南雲と涼野
それが半ば刃のようにして暴発した銀髪に深くめり込むと、彼は痛みに声を上げ、大学ノートに絶えず文字を連ねる手を止めて瞳に怒りを滾らせ、投げた彼を見やった。
そうして始めて彼は来訪者と顔を合わせる。
部屋主の汚泥の色をした目に、鮮やかな赤が。
来訪者の黄金の目に、淡雪のような銀が映る。
「……勝手に人の部屋に上がり込んだくせに何をするんだ」
部屋主の――男にしては高い声が部屋に響く。心なしかその濁った目が潤んでいた。全力で投げた上に、見事ノートの角が当たったのだ。投げた意図以上の苦痛を訴える瞳を見て、彼はニヤリと笑いながら言い返す。
「こーとーむけーってやつ?」
「ぶん殴るぞ。それに意味が違う」
あえてはっきりと呂律を回らせずに言えば、彼は声を低くして言い返す。意味が違っていることは彼でもわかっている。それでも何だかその言葉がぴったりな気がして言えば、バカめと嘲笑われた。
普段ならば勘に障るその物言いも、今尚潤んだ瞳で言われればさして気にはならない。さらりと嘲笑を流して彼は問いかけた。
「なぁ、この部屋なんかねぇの?」
茶菓子なり、ゲームなり。
単純、愚直と、部屋主に度々揶揄される彼の性格は、この何も無い部屋をそのままあらわすように、何かを求めた。部屋主は眉を寄せる。
「何も無い」
部屋主は、自分の言葉に、心の奥の何かに引っかかったらしい。とたん眉を寄せて俯いた。悲哀が背中にもうもうと立ち込める。視覚としてはっきりと見て取れそうなほどの感情の落ち込み具合に、彼は心中自分を責めた。
――部屋は、部屋主を表す。