南雲と涼野
何時だったろうか。部屋主と来訪者は、その言葉を共に聞いた。その言葉を聞いた時は、談笑程度の言葉として耳に入った言葉で、続きの言葉はずいぶんとふざけた、「エロ本が隠されているのは、その人がエロい所を隠そうとしているから。で、逆に隠そうとしていないのはむしろ開けっ広げに言っている、そういう心を表している」というものだったのを、来訪者は、覚えている。
そうして同時に、ぼんやりと思ったのだ。「そういえば自分の部屋はずいぶんと汚ねぇなァ、足の踏み場もねぇなァ、じゃぁなんだ、俺の性格って」と。別段思いつめるでもなく、ただ、鳥が飛び立ったと言われたのと同様にまったく気に留めなかった。彼にとっては、その程度の言葉だった。
けれど部屋主は、違った。その言葉を聞いた途端目を見開き、それから唇を固く結んで、何かに耐える様な面差しで俯いた。
その明らかな変異に、来訪者は気づき、たずねた。
「どうかしたのか?」
部屋主は答えた。
「私の部屋には、何も無いんだ」
続けて彼は、最後に言葉を濁しながらも言った。「だからきっと、私の心も――」