こらぼでほすと 襲撃2
研究区エリアの一室へ、ティエリアは戻って、また、大きく息を吐き出した。ロックオンがリタイヤして、マイスター同士は、それぞれが協力できることは協力しようと決めたが、刹那は相変わらず、単独行動で、ティエリアがマイスターの責任は一手に引き受けていた。それをフォローしてくれていたのが、アレルヤで、ふたりで、どうにか新しいMSの開発に参加していた。そのフォローが突然なくなって、頼りのロックオンとも連絡が取れないなんていうのは、初めてのことで、ティエリアだって不安になる。どうして、自分が降りなかったのか、と、後悔した。どちらでもよかったのだ。
「僕は、あまり難しいことはわからないから、ロックオンのほうを担当するよ。すぐに戻って来るけど、何か欲しいものはある? 」
そう微笑んで尋ねてくれたアレルヤが勝手に組織を脱退することはない。何かあって戻れなくなったのは明白で、それが、さらに不安にさせるのだ。
・・・・どうしたらいいんですか? ロックオン・・・・
ただ、そう尋ねたいだけだ。たぶん、大丈夫だ、と、言って欲しいのだ。それが、何の根拠がなくても、ロックオンに言われたら少しは気分が落ち着くはずだ。支えてくれるものが、ふたつ同時になくなった。だが、組織は活動している。ここで停滞していることもできない。自分が担当している部分を、クリアーしないことには、地上へ降りることもできない。
・・・まずは、このノルマを片付けよう。それから、刹那と相談して動けばいい・・・・
きっと前を睨んで、ティエリアは、先ほどまで計算していたデータへアクセスを開始する。
数日は慌しく過ぎた。『吉祥富貴』のラボでは、ようやく一息ついたところだ。アレルヤは負傷していたので、そのまま医療ポッドに収容された。怪我の具合からして、十日は動きはないと判明したからだ。
「エターナルを一端、プラントのドックへ引き上げさせましょう。組織のほうは、まだ動けないはずだ。」
アレルヤを捜索する動きがないので、アスランは、そう提案した。ふむ、と、鷹が、そのデータを眺めて、頷く。
「だが、この暗号通信は曲者だぞ? アスラン。」
「王留美宛の暗号通信ですか? ムウさん。」
「ああ、これ、解析できてるんだろ? 内容は? 」
虎は、エターナルのほうで待機しているので、こちらは、鷹とアスランが仕切っている。
「ロックオンとの接触と情報の奪取が依頼されてますね。」
「ママは寺だったな。どっかへ移動させるほうがよくないか? 」
「いえ、今はトダカさんとこです。あそこは、まだ判明してないはずですよ。キラが、うちの情報は流れないようにシャットダウンしました。」
「んなもん、人海戦術でこられたら、すぐに分かるさ。」
ネット上からの侵入はできなくても、店から尾行されたら住居なんて、すぐにわかってしまう。トダカのところは、マンションへの侵入は難しいだろうが、外出されたら接触は簡単だ。
「けど、どこへ隠すんですか? 」
「うーん、それなんだよなあ。いっそのこと、別荘に戻すか? 」
「無理ですよ。それこそ、バレます。」
今、ロックオンの生体データでは、ラボへ入れない。それだけで、不審がるに違いない。下手をして、ロックオンが組織へ連絡なんかしたら、速攻でバレてしまうだろう。
「あのさ、ドクターから聞いたんだけどな。後二週間くらいで入梅するだろ? そうなったら、ママニャンはダウンするらしいから、それまでトダカ親衛隊で死守するっていうのは、どう? 」
整備が一段落したハイネが顔を出す。なんだかんだと情報を拾っているハイネは、いろんな情報を持っている。
「梅雨入り? 」
「そう、入梅だ。寒暖差と気圧変化が激しくなると、ママニャンは具合がよくないんだとさ。」
独り者の遊撃隊のハイネは、ロックオンとつるんでいることが多い。だから、体調についても、いろいろと詳しい。季節の変わり目になると、ダウンしているから、そこいらのことは、ドクターに確認しているのだ。
「なるほど、そういやそうだな。」
じじいーずたちで体調の悪さを自覚させた時も、台風の前にぐったりしていたから、鷹も納得する。ダウンしてくれれば、勝手に動き回ることはないから、隠すのは容易い。いつもはダウンさせないように気を配っているが、今回限りは、ダウンさせてしまったほうが安全だ。アレルヤロストがバレたら、どうせダウンするのだ。それなら、早めにダウンさせて療養させても同じことだ。
「二週間か・・・・トダカさんとこの親衛隊が協力してくれるなら、それでいくか。あいつ、なんだかんだで裏技とか知ってるから、ここに侵入は可能だろうからなあ。できたら、トダカさんとこへ押し込めておくか? 」
元スナイパーのロックオンは、裏稼業をやっていたから、建物への侵入とかデータの抜き取りなんてことはできるはずだ。極力、ラボには近づけたくない。
「そういうことなら、ラクスのところに居ればいいんじゃないの? ムウさん。ドクターは、あそこがホームグラウンドなんだし、部屋も一杯あるよ? 」
「おおっ、キラっっ。それ、ナイスアイデアだ。」
歌姫の本宅は特区内にあるが、セキュリティは最上級だし、知り合いでない限り侵入は難しい場所だ。こっそり秘密の城塞なんて徒名までついてるぐらいに守りは堅い。なんせ宇宙規模で有名な歌姫様だ。さすがに、ここへ捻じ込んでくるバカはいない。そんなことをしたら、いろんな報復が、こっそりなされてしまうのは、裏では有名な事実だからだ。
「アレルヤが、医療ポッドから出てくるのが十日後だから、それまでに収監場所や処分も決まるな。実働部隊を動かすことになっても支障がない。」
アスランも、それはいい、と頷く。最悪の処分が決定された場合、ラボも宇宙にいるエターナルも、アレルヤ奪還に動く。その騒ぎを知られないためにも、できたら、世間と隔絶されたところにいてもらうほうが都合がいいのだ。エターナルを地上に降ろすとなると、それは、報道されてしまうことがある。歌姫の船というのが判明しているので、歌姫のパパラッチたちは我先と、その雄姿を報道しようとするからだ。もちろん、表向きの理由はつけるから問題はないのだが、勘のいいロックオンは、何事だと勘ぐる可能性がある。
「とりあえず、キラ。カガリ嬢ちゃんに、トダカさんとこの親衛隊の借り出しを依頼してくれ。」
「うん。」
一応、ロックオンの身辺警護を頼んであるが、トダカ親衛隊を借り出したわけではなかった。親衛隊員たちの休みを利用しての依頼だったから、本格的に借り出すことにした。王留美は。経済界では大物だ。かなりのエージェントを使ってくるだろう。それに対抗するには、完全な警護体勢が望ましい。
「トダカさんに事情説明してくれないか? ハイネ。」
「了解。」
では、王留美側の動きも把握しておこうと、アスランは、そちらのシステムへのアクセスを開始する。コーディネーターは伊達ではない。こういうネット上の情報戦は、アスランも得意だ。
作品名:こらぼでほすと 襲撃2 作家名:篠義