサリ、とカーペットに落ちる。
彼はもう一度、何の気なしににょっきりと布団の合間から手を伸ばして、ノートを拾い上げた。
荒唐無稽。知的で高圧的な部屋主が、数日前に彼をいつもと変わらず見下して意味を教えてくれた四字熟語である。それがノートの表紙に書かれている。
「……根拠が無く、でたらめ」
簡単に纏められたその意味を彼は口にし、青い表紙を親指と人差し指の先で摘んでページを開く。まるでゴミを摘むような動作だ。
一ページ目には、普段彼を謗る時に最も使われる言葉から始まっている。
『馬鹿でも分かるでたらめな話を並べ立てる。』
ソレは一体読み手に対する説明書きか、それとも自分がこうすると決めたことを文字にしただけなのか、彼にはわからなかった。
次にページを捲ると、文字が並ぶ。やはりびっしりと、隙間無く文字が並んでいた。それに彼は読む気が失せたが、やることもないからと彼は目を魚皿のように横長に開いてそれを読み始めた。
『世界には中身がないという言葉があるのにその言葉には意味という中身が在り何も無いという空間には空気が存在しているソレはつまり中身が無い若しくは中身が在ると言う事で中身がない並びに何もないという言葉ではないのである。身近な言葉ありきたりな言葉よく使われる言葉平凡な言葉でさえこうも矛盾があるのに世界はそれを正そうともせずにぐるぐる回る地球のように回る。別にソレに対して侮蔑するわけでも侮辱するわけでもないがソレでもこんな不完全な世界に対してこの言葉の意味を求めて言うならば愚かだとしか言いようがない。不完全で矛盾した事象万物意味などただ人を混乱させるだけで不必要なのだ。それなのに――』
彼はそこまで読んで最後のページにまで飛び、最後の行まで埋まっているのを確認すると、意味もなく――そして迷わずソレを書いた本人に、あらん限りの力をこめてぶん投げた。