消えなかった結果がコレだよ
「ケッセセセ、侵入成功ー。あの腐れ坊ちゃんがどんな顔するか見物だぜー」
ルートヴィッヒと別れ、ギルベルトはローデリヒが恐らくいるだろう母屋の方へまっすぐに庭を横断していく。
思春期の一時を費やして足繁く通った屋敷である。何度かの改修はされても増改築は無かった筈だ。敷地はそれなりに広いが特に迷うこともない。
ルートヴィッヒは土産物を持っていたし、塀を越えてくるような無茶もしないだろう。表から回って母屋へ来るにも、まだ時間は十分にある。
目的地に着く前に頭の中で侵入経路をシュミレートしておく。
ローデリヒのいる部屋の窓からダイレクトに登場するのが一番面白そうだが、流石にここ最近の奴の行動パターンまで把握してないので却下。
地味だが、一番時間短縮出来そうな裏口から入って総当りすることにして、さてその後、ローデリヒを驚かせた後を考える。
あの調子だとルートヴィッヒはどさ回りを続けそうだし、出来れば捕まりたくない。早々にここを退散する腹積もりだが、それからどこに向かうかをギルベルトは決めあぐねていた。
あの後、幸いにしてフランシスとは連絡が取れた。匿ってもらうついでに美味いデザート作ってもらうのもいいかもしれない。アントーニョも呼び出して久々に気楽な酒を楽しむのも手だ。
ただそうするにしても空港は当然ローデリヒ経由で弟の手が回るだろう。ならば陸路になるが、イタリアと、順路によってはスイスも経由しなければ合流すら叶わない。
フェリシアーノは弟の味方をするだろうし、バッシュは見つかるとローデリヒとは違うベクトルで叱ってくるし、そうこうしてる間に足を止められておしまいだ。
一度ドイツに戻ってとも考えたが、迂回してる間に先を越される可能性の方が大きい。
そうなると行く当てが逆方向しかなくなる。
……。フライパン一発くらいは覚悟して、あとは話の持って行き方さえ間違えなければ多少はのんびりさせてもらえるだろう。
そう。消去法だ。消去法で、それしか選択肢が残っていないのだから仕方ない。
…誰に対して申し開きをしているのか。
いやそれ以前に。
尤もらしい理由を作って会いにいこうとしている時点で、大昔から全く進歩がない事にギルベルトは気付く。
こんなだから、しっかり者とはいえ弟に保護者面されるのだ。
自嘲し、頭をぼさぼさと掻く。もう母屋の側だ。菓子でもこさえたのかほのかに甘いがする。それもついでに頂いてしまおう、角を曲がれば裏口はすぐそこだ。
いい加減ローデリヒに何と言って驚かせるかを考えるべきなのに、過去に何度も辿った道ゆえかその頃の光景ばかりが思い返される。
今みたいに忍び込んで、この角を曲がると箒持って鼻歌混じりに掃除してるあいつがいて――
そうして思い描いた人はギルベルトの淡い回顧録の中だけでなく、現実にそこにいた。
作品名:消えなかった結果がコレだよ 作家名:on