こらぼでほすと 襲撃2
「俺、そっちも全然です。飲めりゃいいって思ってたけど、こっちに来てから考えは改めました。店で出て来る酒って、どれも美味い。」
「そりゃそうだろう。うちの店は、最上級の酒しか置かないんだから。オーナーが、どうせなら、と、そういうものばかり集めさせたんだ。」
オーナーも、それほど酒を嗜むわけではない。一応、未成年のくくりには入っているから、飲んでもカクテル程度だが、店に来る客は、誰もが一流どころの女性陣で、彼女たちに寛いでもらうために、おいしい酒と食事の提供を心がけたためだ。ワインなんか本気の年代モノをワインカーヴに寝かせているし、洋酒和酒など世界の美味しいと言われるアルコールは、出来る限り集めさせた。トダカも、そのために、いろいろ勉強した。お陰で、今では、ソムリエの資格はないが、それと同等の知識を蓄えている。
ほうれん草の白和えと、親子丼、味噌汁という純和風のメニューをトダカは、手早く作り上げた。ヤモメ暮らしも長いから、簡単な料理ぐらいはお手の物であるらしい。
「箸より、スプーンのほうがいい。」
「ああ、そうですね。どうも、こういうのは・・・・」
一応、寺での生活で箸の使い方はマスターしたが、それでも、こういう液状のものは難しい。スプーンを手渡されて、ロックオンも、それに従った。
「うめぇー。」
「そりゃよかった。シンがいるとカツ丼にするんだが、私は、油モノは、そろそろきつくてね。」
「まだ、そんなこと言う年齢じゃありませんよ。」
「はははは・・・・いやいや、きみも四十になったらわかるさ。いきなり、ストンと体力が落ちる。それから十年すると、また、ガタンと落ちる。自分でびっくりするくらいにな。」
そういうもんですかねぇーと、相槌をうちつつ食事して、ふたりして、出勤した。
組織のほうでは、アレルヤロストで慌てているが、それもトレミーのメンバーだけだ。マイスターが行方不明なんて、さすがに組織の全域に報告できる代物ではない。
「無事生きている、という報告だけ受けてもなあ。」
うーん、と、イアンも顎を撫でて中空を睨んでいる。拉致なのか事故なのか逮捕なのか、それすらもわからないでは探しようがない。ヴェーダが使えれば一発で判明するのだが、頼みの綱のヴェーダは乗っ取られていて、こちらからアクセスができない状態だ。まだシステム事態が完全ではないから、他のマザーへの侵入も難しい。
「だが、探すなら早いほうがいい。」
「でもね、ティエリア。闇雲に探して見つかるとは思えないわよ? 王留美たちエージェントに探させるのも、どうかと思うし。」
エージェントたちは、ちゃんと稼動しているので、そちらへ依頼するという手は使えるのだが、そうなると、どうしても騒ぎが大きくなる。だから、スメラギも思案中だ。どういう意図で消えたのかわからないので、探していいのか躊躇している。組織からの脱退だとしたら、無理に追う必要はないのだ。ここ数ヶ月、組織に落胆して去った人間は、何人も居る。もし、アレルヤも、そうなら、マイスターとしての登録を消去すればいいだけだ。
「俺たちに何も言わないなんておかしい。」
もちろん、ティエリアは、スメラギの考える理由を否定した。だいたい、アレルヤは、ロックオンの様子を見るために降ろしたのだ。刹那が、エクシアの最終調整で降りられないから代わっただけで、降りたいと自ら志願したわけではない。ロストしてから数日だ。まだ、今なら痕跡を追跡できるはずだから、ティエリアは慌てている。
「わかったわ。とりあえず、王留美だけ動かしましょう。それでいいでしょ? ティエリア。」
まあ、ティエリアの言い分は、もっともなので妥協案をスメラギが提示する。刹那は、組織のラボへ出向いているし、ラッセは、まだ再生治療の最中で動けない。トレミーの人員も少なくて、これに人員を割けないのもネックだ。イアンたち技術屋集団は、新しいMSの設計で、てんやわんやの状態だから、実質動ける人間は居ないのだ。かくいうティエリアも、イアンたちとドッグで篭っている状態だ。
「それで頼みます。スメラギ・李・ノリエガ。・・・・それから、刹那には連絡しないで結構です。」
「え? 」
「あれは、勝手な単独行動が好きな男だ。報告すれば、確実に、地上のキラたちの許へ降りるでしょう。」
情報が、そこにある、と、判明したら、刹那は、そこへ突っ込む。それを奪還すればアレルヤの所在も判るというなら、一も二もなくやる。そういう無鉄砲なところは、ティエリアだけでなく、トレミーの人間も理解していることだ。
「なあ、ティエリア。ロックオンに頼むのは、ダメなのか? 」
イアンは、ふと思いついて、そう尋ねた。地上の『吉祥富貴』には、ロックオンがいる。そこに連絡すれば、秘密裏に、その情報を流してもらえるのではないか、と、思ったからだ。
「いや、ロックオンとは連絡がつかないんだ。あちらも、俺たちが考えることを予想しているんだろう。ラクス・クラインから接触は拒否された。」
もちろん、ティエリアも、それは考えた。すぐに、暗号通信で、ロックオンにメールを送ったが、どういうわけか戻ってきてしまった。こちらからのアクセスは制限されているらしい。
「うーん、それなら、あちらへ王留美を送り込めば、どうなんだ?」
「それも含めて、依頼するわ。もし、王留美がロックオンと接触できれば、その方向で動けるはずだから。フェルト、そういうことで連絡してくれる?」
「わかりました。スメラギさん。」
フェルトは、すぐにデータの作成をして、暗号通信を送る。できる手としては、これで精一杯だ。
「王留美からの報告がくるまでは、静観するしかないわ。」
「わかった。」
ティエリアも、渋々だが、その意見を肯定する。『吉祥富貴』との取り決めが、これほど厳しいとは思わなかったのが誤算だ。研究しているラボへ戻りつつ、ふう、と、珍しくティエリアは溜息を吐き出した。それを横目に、イアンも声をかける。
「ティエリア、あちらさんの言うことは、至極正当だ。『戦争に介入しない。ただし、マイスターの生命の危機に関しては救助する。』 そう言ってるんだから、わしらに情報は渡さんだろう。」
自分たちは戦争をするつもりは毛頭ない、と、宣言している。ソレスタルビーイングの理念に賛同しているわけではない。ただ、マイスターが命を落とすようなことだけは阻止させてもらうという意味なのだから、行方不明のマイスターが生命の危機に陥っているわけでないのなら動くことはない。それを補足して奪還するのは、組織でやることだと突きつけられているだけなのだ。
「わかっています、イアン・ヴァスティ。だが、納得はしていないだけだ。」
「わかっているならいい。とりあえず、わしらは、できることをやる。それでいいな? 」
「ええ、先ほどの続きを進めます。」
作品名:こらぼでほすと 襲撃2 作家名:篠義