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いつまでも

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わたくしがこの宮殿でお世話になることになってまもなくのこと。



にぎやかな高笑いとブーツの小気味よい音。それはまるで自分の存在を主張するかのようでした。普段は物静かなこの宮殿に何が起きたのか、わたくしは好奇心を掻き立てられました。
磨き上げられた廊下を我が物顔で歩いてくるのは、美しい羽飾りに彩られた三角帽子を被った軍服の青年でした。どこかの貴族でしょうか、それにしてはお供の一人もついていない。しかし、その青年を止める者は誰も居ませんでした。近付くにつれ、その青年の顔がはっきりとわたくしにもわかりました。強い意志を持つ切れ長の瞳。それは、今まで見たことも無い深い赤で、女のわたくしでも羨ましい白い肌にそれはそれは映えました。年の頃は17、8くらいでしょうか。黒いゲートルに覆われた若い牡鹿のような足が颯爽と歩く姿にわたくしはしばし見とれておりました。青年がかの人の部屋の扉の前に立つまでの間は。

「お待ちください、軍人様!」
その扉を開けてはなりませぬ。
私の悲鳴にも似た呼びかけに、彼は顔だけをくるりとこちらに向けた。
軍人らしからぬきょとんとしたその顔に、わたくしは小走りに歩み寄り小声で言いました。
「そのお部屋はフリードリヒ様の書斎でございます。今日の午後は、書き物をされるとのことで立ち入り禁止となっております。御用の方は・・・」
「お前は誰だ?」
青年は未だ合点がいかぬ顔でわたくしの顔を見るのです。その深い赤い瞳はわたくしをじいっと見つめました。わたくしは自分の顔がどんどん熱くなるのがわかりましたが、どうすることもできません。
「人に名を訪ねる前に自分から名乗るのが礼儀でございましょう!」
苦し紛れにわたくしはそう言い放ってしまいました。今にしては、若さの成せる技でございます。そう、わたくしはあの頃まだ14になったばかりでした。
「ふうん、お前、フランス語上手いな」
この宮殿での公用語はフランス語でございます。わたくしのような教養のない者がこのような殿上人の住まう宮殿に召し抱えられたのもフランス語が話せたためなのです。今までの会話もわたくしは全てフランス語でした。青年の方は弾むようなドイツ語で返答していましたが。
「お前は俺が誰かも判らずにそれでも俺を止めるんだな?」
にやりと左側の口の端が上がりました。赤い瞳がすうっと細くなります。それと合わせて細い眉がつり上がっていきますと、青年の人相はやや柄のわるいものへと変化してゆきました。一言で言うと、下町のチンピラ風といったところでしょうか。つい右足が恐れで一歩後ろへ下がりました。私は小鳥のようにふるりと震えながらも、はっきりと答えました。
「わたくしただの小間使いかもしれませんが、フリードリヒ様の臣下でございます。主の命を守る義務がございます。何卒ご容赦くださいませ」
「その通りだ!お前、女にしておくのが実に惜しいな!」
ケセセと、聞いたことも無い笑い方をしながら彼は軽いノックの後、颯爽と中に入ってしまったのです。
「親父!今度雇った新人、面白いぜ。この俺様を、プロイセン様を止めやがった!」
わたくしは、心底呆然としてしまったのでございます。
これが、あの、噂には聞いていた我が祖国様とは!
それがわたくしと我が祖国プロイセン様との出会いでございました。
作品名:いつまでも 作家名:ゆう