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僕は一日で駄目になる

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難易度:VERY HARD 王者の風格を漂わせ居酒屋の前にゆらりと佇む獲物に飢えた栄口



「さかえぐちもう大丈夫なの?!」
「いい天気だねー、水谷」
 へ?どこかに月でも浮かんでるの?つられるように上を見たけれど、黒とグレーがマーブル状に混ざり合う空には星ひとつ見えなかった。
 必死に目を凝らす俺の耳に栄口の笑い声が聞こえた。
「ばーか」
 けらけらと顔をほころばせて繰り出されたラリアットをまともに喰らい、衝撃に身体が傾いた。よけろよミズタニぃって不満そうに栄口は朗々と語るけど、この至近距離じゃ不意打ち、かつ回避不能です。
 …栄口ってこんな奴だっけ?優しくてかわいくて、時々俺に向ける苦笑いが友情と恋愛のラインを軽くぶち破っちゃうくらい大好きだったのに、今日の君には悪魔の角が生えて見えるよ。
 突然の豹変に頭の処理能力がついていかない俺を置き去りにし、がしりと肩を抱いて「おまえんち行って飲みなおそー?」なんて言ってきやがる。こんなに間近にある顔、かすかに漂うアルコールの香りに少しムラっときてしまった。下心がないわけでもなくなくないわけでもなく…つまりちょっとだけあります。あっ、ごめん、結構わりと大分、あります。
 こうなりゃままよ!肩を組んだ俺たちは笑いながらアパートまでの道を歩く。端から見れば立派な酔っ払いだ。
 酔った栄口が正体不明すぎて、俺はとりあえず向こうのテンションに合わせておけば何とかなるだろうと思った。
 しかし当たり前のようにいつもあった栄口のフォローというかツッコミがボケに変わると、もともとボケの俺と相まって、俺たちはてっぺんを知ることなくボケてしまうことを今日初めて知ることとなった。


 買い物をするために寄ったコンビニは俺たち以外人はおらず、栄口がふらふらと店内に吸い込まれていくのをほっとした気持ちで見ていた。
 なぜなら栄口が道中ずっと宇宙の話をするので、俺のメモリにキャッシュされているビックバンで生まれる新たなコスモだの偏在するブラックホールだの本当にいるゲルゲル星人だのを開放しなければならないからだ。
 しかしあの栄口をここに野放しにしたらとんでもないことになってしまうかもしれない。慌ててその姿を探すと、栄口は棚の前にしゃがみこんで何かを必死に吟味していた。…触らぬ神に祟りなし。俺はペットボトルのお茶と少しの食べ物をカゴに入れた。酒は買わなかった。これ以上栄口がどうにかなってしまったら、俺は恥をしのんで最後の手段、阿部に助けを求めてしまうかもしれない。そうなったらまだかすかに残っている「こんなに酔ってんならチューくらいしてもバレないんじゃないかなっ?」というチャンスまでも消えてなくなってしまうじゃないか!
「水谷これも買ってー」
 ちょうどレジが打ち終わった空のカゴの中へ栄口が小箱を放り込んだ。
 チョコレート?キャラメル?一体なんだろうと目を凝らしたそれはよくあるパッケージのよくあるコンドーム。
 ご機嫌に鼻歌なんか歌っちゃってる栄口を除き、石のように固まるコンビニ店員と俺。
 …誤解されている激しく誤解されている。男二人深夜、このシチュエーションでこの購入物はないだろう。今、買ったものを袋に入れてくれる人の手が止まったし、レジ打ってる人の視線がわざとらしく逸らされたって!
「さっかえぐちっ、こっ、これ使うの!?」
 俺の失敗その1、不明瞭な文章はより墓穴を掘ります。これではまるで、
「えっ?水谷ってつけないの?」
 …と思われてしまったようですね、はい。栄口も「『いつか』水谷が『誰かと』するときはつけないの?」と言ってくれればいいものを!わーん!
「いやっ、だからそういう問題じゃなくて!」
 どういう問題なんだよ俺。なけなしのフォローするより早く、何かに誘われるようにして栄口はコンビニの外へと出て行ったしまった。…これじゃあホモカップルがこれからひと仕事するのを見せ付けているようなもんじゃないか!
 合計金額を告げるコンビニ店員のやけにげんなりとした声が深く印象に刻まれた。
 何はともあれ、俺はもう二度とこのコンビニに寄れなくなりました…。

 コンビニでの居心地が非常に悪かったせいか、頬に当たる外の夜風が気持ちいい。なんて感慨にひたっている場合ではない。夜の住宅街へと消えてしまった栄口が次に何をするのか、想像してみるとちょっと憂うつ。
 どこに行ったんだろうとあたりを見回すと、栄口はコンビニのすぐ近くにあったバスの停留所の標識を無我夢中で押したり引いたりしていた。一生懸命すぎてすごく声がかけづらい。
「…さかえぐちぃ、何してんのー?」
「便利だと思って」
「……は?」
「これ水谷んちのアパートの前置いておけばさぁ、」
 家の前からバスに乗れんじゃん。
 やめてください。
 こんなときでも実用的なことを考えている栄口が怖い。体重をかけるたびみしみしと標識が揺れるけれど、さすがにビクともしないことに業を煮やした栄口はじろりと俺に目をくれた。
「…水谷、手伝ってくんない?」
 嫌です、器物損壊よりは宇宙の話の方が10倍くらいマシです。
「栄口!俺さっきのゲルゲル星人の話の続き聞きたいな!」
「…俺、ゲルゲル星人についてはあんまり引き出し深くないんだよなー」
「じゃあもうなんでもいいよ!宇宙の話してよ!!」
 この近辺に住まうバス利用者のため、停留所存続の方が大事だと、変な使命感に駆られた俺は必死に栄口を説得する。そうして始まったアナサジ星人の話はゲルゲル星人以上によくわからなかった。

作品名:僕は一日で駄目になる 作家名:さはら