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消えなかった結果がコレだよ

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 某月某日某時刻。
 とある国兄弟の自宅。そのリビングは緊迫した雰囲気と戦時下を思わせる光景を内包していた。

「なあルッツ! わざわざ会いに行かなくても連絡一本いれりゃ済む話じゃねぇか!」
「駄目だ!! 連絡も勿論入れるが…、なるべく直接顔を見せに行くべきだ」
「だからって縛り上げる事はねぇだろッ!!」

 そこにいるのは二人。
 片一方は手帳を手に、電話のダイヤルを回す弟・ルートヴィッヒ。抗議の声へと一瞥すらしない様子に、断固とした意思が表れている。
 そしてもう片方。がんじがらめに縛られて絨毯の上で転がり、自身をこんな目に遭わせた実行犯をひたすら睨むばかりの兄・ギルベルト。
 手足が自由であれば文字通り噛み付かんばかりに騒ぐ兄に、弟はようやく視線を向けた。

「そうでもしないと、貴方は面倒くさがって逃げるだろう……」

 聞き分けの無い子供に対する親そのものといった感が余計気に障り、ギルベルトはさらに声量を上げた。

「ったりめぇだ! 誰が好き好んでいじられに行くか!」



 彼らの状況を説明するのは簡単だがちょっと前置きが長い。
 兄であるギルベルトの軌跡を追う必要があるからだ。

 プロイセン王国の解体から数十年の月日が流れても尚、その名を冠する者は現世に在り続けた。それがギルベルト。
 自身の国を失くしても存在の拠所は失われなかったらしい。
 ならばと、名を持ち続けたまま彼は己が役割を変えた。大戦を経て、弟のもう一つの名・ドイツの半身として北方へ出稼ぎへ赴いた。後に隔てられていた壁が砕かれ、やがてその役割すらも全うし終えた。
 もし彼が消えるのならばその時だろうと誰しもが思った。
 最早止まらぬ時勢。多くから望まれたその日の、ただ唯一望まれぬ瞬間に彼を知る誰もが戦々恐々とし……それは結局訪れなかった。

 内心ビクビクしまくっていたギルベルトは安堵した。
 流石俺様運がいいぜーとかなんとか呟いてたら、今度はルートヴィッヒに問答無用で病院の精密検査送りにされた。
 国の頼みとはいえ、深夜過ぎというのに嫌な顔一つせず懸命に働いてくれた医師達に、感謝と、居た堪れなさから心中でひたすら謝り倒した。
 優に半日以上身動きもとれず拘束され、検査終了と同時に病院から逃げるように退散すると、次に待っていたのは弟からの質問攻め。
 簡易結果では異常なしと聞いてはいるだろうに、大丈夫か異変は無いか気分はどうだと畳み掛けられ、何かあったほうがよかったのかお前と、うっかり邪推しかけたのはここだけの話。
 兄を慕う弟の、純粋な心配だとわかっているので野暮な言葉は飲み込んだが、延々そればかりだとなんともいえない気分になる。
 強いて言うならと前置きして、頭の上になんか違和感感じるような……と言ったら、ただ一言「鏡を見ろ」とだけ返されてちょっと悲しくなった。意味もわからない。
 家に着いたら方々に連絡入れよう…。そんな事考えてしょっぱい気持ちを誤魔化した。

 しかし帰宅したらしたで、今度は先にルートヴィッヒが電話を占拠する始末。
 上司に暫定の診断と精密検査の結果はこれからと報告を入れ、受話器を置いたルートヴィッヒの後ろで、さて自分の番と待っていた兄は弟の次の発言に固まることとなる。

「そうだ、皆に兄さんがひとまず無事だと連絡しなければ…!」
「えっ…!? い、いいから、別にいいからっ!」

 この「いいから」がマズかった。
 ギルベルトは『自分で連絡を入れるからルートヴィッヒがそんな事しなくていい』という意味で発言したが、弟はそれを『連絡自体拒否する』ものと受け取り怒り出した。
 常時なら弟も冷静に話を聞き入れてくれたろうが、今は若干興奮状態にある。弁解すればするほどヒートアップするし、埒が明かないので一度戦術的撤退を講じようとしたらとっつかまって縛られた。
 北にいる時に「君の弟君、縛るのすっごく好きなんだってねー」とかいきなり聞かされて机に頭ぶつけた記憶が蘇る。真偽の程をこんな形で実感したくなかったです、本当に。

 ルートヴィッヒも意固地になり、何が何でも兄を挨拶回りに連行するつもりのようだ。
 ギルベルトとて弟の心情は理解しているし、汲んでやりたいとも思う。けれど、なにが悲しくて齢数百年の身で『うちの子が心配をおかけしまして……』の子の立場に立たなければならない。恥ずかしすぎるだろう。
 一人で行くなら、相手にもよるが、まあ大体は一発くらいはたかれてなんのかんの軽口言い合って…で済むのだ。
 これが弟付きだとどうだろう。表面的には労ってくれるだろうが、数年後にからかいの材料として持ち出されるに違いない。特にフランシスとアントーニョあたり。

 どうやって現状を打破すべきか思考を巡らすうちに、弟の表情が変わる。電話の相手が出たようだ。
 弟と最も仲のいいフェリシアーノなら特に実害も余計な心配も一切ない。
 ギルベルトにとっても天使な笑顔の持ち主を思い浮かべその名が出る事をひたすら願う。が、

「ローデリヒか。俺だ」
(げっ、よりによって坊ちゃん!?)

 こういう時の願いが天に届く事なんてまずないと経験則で知っている。むしろ最悪の目が出るパターンが大体だ。
 思い浮かべた天使が瞬時に眼鏡小舅貴族に変わってギルベルトは本気で逃げの算段を打つ。
 ローデリヒの場合からかいはしないが小言が多い。しかも正論で淡々と並べ立ててくる分、余計相性が悪い。
 ちょっかい出す分には面白いが、脱出できない状況で延々と向かい合うのは嫌だ。

「ああ、その事で……」

 なるべく音を立てないよう這い蹲って、リビングから脱出を図るものの。

「明日そちらへ行くから待っていろッ!!」

 即効見つかった。
 そりゃリビングなんて限定空間でそれなりのガタイした男が動いてたら視界に留まる。留まったら気付く。至極当たり前だ。
 電話がベルの音と嫌な破壊音を盛大に立てる。ムキムキに育った弟の足音が、床を這う全身にどかどかと伝わり、ギルベルトは恐怖した。
 天国にいるだろう敬愛するかつての上司に泣きの実況しつつ、諦めずに這い進んでいたが、背中を強烈に踏まれ強制的に動けなくされた。

「~~ッ! ……お、お兄様を足蹴にするたぁ…ルッツ、お前」

 押さえつけられた体を強引にひねって弟を睨め上げる。
 痛みと、踏まれた衝撃で足りなくなった酸素のせいで視界がちょっと滲んでるが、ここで態度をはっきりさせておかなければ、これから先兄としての威厳が無い。
 だが睨み付けた先にあったのは、

「脱走兵には……懲罰だよな、兄さん?」

 黒の皮手袋を嵌め口角ばかりを優越に上げる、完全になんかのスイッチが入った弟だった。

「ちょっ、待て! ルッツお前目がマj」

 薄れる意識。回りだす走馬灯。
 電話越しでも、ほんの少しだけでも聞きたかったあの声なら、自分の情けない断末魔よりよっぽど綺麗な思い出に似合ったのにとぼんやり思って、ギルベルトは意識を遂に手放した。


作品名:消えなかった結果がコレだよ 作家名:on